僕自身にはハイリゲンシュタットは縁もゆかりもない土地ですが・・・と言ってここでハイリゲンシュタットを持ち出してもなんのことかわからない人を増やすだけなので中断。そもそもアルカディアという土地は現実にはペロポネソス半島にあり、ハーロックさんが云うハイリゲンシュタットは彼の心中に根差した理想郷としての故郷であるはずです。
つまり俺には何の関係も無いんだからいちいち書き出すなと。
それでも、理想郷や楽園になぞらえる故郷やそれに準ずる街や土地というのは、僕にもあります。80年代を契機に一気に活気が失われていき今や当時を見る影もないのですが、そこを指摘するのは今尚その街に住まう人々にとって無礼なこととなるので言葉に気をつけなくてはなりません。でも僕の中では、江戸期からずっと成長と栄華を続けてきた城下町であり商都の、最後のきららめく時代が、たぶん僕が過ごした頃だったのです。
そんな街に今になって、霰が国家資格を取得する必要から実習を受けることとなり、この夏に通いつめるから「街を案内してください」と頼まれまして、歩いてみたらば80年代に隠れ家としていた喫茶店やら書店やら模型店はほんとにきれいさっぱり無くなっていて、そのくせ150年近くやっている蕎麦屋や天ぷら屋は健在なのです。そういえば僕自身が街に通った頃、「なんだか古びた街だなあ」と思ったのが第一印象でした。
当時以上にうらぶれた街ではあるのですが、ふと思い立ったことは「今は眠っている」のかもしれないということ。無くなってしまったものは取り戻せないけれど、掘り起こしていけば、素材はまだ残されているような気になります。霰がそういったものに触れることができるかどうか、ちょっと楽しみですが・・・あまりほじくり返されると、とーちゃんの悪行も暴かれかねないんだけど。