Trend-Blue

  ~懲りない傾向~

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ肆

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マンモスタンカー「マイティ・10(T)」のカタパルトに移設されたピブリダー、エキゾスカウト、コンクルーダー各機が飛び立つ頃、夜はすっかりと明けており、あの深海の闇の中での戦いなど嘘ではなかったのかと思わされる快晴となった。MJ号の艦載機には高度なAIナビゲーションが導入されて久しい。以前は射出と着艦の際にオートマチックシステムが働いていたが、これをもってしてもパイロットへの心理的負荷は大きかった。

235mのMJ号に「甲板上ではなく射出口ないし着艦口」に着艦するというテクニックは空母への着艦よりも難しいのだ。
実際にMJ号では何度か、艦載機の不時着による格納庫火災を経験し、狭く限られた空間内での着艦安全性を満たすには、従来のATシステムでは不備が大きいと判断された。
そのため、各艦載機ともVTOL能力の追加装備を施され、AI誘導によって安定的な着艦が可能になった。その反面、特に小型戦闘機のピブリダーには重量増加や航続距離の短縮化といった弊害も生まれている。
彼らを受け入れるカタパルト潜航艦の待機ポイントまでは、ピブリダーが飛べる距離圏に収まっていた。
「これは・・・機体に任せないとおっかなくて降りられないよ」
エキゾスカウトを操縦する源田も予備機の寺川も、潜航艦上部に設置されている着艦用甲板の小ささにうめいた。
「横風の抵抗を察して船首を風上に向けてくれているな。だいぶ楽に降りられるはずだ」
コンクルーダーから英が通信してくる。
「それでは隊長からどうぞ」
当とマリを乗せたピブリダーが旋回降下していく。
垂直着艦した各機に、潜航艦のクルーが次々ととりつき、着陸脚の固定と機体への結束ベルトをフックがけすると、それぞれの機体を囲むように甲板から格納板がせり出し、展開して機体を覆う。これで艦が潜行しても甲板上では海水とその水圧から機体は守られる。
全クルー、MJメンバーが艦内に入り終えると同時に潜航艦は波を切り裂くように海中へと姿を消していった。

水深200mにほど近い海底からテーブル上の巨大な岩棚が隆起している。緩く傾斜を持つ岩棚は海上に僅かに突き出た岩礁の裾野だった。
岩棚の壁は海面下100mまでいくつかの突起や壁を形成しており、その一角に巨大な洞窟が開口していた。
「MJ号でも楽々と進入できそうな広さだな」
艦内モニターに映し出される海底の様子を見ながら、天田がつぶやいた。
「新型潜水艦の開発研究をしていた旧海軍の基地跡だという話だ。我々の第二ドックとされているが、表だってはメタンハイドレートやマンガンなどの採掘調査基地として使われているんだ。まあ、その採掘調査基地も表向きは海上の岩礁地帯に設営されたプラットホームを示すんだが」
村上が天田の隣でモニターを凝視する。
「しかしこの規模は旧海軍時代のものではないね。どれほど時間をかけたかわからんが、矢吹コンツェルンの手で大規模な拡張工事が行われたのだろう。ひょっとすると三浦半島のドックよりも大きいかもしれん」
「あんな馬鹿でかいタンカーを運用するくらいですからね。岩礁があるにもかかわらずあれが使われてるって事は、あのタンカーにも潜水能力があるんじゃないですか?」
天田は冗談のつもりで言ったのだが、実はMT号にはその能力が備わっている。
潜航艦が接舷した。岩棚内部を掘削して作られた海底バースだ。
「こういう海底の地下空間って、気圧調整とか温度管理とかどうなってるんでしょうね? あまり耳は痛くならないし」
「さてね、海水質量と岩盤質量とでかなりの圧力がかかっているとは思うが」
ドックの職員に案内された部屋も広く快適だった。
唯一の不安材料は、ここへ持ち込むはずだったMJ号が事実上撃破され作戦行動が続行できないことだ。
さすがの当も苦虫をかみつぶした面持ちだ。
そこへ勢いよくドアを開けながらポロシャツに白衣を羽織った若者が現れた。
「Sorry to have kept you waiting! ここの技術系総括やってます、トーマス・ナリタですっ」
トーマス・ナリタ・・・はて?と、当は思った。
T・ナリタ博士による宇宙装備計画と聞いている今回の作戦について、当は、人違いをしていたことに今さらながら気がついたのだ。
「マイティジャックのメンバー・・・3人ほど不在ですが・・・と、隊長の当です。今回は作戦と計画を反故にしてしまい・・・」
「captainオートネからデータをもらっていますが、あれは最低でも3年は修復にかかりますね。Well, sometimes that happens」
妙に軽いノリでしゃべりまくる、日本語と英語が半々の違和感に天田は多少いらついた。
しかも日本語が堪能だ。
当はまず、MJ号のことではなくナリタ博士自身のことをたずねた。
「認識不足で大変失礼ですが、実を言うと私の知っていた成田博士とあなたは・・・」
「You bet、 Sure」
トーマス・ナリタはあっさりと言ってのけた。
「He is an excellent engineer.ミスター・トオル・ナリタは僕の心の師匠です。僕は日系二世なんですがたまたまナリタ姓の家庭に生まれて、なんの因果関係もなくこのファーストネームです。そのことそれ自体が因果と言うより運命だなあと衝撃を受けたのが7歳のときで、あの偉大な技術者はもう亡くなっていました」
「博士は・・・いままだ二十代くらいかね?」
そう尋ねた村上も「博士号」を持っているから博士のあだ名で呼ばれているが、目の前の青年からは村上のような科学者然とした雰囲気は伝わってこない。
「27です。『Caltech』を1年落第してドクターコースを出たばかりですが、ここには3年ほど前から出入りさせてもらっています」
「カリフォルニア工科大学か、そりゃ優秀だねえ」
「いいえー、ジェット推進研究所に希望を出したんですけど、いらねーと言われましてー」
なんとも憎めない若者だ。聞けばMT号の開発を専任で行ったというが、彼の専門は宇宙関係らしい。
「MJ号には母艦と言わないまでも遠隔地での補給とメンテベースが必要だと思いまして。そうしたら矢吹コンツェルンが大型タンカーのスクラップを買い付けていたのに手つかずだったんで、僕が改修アイデアを出しました。といってもあれって、30年くらい前に日本のマンガで東京湾から源潜を脱出させるって話があったんですよ、それの真似」
ただ・・・と、トーマス・ナリタは苦笑いした。
「タンカーに短距離・短時間の潜水艦能力を持たせたことは、ギミックとしても船体強度的にも自慢なんですが、致命的な欠陥を持ってます。それは、母艦であるにもかかわらず、MJ号の両翼を含めた全幅より船体の方が狭いってことで」
それを聞いた一同はつい、思わず吹き出し、笑い出した。
さっきまでのどんよりとした空気が一変する。
「まさか、あれにアストランダーロケットをくくりつけて飛ばそうとか考えてるんじゃないだろうね?」
「No problem。マイティ・10はあくまでも支援母艦です。でもあのサイズ、長さは伸ばせても幅員を変えられないので、MJ号の両翼を折りたためるように改良しました」
ん? と全員がトーマスに注目した。
「MJ号にそんな機能はついていないぞ。どういうことだ?」
あっ、予定より早くしゃべっちゃったよと、トーマスは頭をかきむしった。
sorry!、昼食が配膳されるまでの間を持たせようと思ってたんだけど、それよりもMJ号ですよね」
「当然だ!!」
全員が総立ちとなって叫んだ。

トーマスは部屋を出て彼らが上陸した桟橋フロアを横切り、隔壁の方へ歩く。マイティジャックの8人がこれに続く。
鋼鉄製の隔壁はスライド式の巨大なドアとなっていた。が、もう何年も動かした様子はない。
天井まで届く扉は、人間にとってはいちいち動かす必要は無い。下方に一カ所、高さ2m程度の小さな扉も付いている。トーマスは腕時計を操作してこのドアの電磁ロックを解除した。
「こちらです。どうぞお入り下さい。you guys will be surprised」
隔壁の向こう側には同じサイズの空間が広がっていた。
しかし桟橋と異なるのは工場区画のようにも見えるホイストクレーンや様々なアーム、床面に何台も配置された作業車両と、かなりの建て込みようだった。
「・・・これは・・・!」
「まさか。こんなものが」
誰も彼もが息を呑んだ。
「プロフェッサー・トーマス! これは何だね?」
「何だと言われても・・・見たままの代物ですよ」
「だってこれはMJ号じゃねーかっ」
「落ち着け源さん。でもこれ、MJ号だよなあ」
「なんかちょっとだけ違うみたいだけど、MJ号よねー」
作業車の奥に超大型のキャタピラ式台車が据え置かれ、その構台に見覚えのある艦影が載せられていた。
間違いなくMJ号だ。
トーマスが口を滑らせたとおり、主翼は付け根付近から70度ほど折りたたまれている。その主翼の内側、本体後部両舷には今までなかった大型の推進ポッドが取り付けられていた。
「あれか、アストランダーロケット」
当が口を開いた。天田が続けてうなる。
「すごいなこれは・・・俺たちこんなこと聞かされていませんでしたよ」
「私らもだ。まさか二番艦が存在するとは」
「はーい、Please pay attention!」
トーマスは両手をあげてざわつく一同を制した。
「この『MJ号二番艦』は、chairmanヤブキの指令で皆さんが乗り組んでいた艦と同時期に建造されたものだそうです。現在まで皆さんのbattle recordを解析し、艦内の各所で機器設備の最適化や新機軸のメカニズムに更新が続けられています。就航順序でいくと本来はMighty-Kingになる予定でしたが、それだと僕の手掛けたあれがMighty-Queenになるんで、『MQ号』って『Q』と被ってやだなあってあれをMighty-10としてもらいました」
当は巨大な、しかしよく見慣れた艦影を見下ろしながら聞いた。
「それでは、この艦は『MJ号二番艦』でいいのかね?」
トーマスはにこにこしながら「of course」と告げた。
「12は今のところ欠番扱いで、いずれ『Ace』とか『King』の防衛メカニックが誕生していくんでしょう」
「それってなんだか合体と変形しちゃいそうでそんなのいやだぞ」
寺川が冗談じゃないぞという冗談を言うのだが、トーマスは「Is that so?」と、不思議なことを言われたたという顔になる。
「いくらか外観も変わったようだが、どのくらい改修したんだ?」
天田が話題を修正した。
トーマスは話を続ける。
「本体については最大の変更改修として、メインノズルを小型高出力化してツインノズルとしました。その前提として、動力炉は核分裂でも核融合でもない、まったくのブランニューシステムを搭載してあります。尾翼の数も増えましたがあれはツインノズルに対応したものです」
流暢な日本語で展開するトーマスの解説は歩きながら繰り広げられた。
PBBを経由して艦内に移動したメンバーは、そのままブリッジに案内され、MJ号が内装変更を受けた理由を知ることとなった。「二番艦」のブリッジは、つい先日まで慣熟操艦を行ってきた新型ブリッジと同じ配置だったのだ。
「エンジンが新しくなったということだが」
機関員である服部が質問する。
「それでも宇宙用ブースターが必要なのか?」
「There are some issues」
ブリッジのメインモニターに弐番館の透視図を映し出しながら、トーマスは説明した。
「アストランダ―ロケットブースターは、第一宇宙速度を突破するための用途と考えてください。あれかなりheavy weight。宇宙に行ってしまえば質量と慣性の課題はありますがそれはまだいいんだけれど、大気圏内での通常飛行には左右併せて800トンも重くなってしまいました。今度のミッションが完了したら取り外す予定です」
MJ号の通常時の重量は28000トンだ。それが800トンもの増量となっている。なるほど機動性を維持するためには加算される重さは厄介だなと、当も感じた。
「それというのも、アストランダ―ロケットは我がマスターT・ナリタの設計のままで、従来の液体燃料方式です。Maybe it’s disposable、そんな装備ならコストも考えないと」
トーマスの言葉は一同にとっては意外だった。誰もがアストランダ―ロケットに新エンジンが積まれていると思い込んでいたからだ。
「マスターの発案と設計ですから、アストランダ―は何も心配ありませんよ。新エンジンはもちろん僕の自信作ですが、As you can imagine、一度も飛んでいません」
「プロフェッサー・トーマス、それで、新エンジンのシステムとはどんなものかね?」
村上が聞いた。
「I will answer。it is Annihilation」
トーマスは振り返りながら腰に手を当ててそう答えた。
「そんなばかな・・・反物質をどうやって手に入れるんだ?」
英は信じられないという反応を示した。
「antimatter it exists。話がもつれるといけないから、英語使うのやめます。反物質はですね、意外に身近に生成されるんですよ。それはスーパーボルト、つまりカミナリです」
あ、という表情をしたのは村上だった。源田がそれに気づいた。
「稲妻落としだ」
「だから・・・雷おこしでしょ?」
「『熱い氷』を粉砕したあれですか」
「少し違う。あれは対消滅には至っていない超振動だった。対消滅とは・・・」

電子と陽電子が引き合いに出されるように、通常の物質と反物質が接触すると「対消滅」が生じる。双方の質量は100%、エネルギーに変換される。これは核分裂や核融合の比ではない超高効率であり、1グラムの物質、反物質の対消滅は都市一つが消し飛ぶエネルギーとも言われている。
雷が放つエネルギー量は落雷一回にで15億J(ジュール)と考えられている。約400kWhの電力に相当し、家庭用ならば二か月分の使用量に匹敵する。
落雷の際、そのエネルギーの一部は大気と接触し熱エネルギーに変換される。この瞬間、大気は約30,000℃にも達する。このときの電気としてのエネルギーは約1億ボルトの電圧を発生させている。それが大気中の窒素などに作用し反物質を瞬間生成すると言われている。
「これを人工的に作り出し、安定させ持続させるのが僕の理論です。今回はアストランダ―ロケットにミッションを譲りますけど、僕のエンジンが成功すればブースター無しでも宇宙へ行けるようになります。いよいよこれを立証させることができる!」
「おいおいおい、ちょっと待て。作戦続行とはいえ俺たちモルモットになるのかよ」
「ああ、ご心配なく。僕も乗りますから」
「そそそ・・・そうじゃねーだろうっ。お前電気を甘く見過ぎてるぞ!」
「If so, will you stop!?」
源田とトーマスの口論が始まりそうになったので、英が2人を諭す。
「まあまあ、どんなものにも最初はある。科学技術はトライ&エラーの繰り返しさ」
「しかし先生、いきなりエラーは困るじゃないですか」
「考えてもみろよ。28000トンの鉄の塊をなにげに飛ばしてきたんだ。235mの巨艦が飛ぶってだけで、我々はもうSFを超えているんだぜ」
「・・・冷静になったら余計に恐ろしくなってきた。隊長、俺たち勢いで出動してましたけど、こんな不確定要素だらけの状態で戦えって、無茶にもほどがありますよ!」
源田は当に食ってかかった。つい先ほどまで軽口をたたいていたとは思えない権幕だ。いや、軽口それ自体が、彼の抱く共振を彼自身が抑えようとしていたリアクションなのだ。
「装備は万全かもしれない。しかし誰もそれを試してもいない。そのうえ俺たちの誰一人、宇宙で活動したことなんかないんですよ! 俺、あの深海戦で肝が冷えました。MT号の救援がなかったら助からなかった。宇宙にはその支援なんか期待できないじゃないですか」
「おい、言い過ぎだぞゲン。宇宙行きには大きなリスクを背負うことくらい隊長だって百も承知だ。だがな、我々意外に誰がMJ号を扱えると言うんだ!」
「しかし副長っ、俺は・・・おれはもうプレッシャーを抑え込めないんですよ」
源田の弱音に何かを言おうとした天田を当は止めた。
「副長、ゲンの言うことももっともな話だ。それこそ勢いで宇宙に上がってしまえれば良かったかどうか、俺にも判断しにくい」
当は源田に対して静かに言った。
「ゲンよ、深海戦では無理を強いた。君がこれ以上行動できないというならドックに残ることを許可する。我々は軍隊並みの装備を有するが軍隊であってはならないと日頃から考えてきた。戦えなくなった者にこれ以上無理強いはしたくない。仲間を失うことの方が耐えがたいからな」
当は振り返って全員に同じことを告げた。
「これはゲンだけの問題ではない。これ以上戦えないと感じる者は下艦してよろしい。プロフェッサー、最悪今のMJ号は独りで動かせるかね?」
トーマスが不安そうな顔のまま答えた。
「あの・・・比較の対象にもならないんですけど、極論を言えば『200m級のピブリダー』を操縦する感じというか・・・かなりの操艦支援をAIが補佐できます」
「隊長、それこそそんなのは無茶すぎます。俺は一緒にやりますよ」
天田が詰め寄る。天田に続いてマリが大きく頷いた。
源田はうなだれたままだ。その肩をそっと叩きながら英も当に同意の仕草を見せる。村上は既にトーマスとMJ号二番艦の操舵システムやエンジン制御についてディスカッションを始めていた。これに服部も加わる。
「あー・・・さっきやだぞって言ったけど、マイティ・キングなんて巨大ロボが宇宙で待機してたら良かったですよねえ」
寺川は笑えないジョークを呟き、操舵補佐席に座り直した。
当はここを潮時ととらえて全員に言を下す。
「正直なところ、背に腹は代えられん。『二番艦』に賭けようじゃないか。プロフェッサー、あとどれくらいでこいつは出撃できる?」
「四時間後、MT号が帰還次第、gantryごと積み込み出航します。このドックからは打ち上げできないし、Qにここを察知されてはならないから」
「洋上で打ち上げるのか」
「That’s right」
「聞いてのとおりだ。我々には一刻の猶予もないがとりあえず四時間を得た。これより二時間の強制就寝を命ずる。さらに二時間で食事なり風呂なりを済ませてベストコンディションを整える」
「待ってください!」
源田が叫んだ。
「みんな凄いよ。俺なんか足手纏いになりそうだけど・・・隊長すみません、前言撤回させてください。副長にぶん殴られないうちに腹をくくります!」
「おいゲンっ、なんだその言い草はー」
天田が源田の鳩尾を軽く軽く小突くと、その場の全員が笑い出した。
当の顔には再び不敵の笑み浮かんでいた。
「それでは各自持ち場へ戻る」
一同、S・M・Jの合言葉をもってその場を解散した。

 

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

ああっ、打ち上げできなかった・・・

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ参

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「あいつら全部囮だってことですか」
天田は半信半疑で聞き返した。当は推論を明かす。
「俺なら炸薬満載して突っ込ませる。全長80m級の魚雷だよ、至近距離で自爆されたらひとたまりもない。あれはおそらくそういう仕掛けで自動操艦されたポンコツ潜だ」
「もし満載しているのが核魚雷だったら・・・」
「それは無いな。こっちを拿捕しようというなら艦体をへし折るのは構わんだろうが、核汚染させてしまえば奴らだって手出しできなくなる。3隻のうち有人は1艦のみだ。左舷と正面のやつがオートマチック艦と見る。各艦にノイズデコイを撃て。こっちはさらに潜航する!」
源田の隣で火器管制を任された寺川が対潜ミサイル発射管から3発のデコイを撃ち出す。マリのレシーバーに耳障りな音響反応が伝わり、三方に離散していくのがわかった。
マリはレシーバーを少しずらしながらMJ号の位置情報を確認した。
「伊豆・小笠原トレンチ、10時の方向4000mです」
「まさか海溝に潜るんですか?」
さすがの源田も当に直接聞かざるを得ない心境だった。目前に迫る海溝は9000mの奈落の底たが、そこに至る海溝の「縁」は既に5000m級の超深海なのだ。MJ号の潜航深度限界は1500m程度と覚えさせられているものの、隊の創設以来そこまで潜航したことはない。
「負ければそうなるが、そのつもりはない。逆にあの厄介なやつらを地獄の底に突き落としてやりたいんだが」
そう言いながらも、当は現状、逃げるしかないなとも思っている。仮に彼の想像通りだとすれば、敵潜を接近させ過ぎた。迎撃が成功しようとも爆圧のあおりを防ぎきれない。
逃げるとすれば全方位の何処に進路を取るべきか・・・と逡巡しているところへ村上の声が響いた。
「発振器の移設完了! 隊長、これでうまく行くと思うが融合炉のプラズマ再生成まで時間を要する」
「・・・どれくらいだ?」
「那珂の実験炉では5時間もかかっていたがそうだな、同時に炉の再起動も進めて30分でなんとかする。ただし飛べるまでにはもっとかかる」
「すぐにやってくれ」
「S.M.J」
村上は即席で作った操作機器と既存のマニピュレータを連携させ、レーザー発振器を遠隔操作移設し、発振器の出力調整を済ませていた。太陽光集積パネルから発電し蓄電されている電力の30%を消費することになるが、この30%という出力も極めて大電力だ。
「服部君、融合炉の再起動用意。こっちは冷却系を復旧させる」
「エスエムジェイ!」
「源さん、悪いが電力を分けてもらうぞ、名付けて『稲妻落とし』だ」
「えっ? 『雷おこし』じゃないの?」
源田がとぼけたことをつぶやく間に艦全体を大音響と振動が揺さぶりをかけた。レーザー発振器からの高出力電撃が冷却系に衝撃を与えたのだ。
一瞬、ブリッジ内の照明がブラックアウトし、非常電源に入れ替わる。計器類も一部の設備が沈黙した。服部が状況を知らせる。
「全電力、残り12%!」
「大丈夫だ、うまく行っている。先生!さっきと逆の要領で発振器を炉に戻してくれ」
「敵潜1艦近いです!」
「直撃だけは避けろ、対潜魚雷全問撃ちつつ回頭っ」
マリが叫ぶ。天田は咄嗟に回避運動を命じた。
左舷から接近してきた潜水艦がMJ号の回頭に併せて並走するように近接し、対潜魚雷と接触し炸裂した。
当の予想通り、通常炸薬の爆発だったがその威力は魚雷の破壊力をはるかに上回り、左舷の射出口付近で装甲版の歪みが起こる。更に最悪なことに、左翼先端の補助推進ユニットが誘爆して吹き飛んだ。
MJ号の艦体は左舷を大きく持ち上げられローリングしながら剥離した破片をまき散らした。
「みんな大丈夫か!」
「こんなのをもう一発くらったら艦が持たないぞ」
爆装潜水艦はMJ号の艦底部側に潜行している。MJ号はローリング状態にあり右舷を晒し始めた。艦内の乗員は着座しシートベルト固定していたことで振り落とされずに済んでいたが操艦などできない。源田は必死に操舵桿を固定しようとしがみつく。
機関制御をしている服部が叫んだ。
「源さん頑張れ、核融合炉アイドリングまであと3分!」
そのとき右舷で強大な爆裂が起こった。
主翼がねじ曲がり基部からもぎ取られる。だが浮力までは奪われていない。水中姿勢制御のために、源田は舵をあきらめ水流ジェットスラスターの操作盤を使って艦の回転を止めにかかる。
「隊長! これ以上はフネを安定できませんっ」
「そうだろうなっ、だがこの深度ではハイドロジェットもコンクルーダーも出せない。対潜ミサイルで可能な限り応戦する」
それを受けて天田が残った敵潜に斉射できる発射管を指示した。寺川が素早くミサイル発射ボタンを押す。
「敵艦上方から多数の個体反応あり、これ爆雷と思われます!」
マリの索敵報告は天田にもすぐには理解できなかった。
「こっちもやられるぞ。しかし避けようがない」
「待ってください、この爆雷は誘導されているみたい。敵潜1点に集中していきます」
そのさなか、今度はMJ号のブリッジ右舷上方に何かが衝突する振動と衝撃音が響いた。
『・・・つな。こち・・・味方だ。・・・から救助さ・・・いる』
突然、ブリッジ内に音声が伝わり始めた。
「どういうことだ?」
「ひょっとすると・・・有線電信機器か何かが撃ち込まれたんじゃないか?」
当のつぶやきに英が答えた。
「今の衝突音か。しかし何者だ?」
『マ・・・ジャックの諸君、・・通話はケーブル長・・・ぎりぎりだ。そのまま浮上され・・』
「浮上できるか、ゲン?」
「そりゃやりますよ。バラストタンクのバルブがいかれてないことを祈ってください」
「敵潜はどうなっている?」
「爆雷らしきものが誘爆中。こちらのミサイルも運よく命中したようです。沈降続けてます」
マリに続いて服部が報告する。
「融合炉アイドリング完了。あまり安定していないが全電源戻せます」
「よおし、鬼が出るか蛇が出るか。声の主に頼ってみる。微速浮上、艦体の破損が心配だ」

見るも無残な姿となったMJ号は右翼を失い左翼も半壊している。ただ通常の潜水、浮上の際にはなかなかの抵抗を起こす部分でもあり、安定性を欠いたとはいえ操艦には別の意味で不幸中の幸いとなっていた。
MJ号は海流の影響を受けてふらつきながらも、ゆっくりと浅深度へと浮上を続ける。
当は口には出さなかったが、ここまで艦体を破壊されては第二ドックに辿り着けても宇宙に行くことができないと悟っている。洋上にいる「味方」にしても、どこまで信用できるものかは不明のままだ。
依然として不利な戦況であることには変わりがない。
「隊長、あれを・・・見えますか?」
寺川が窓越しに上を見上げる。ソナーにもそれは反応が出ていた。
「ずいぶんでかい船底だな」
「MJ号より巨大です。あ・・・船底が開いています」
「先生あれは何だろう」
当は平時、貨物船の船医をしている英に訪ねた。
「おそらくタンカーだと思いますが・・・それにしても大きい。MJ号どころか空母並みだなあ」
『マイティジャック、応答可能ならMJE周波数で送れ。このケーブルは受信は出来ない。本船を目視出来たら船底ゲートに入られたし。翼が無くなっている今のMJ号なら幅員に問題はない』
「マリちゃん、エマージェンシーコードで了解したと伝えてくれ。どうやらQの二段構えの罠ではなさそうだ」
「大丈夫でしょうか」
「こっちにはまだ弾薬がある。罠だったら敵の腹の中で盛大に打ちまくる。博士、『稲妻落とし』で手間をかけた直後で済まないが、全艦載機の組み立て待機を頼む」
「脱出用かい? それならピブリダーの一機は福座にした方がいいかな」
「それで頼む。予備のエキゾスカウトも使えば全員分乗できる」
「隊長、謎の船に最接近。向こうから誘導ビーコン来ています」
源田が伝えてきた。行け、と当は指示する。
全長235mのMJ号用にあつらえたとしか思えない巨大船影の底に開かれたゲートに向かって、源田はあぶら汗を流しながら操艦を続け、船内に艦体を浮上させていった。
船内は予想通りの広大な空間を有しており、与圧によってMJ号の喫水線に近い水量の海水と、甲板上を行き来できるだけの大気に満たされていた。
定位置に達したMJ号を両舷から支えるようにアームが伸びてくる。鈍い金属音とともにアームが接舷し、艦体を固定した。
『船内の与圧量はそのまま甲板に出るには危険だ。すぐにPBBをかける』
今度はMJ号の通信機器に対して語りかけてきた。
「やれやれ。大負けに負けたもんだよ。フネの損傷は見たくもないほどでしょうな」
天田が毒づいた。
「どうしますこれから?」
「支援が来たということは、作戦を続行しろというのが本部の意向だろう。どうやって続行するかは・・・この段階では何も思いつかん」
当はこの段に及んでも冷静さを失わない。それでもMJ号無しの作戦遂行はハードルが高すぎる。
「隊長、パッセンジャーボーディングブリッジが接続されました」
マリが安堵の表情で報告する。当はようやくシートベルトを外し席を立った。
「全員下艦。命の恩人に礼を言いに行こう」

低い機械音が響いてくる、静かな船内だった。
どれほどの大きさなのかは見当もつかないが、艦外に出ると桟橋からずっと、3連結のカートに乗せられ船尾方向へ彼らは運ばれていく。
「そうか。もしかするとこの船は“Seawise Giant”かもしれない」
英が何かを思い出した。
「確か全長だけでも450mに及ぶ、世界最大のタンカーだった船だ」
「だった・・・とは?」
「ええ。1970年代に作られ、80年代に進水するまでに一度輪切りにされて船体の真ん中を増設して巨大化した船ですよ。最初はギリシャからの発注でしたがいろいろ問題点が指摘されて最終的には中国の海運が買い上げ、船体の延長をやったはずです。こういうマンモスタンカーが群雄割拠した時代があったんですが、シーワイズ・ジャイアントは別格にでかい」
「てことは、この手の巨大船は廃れたんですか」
「その通りだ寺川君。そもそもこんな船、スエズ運河を通れない。マラッカ海峡も浅くて運行できない。そうこうしているうちに原油価格の高騰など海運不況も手伝って、大型タンカーと言ってもせいぜい32万トンくらいが上限になっていった」
「寄せられる港も限られそうですね」
「そうだよマリちゃん。80年代にはイランが用船して原油の積み替え浮体基地として使われていたところをイラクのエグゾセで撃沈された。そのあと修理されてノルウェーの管理になったりいろいろ引き回されて、その都度船名も変わって、最後には『ノック・ネヴィス』と呼ばれてカタールに行った」
「激動の船旅ですね」
「そうなんだ。しかし15年くらい前に廃船・解体されたはずだ」
英の講義が終わったところで、カートはエレベーターホールのようなスペースに滑り込み、停車した。2つあるエレベーターの片方がドアを開けていた。
「どうやらブリッジに案内されているようですな」
「もう怖いものなしだよ。上がろう」
機材運搬にも利用するのか、エレベーター内は8人が余裕をもって乗り込める広さだった。
ゆっくりと上昇が始まる。
ややあって「箱」の動きが停まり、ドアが静かに開く。
ブリッジだとひと目で分かった。操舵主らしき男と3人のクルーがそれぞれの持ち場についていた。

彼らとはまた別の人物が振り返り、笑った。
「ようこそMT号へ。全員生還できて何よりだ。私は本船を預かる大利根七瀬だ」
男の歓迎に、当が代表して答えた。
「大利根船長、まずは救助支援に感謝します。我々の御同輩とお見受けして名乗らせていただきますが、各員の自己紹介は控えます。私がマイティジャックの隊長、当八郎です」
「当隊長、MJ号は残念なことになった。だが生き残ることが先決だ。君たちには悪いが、準備ができ次第、第二ドックに飛んでいただく。いやなに、この船だとせいぜい20ノットしか出ないんでね」
「あのぉ」
源田が当の背中越しに手を挙げた。
「操船担当の源田明です。二つお聞きしたいのですが」
「なんだね、言ってみたまえ」
大利根が質問を許可した。
「ここへ来るまでにMJ号を目視できませんでした。外から見た損傷を気にしています。もう一つは・・・どうやって第二ドックへ行けと・・・」
それは全員の代弁でもあった。目まぐるしく変化している状況を呑み込み、整理する必要があるのだ。
大利根は答えた。
「話しやすい方から行こう。第二ドックへのナビゲーションプログラムを君たちの艦載機に提供する。指定ポイントに本船よりは小型のカタパルト潜が待機する。着艦、係留後に潜行しドックに向かう」
「潜水空母・・・」
「空母というほどのものじゃない。甲板上に四機も乗せたらそれで満席だ。さて源田君からの答えにくい最初の質問だが、本船ドックの映像を見たまえ」
大利根の部下の一人が計器盤を操作し、ブリッジ前面天井に敷設された液晶モニターが投影を開始した。
マリが声に出さずに悲鳴のようなうめき声をあげた。一同、息をのんで映像に見入る。
「うひゃあ・・・こんなのどれだけ修理にかかるんだ? というか、これ修理できるんですかねえ」
「素人目に見積もっても二年や三年は必要じゃないかな。だが今、それを憂いている暇はない」
「ということは」
天田が口をはさんだ。
「副長の天田一平です。行けというからには、第二ドックに何か逆転を撃つ手立てがあると」
「向こうにその責任者がいる。そこで指示を受けなさい。本船が追い付くまでに準備と休息の時間を得られる」
「隊長?」
天田の表情を読み取った当はゴーサインを出した。
「手分けして艦載機の発進準備にかかれ。博士が途中まで作業してくれていたのはラッキーだったな」
「まあな、隊長の即断の賜だよ。それじゃあ行こうか」
村上の合図でメンバーたちは踵を返す。
「当君、少し時間をもらえるかね」
大利根が当を呼び止めた。
「・・・なんでしょう?」
「私の事務室へ行こう。手短に済ませる」
大利根は目じりにできた皴が動くような笑顔で言った。
何か懐かしいものを眺めるような表情だった。

 

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

いよいよ長くなってしまいました。もはや90分の尺は諦めて、なるようになれですが、これ年内に書き終わるのか?

実は運転者の方が速い?

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意外に伝わっていない児童誌掲載の設定ですが、「ジョーカー」には70年代既に衝突回避性能が備わっていて、車体側からレーダー波を照射し周囲の車両との安全距離を維持できるのです。それ以上に空飛んじゃうパトカーなので、当時は衝突しない車という部分は地味だったのかもしれません。でも21世紀の自動車には各メーカー鎬を削る安全性能の最先端に置かれていますから、「ジョーカー」の設定が原作者にせよ東映にせよ先見の明があったのです。

ただ・・・このパトカー、最高速度が時速500キロ。いやいや充分凄いんだけど、「ロボット刑事」のエンディング曲によれば♪アップだスピードマッハ1という歌詞があり、これは前後のフレーズを含めて歌ってみると、なんとなく「ジョーカー」ではなく「K」自身のことを言っている(走れ、走れK、Kという歌詞からしてクルマについての言及じゃない)。「K」自身の性能がとんでもないわけですが、彼の内臓捜査機器以上のツールや救助装備を抱えて走る非現実性から、「ジョーカー」にはちゃんとした存在意義や必要性があるんだなあと考えます。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ弐

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「着水する、衝撃に備え!」
源田が叫ぶ。天田は上空警戒を進めながら高速粒子ビームを撃たれた場合の対処を巡らせる。
「しかしなんだって船体の直接破壊を狙ってこない?」
「太陽光プラズマからの蓄電、40%消費。潜航すると太陽光集積はできません。もっともまだ夜明け前か」
服部が機関制御を続ける。
「3射目が来ます! 前方1キロ未満に着弾っ」
光芒が闇を切り裂いた。MJ号の着水進路が沸騰し相転移を始めた。
「源田、そのまま海中に突っ込め! おそらく『熱い氷』は海面付近だけでそう厚くはならない」
「隊長の勘を信じますよ! 艦首トリム45度で海面突入!」
「隊長、こんなときですけど本部から暗号受電してます」
マリが当に報告するが、海面突入の衝撃で座席から放り出されそうになり、当も必死にシートに背中を押し付ける。MJ号の水押し(みおし)が固体化していく海面を切り裂き巨大な艦体を沸騰する波にめり込ませた。この衝突衝撃は艦体のキールが受け止めるが艦内は上下左右に揺さぶられ続ける。両翼がもぎ取られるのではないかと、さすがの天田も一瞬の不安をよぎらせる。
冷却剤タンクの融解作業中だった村上と寺川も、作業中の機材事弾き飛ばされてしまう。幸いにも重量のある機材に押しつぶされることはなかったが、二人ともそれなりの打撲を負った。厚手の対放射線防護服を着ていなかったら、打撲程度では済まなかったかもしれない。
「なんて荒っぽい着水をするんだ!」
「怪我はないか寺川君、機材は今のでおしゃかになった」
「どうしますか。まだ融解が終わっていません」
村上は少し逡巡して意を決したように告げる。
「ブリッジに戻って奥の手を使う。しかし蓄電池の容量も使い切るかもしれん」
「でも融合炉が使えるようになりさえすれば」
「そういうことだ。だがもう一度プラズマ生成するまでには時間がかかる。急ぐぞ」

安定を欠いたまま、MJ号は海中に飛び込んだ。主翼は両舷とも大きな軋み音を立てた。当然ブリッジには危険度合いを超えたという警報が鳴り響く。艦体損傷ぎりぎりの勢いだったが自動姿勢制御システムがかろうじて源田の操舵するコースに乗せていく。両翼とも損壊はしなかった。
「メインタンク全速注水。深度200で索敵する」
「例のビームは」
天田の懸念を当が払拭するように言う。
「いかに『熱い氷』でも瞬時にこの深度まで凍らせられるとは思えん。それに海中には奴らの仲間がいる。もろとも凍らせては作戦の意味がない」
「しかし奴らが網を張っているということは・・・そうか、MJ号を生け捕りにしようって魂胆なのか」
天田は拳を握り締めた。
「ソナーに感。10キロ四方に潜水艦らしき反応を三つ確認。この音紋はディーゼル潜ですね」
「Qにしては意外な兵力だな。こっちの位置も探知されているよな」
「スクリューどころか動力音も打ち消していないなんて、馬鹿にされてるみたいです」
マリは操作盤とモニターを凝視しながら報告する。
「あ、忘れちゃいけなかったです。さっきの電文、本部のエマさんからです」
「なんと言ってきてる?」
「隊長親展の暗号伝聞です。そちらに転送します」
当の席のコンソールにひと際明るい明滅が生じた。当はキーボードを叩いて指定暗号を入力する。ややあって電文が当のモニターに投影された。
「・・・今送ってきてどうしろと言うんだ!」
「何事ですか?」
天田が振り返って聞くのを見ながら、当は「こっちに来い」と手で合図した。それを了承とみなした天田は当の席のモニターをのぞき込んだ。
「・・・へっ、呑気なもんだ。齢百を超えると肝のすわり方も超人ですね」
「とにかくこの場を脱出せねばならん。会長の言う『elfter Schwarzer』とやらを警戒するにも生き残らねば何も出来ん」
「しかしこの『elfter Schwarzer』とはいったい?」
「今は考えるな。まず目の前の敵を殲滅する。源田、使える武装はどれだけある?」
不意に問われながらも源田は操舵を止めずに即答した。
「ミサイル、砲弾はまだ一発も撃てていません。魚雷も然り。あとは『ビッグ・エム』があります。主砲はまだ使えません。レーザー・ビーム発射器は海中じゃ用無しですが炉の復旧待ちです」
「『ビッグ・エム』の使用は外しておこう。伊豆・小笠原海溝に誘い込む。この進路でどのくらいで行ける?」
「約15分。しかし電力が気になりますね。既に省電力モードで動かしてますが、あれから早くも7%使っちまいました」

「その気になる残電力なんだが、イチかバチかの打席に立たせてもらえないだろうか」
村上と寺本が戻ってきた。二人とも放射線防護服を着たままだが被ばく量はほとんどなく、ブリッジのモニタリング警報は沈黙している。これを脱ぎもせず汗だくの村上から当に提案が申告される。
「隊長も知ってのとおり、昨年の大型改修でMJ号の主機は原子力機関から核融合機関に換装された。これによって太陽光プラズマエンジン全体がシステムとして完成した形になる」
「だが炉がまだ復旧していない」
「ゲンさんが悪いわけではないが、この着水潜航の衝撃で超音波融解装置が破損してしまった。もう悠長なことをしていられないから奥の手を打ちたい。太陽光プラズマユニットに付け加えられた超高電圧レーザー発振器を使って落雷を起こす」
「・・・どうなる?」
「強力な電気マッサージで『熱い氷』を粉砕する。これには融合炉の発振器を冷却タンクに移設せねばならんが、それができれば中のヘリウムを刺激して冷却水の分子崩壊を誘発させられる。不幸中の幸いだが蓄電残量のすべてを使うわけにはいかんから、艦内誘爆するほどの電撃には至らない」
「発振器の付け替えにはどの程度かかる?」
「図面によれば発振器自体は三系統完備している。炉への回路二系統をいったんカットし、予備の外部ユニットにバイパスさせて冷却タンクのバルブに接続する。ここから遠隔操作で作業するから20分でどうにかできるだろう」
「バルブにということは、タンクを外部から電撃するということか」
「その通りだ。幸いバルブハッチの外径は発振器とほぼ同じ規格でハッチに被せられる」
艦内の主要区画は完全絶縁がなされているが、村上の言う放電撃の出力はオーバーロードを招くかもしれない。冷却剤タンクが融合炉とつながっている以上、炉の配管には幾ばくかの影響を受けるだろう。
だが・・・
当は本部から送られてきた暗号伝聞を思い返した。
Qによる衛星兵器の陽動疑念、解けていない固有名詞『elfter Schwarzer』。それらの連絡と共に送られてきた一文に、プラズマはもはや枯れつつあり使いこなせる技術とあった。その意味を考えるには時間がない。
当は「くそ親父め」とうめきながら決意した。
「細かいことは博士に任せる。15分で隔壁閉鎖と放電撃システムを立ち上げてくれ。海溝に敵を呼び寄せながら全弾を打ち尽くす。放電のタイミングはそれで計ってもらいたい。念のため全員絶縁作業着を着用!」
「エス・エム・ジェイ!」
村上の返答と同時に全員が持ち場につく。

「ゲンさん、いま先生を借りても大丈夫かな」
村上は源田に尋ねる。すかさず源田は「では寺川君と交代を」と応じる。
「先生、レーザー発振器の付け替えを始めるので手伝ってくれ。寺川君はそこから隔壁閉鎖と確認を頼む!」
村上は昨年の改装作業で一新されたブリッジの自席でコンソールパネルの一部を剥がし、しばらく覗き込んだ内部配線からこれだと見極めたコード数本のコネクターを外した。
英は村上が始めた作業をチラ見しただけで、手伝うべき内容を掌握した。彼はこの手の実作業も得意とする。
「これ、必要でしょ」
村上のところへやってきたとき、彼は既に自分のコンソールから「今は使わないだろう」と考えたレバーを二本、ボタン式スイッチ類をいくつか引き抜いて持ってきていた。
「さすが先生だ。回路図を書いている暇はないから、こことここに穴をあけてコネクターの受けとレバーを取り付けてくれないか。スイッチは適当な場所で構わない」
村上は剥がしたコンソールカバーをひっくり返し、マジックインキで印をつけると同時に、印の下に操作内容を示す書き込みをする。
英がそれを受け取り、工具箱のハンドドリルで作業を進める。村上は時計も見ずに黙々と回線を引き出し手渡していく。
「何をやってるんだ博士は」
彼らの様子を眺めていた当は多少怪訝な顔をするが、すぐに、発振器の移設操作系がブリッジには無いことに気づいた。
「深深度魚雷来ます! 9時方向から四本、距離8キロ!」
マリが叫んだ。威嚇だなと天田はつぶやき源田に指示する。源田の操艦でMJ号は潜航しつつ艦首を20度傾けた。
「左舷に加速用ハイパーポリマーを展開。直撃は防げる。ただ当たると炸薬の破裂圧力は海上より大きいぞ」
「深度550、現状でこれ以上の潜航は危険。トリム修正しま・・・」
源田の声が左舷からの衝撃にかき消される。魚雷がハイパーポリマーに絡めとられそのまま炸裂したようだ。
衝撃の度合いは予想よりもはるかに小さいが、バリアとなっていたポリマーの大部分は吹き飛ばされてしまう。
「妙だな。Qとて素人じゃあるまいに、この深度で当てるなら艦底を狙ってくるのが定石だ」
当は敵の性能をどう見るべきか多少戸惑った。
MJ号の深深度潜航能力は日本の海上自衛隊が保有してきた潜水艦を現在でも凌駕している。そもそも戦艦であり潜水艦であり航空機でもある万能艦は、少なくとも国連加盟国の何処にも存在しない。それでは無敵無双かと言えば否、なのだ。海中において艦底部の至近距離で魚雷が炸裂すれば、艦体下方では海水が炸裂圧力によって今しがたポリマーが排除されたように海水自体が吹き飛ばされ浮力を奪い取る。そうなれば自重約28000トンもの荷重が一気にMJ号のキールや外殻をへし折ろうとするだろう。
そんなことはサブマリナーの常識のはずだが、わざわざ水圧下で速度が落ち、回避されるような攻撃を仕掛けてくるのか。その迷いの無さが当の勘に触るのだ。
「まさか原潜そのものが自動操艦されているのか?」

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

いかん・・・長くなりすぎ。

 

後日譚と前日譚

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長谷川裕一さんの「機動戦士クロスボーン・ガンダム」が30周年。という話は既に書いていますが、そりゃそんな節目だったら本人も乗せられて描きますわね。このシリーズとしてU.C.0133に始まり、今作では0172年まで時代が進みました。からっとした長谷川節のコミカルセンスを纏いながら、海賊、仮面の男、ガンダムと言った記号を巧みに取り込んでいます。珍しく雑誌を買っちまいましたよ。しかも「ガンダムエース」だけでなく「少年エースA」まで。

何でかと言えば、後者の方には「クロスボーン・ガンダム」前日譚が読み切りで掲載されていたからです。商魂たくましいぜ出版社!

しかし新連載はこれからのお話なので結論を急げませんけど、キンケドゥことシーブックの物語は直球で来ており、モビルスーツのデザインも含めてやっぱりクロスボーンはこうだよねという安心感があります。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ壱

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東京・中野の駅前は21世紀半ばに大変貌を遂げた。
皇居と霞が関を中心とした都心三区から西に外れたエリアには、20世紀の高度経済成長期以降長らく都心への通勤居住ゾーンとしての位置づけがなされていたが、東京湾にほど近い都心には巨大災害に対する脆弱さもまた語り継がれるなかで、都心から副都心の関係とは別の補完機能が求められてきた。中野駅周辺は、その副都心の一つではあったが、どちらかといえば都民生活や文化面での持ち上げ方が強い。

中野の街はおよそ東京、さらには国際社会の日本というポジションとなる政治経済とは無縁の街だった。そこへきて都心再開発、臨海副都心開発も行きつくところまで進み、西側のタネ地が有望視されている。
一部屋四億円など途方もない付加価値が生み出されるタワーマンションの誕生は、およそ中野の街らしさとは乖離しすぎだと揶揄されたが、巨大災害時に都心に建つ個々の高層建築が倒壊を免れたとしても、ゾーンとして見た場合の危機回避には、そこへ近づけないのでは防災対策も意味がない。

矢吹コンツェルンはいち早く都心からの拠点移築を果たし、中野駅前の再開発ビルに本部となる矢吹産業を据え、さらに西の立川市に共立銀行本店を移転させた。
矢吹産業は一見、都心からの脱落を演じて見せたように思えるがそうではない。立川の共立、八王子の双葉重工という一直線の矢吹コンツェルン主幹企業の東京護衛ラインを成立させ、その最前線に企業グループ総帥たる矢吹郷之助が指揮所を構えた形となっていた。
1940年代の敗戦時、海軍将校であった矢吹は諜報活動の経歴を理由にGHQから戦犯扱いを受けたものの、彼自身の商才を見抜いた米国占領軍は逆に矢吹を登用し、矢吹自身も昭和以降の世の中において危惧するひとつの危機感に対抗する手段を得るため、あえてこの契約に乗る形でアメリカを逆手に取ることとした。
矢吹は横田や横須賀とのパイプを作りながらGHQの要求する経済復興に奔走し、巨大な闇屋の親父となって、かつての部下を様々な業種業態の経営者として産業界に腰を据えたのである。
当然、米国の尖兵、手のひら返しと多方面から罵られることは避けられなかったが、東京復興は敗戦からわずか20年で形が整い、一部には「あの渋沢が蘇ったようだ」という評価も聞かれた。
そのような激動の敗戦処理の日々、矢吹は、新井薬師近くの借家に身を寄せていたが、将校として過ごした東中野時代を懐かしむよりも、この借家の暮らしが愛おしかった。終戦まで東中野に家はあったが、そこに帰ることはほとんどなかったのだ。

名うての海軍情報将校という経歴は、高齢となった矢吹を支える緑川登にとって、羨望の的であった。しかし緑川は矢吹の心中に宿る中野の街の逸話までは知らなかった。ましてや矢吹の実年齢を知ったらとても信じられない彼の佇まいや仕草、明晰な頭脳と言動には驚嘆するしかなかった。心臓にペースメーカーを入れていると聞いたことがあるが、GHQに逮捕されたときが二十代半ばだったはずだ。足腰だけでも超人的な若さである。叩けば埃も出ることだろうが、戦後四半世紀をかけ世界的規模のコンツェルンを立ち上げ、その多岐にわたる事業の陰で世界危機に対峙する民間組織をも生み出す野心とも愛国心ともつかない「こころざし」を、緑川は矢吹の背中越しにいつも感じるのであった。

「それで、Ozean Schwerindustrieの核融合炉が双葉の技術とは無縁だという証明は出来たかね」
「はい。この半年間、影に日向に調べてきましたが、あれは20年前の双葉の技術にすら辿り着いていません。実用には耐えられそうですが」
緑川の答えに、同席していた弓田エマが首をかしげた。
「そんなに時代差のある核融合炉が商用になるものなの?」
「なると思うよ、欧州でなら」
「それはやはり電力需給のひっ迫からかね」
「表向きはその通りだと思いますが、『融発』という発電所パッケージを量産する裏で、大型船舶発動機用としていくつかのサンプルを作りたかったと。そんな裏事情が聞こえてきました」
「船舶のエンジンに核融合炉・・・あまり乗りたいとは思わないわね」
エマの言葉に、緑川は苦笑する。
「客船ではなく、タンカーや大型貨物船のシェア争いを狙ってのことだよ。あとは軍艦」
「EUの総意ということではなさそうだね。NATOにも目立った動きはないが」
矢吹はそう呟きながら、ヨーロッパで不意に湧いて出た核融合炉の技術成果と成果品の商用化なるニュースに、Qの影を感じ取っていた。
「会長の読み通り、欧州では『シャルル・ドゴール』に次ぐ空母の原子力化構想を持つところがあって、そこに核分裂ではなく核融合を売り込んでいる動きが、Ozean Schwerindustrieにあるようです」
「しかしそれも表向きだということだね?」
緑川は腕組みしていた両腕を両膝にあてがい身を乗り出して言った。
「商用化対象の核融合エンジンは、常識で考えれば契約と発注によって建造にゴーサインが出るものでしょう? ところが既に2基、ラインアウトして、何処かに持ち出されているんです」
「いつの話かね」
「遡れるのは2年ほど前までです。もっともエンジン自体を目にした第三者はいないでしょう。私もつてをたどりながら伝票操作の痕跡を掴んで、これを精査すると核分裂型ではないと」
「Qの仕業なのかしら」
エマが再び首を傾げ、緑川に問いかける。
「あの・・・問題の核融合炉と、双葉重工の炉とではどこに性能差があるんでしょうか」
「それはねえ」
緑川は矢吹への視線をエマに移して答える。
「僕は専門家じゃないから細かいことはわからないよ」
「えー? だって20年は差があるってさっき・・・」
矢吹が笑いながら緑川の話を引き継いだ。

「Qがこれまで繰り出してきた潜水艦や空中戦艦は約10隻。そのすべてが核分裂をもとにした沸騰型原子炉搭載艦だ。原子炉の小型化高性能化、障害時の封鎖安全対策に関しては、残念ながら彼らの方が進んでいる。MJ号が撃沈、撃墜したにもかかわらず、目立った放射能汚染が見られなかったことが皮肉にもそれを証明している。まあその話は置くとして、米国の圧力に押されて我が国も戦後の原子力開発に拍車はかかったが、双葉にやらせてきたのは一貫して水素核融合技術だ。戦後78年を費やしプラズマ生成にこぎつけた」
「茨城の量子科学技術研究開発機構ですね」
「左様。フランスと共同開発中のITER計画に対する実証実験炉だが、コイルのトラブルが相次ぎ6年も遅れた。国際規模での発電向け運転は2050年代を目指しているが、それを実現させるためには高温プラズマを封じ込める磁場の安定が必須で、要となる超伝導コイルの品質確保が欠かせなかった」
「高温プラズマって、どれほどの高温ですの?」
エマの問いかけに緑川が答える。
「理論値ではね、1億度のプラズマを100秒間閉じ込めるのが現在の計画」
「太陽の・・・どころじゃありませんのね」
「お笑い草な話だか、実験炉のための実証実験炉を確実なものとするために、先行試験炉が必要だったのだ。JT-60SAはJT-60という初期型試験設備の後継機で、これの建造時に超伝導コイルの開発を任された企業のひとつが双葉だ。そこを突破口にトカマク型の核融合炉の超小型化も研究項目として加えてもらった」
「そうか。JT-60SAのサイズを公式資料で見たら、地上据え付け以外では大型艦船にしか積めないと思っていたんですが、その超小型核融合炉というのは・・・」
緑川が腑に落ちたような顔をする。矢吹は声を潜めて言った。
「太陽光プラズマエンジンというのはよくよく考えると訳のわからん名称だろう?」
「えっ? あれが実証実験のそのまた先行試験機ですの?」
「双葉が建造に成功するまで9基の試験機を経たものだよ。MJ号には10番目の試験機が載せられている」

エマはとんでもない機密を軽々しく話してよいのかどうか戸惑った。矢吹の秘書を務める桂 めぐみの表情をちらりと伺う。めぐみは普段、銀座のクラブ「J」に常駐しているが、マイティジャックにおいては諜報部門のリーダーであり、エマや緑川の上司というポジションにいる。そのめぐみは意外にもにこやかな表情でその場の対話を聞いている。エマと視線が合うと、そのまなざしは「気にしなくていいわよ」と言っているようだ。

「国際法的には危ない代物ですね。核施設としての対非核三原則は・・・」
「だからこその核融合なのだ。被爆国を祖国とする我々には、原子力に対する拒絶感を打ち消すことは出来ぬ。MJ号の主エンジン換装が完了してほっとしている。あれこそがJT-60SAに確実なデータを提供できる」
「10番目の融合炉・・・そういえば会長、EUが中国筋の産業スパイ被害に遭ったと吹聴していて、当然彼の国はこれを真っ向から否定していますが、あちらさんの核融合炉の実用化がITER計画よりも早く商業炉に行きつくのではないかとか」
「エネルギービジネスのイニシアティブ合戦は国に任せておけばいい。むしろ大陸で安全な核融合発電が普及していけば二酸化炭素の削減にも良い傾向となろう。しかしその隙をつけ狙うのが科学時代の悪意だ」
「Qが各国を手玉に取って、今回の衛星兵器問題のような暗躍をするのは目に見えていますね。これをご存じですか?」
緑川がメモを取り出した。

手書きのボールペン文字で「elfter Schwarzerもしくはschwarzer elfter?」と綴られていた。
「なんですの? ドイツ語かしら」
「何を示すものかはわからない。この数カ月、時折、諜報筋の暗号伝聞に乗ってくるようになった」
メモを凝視していた矢吹は眼鏡を外して眉間を指で押さえた。
「何かご存じのようですね」
「これはQの挑戦状だよ。『黒の11番』。そうか、衛星兵器はおそらく陽動だ。MJ号の不在を狙ってくるぞ」
矢吹は眼鏡をかけ直し、当八郎に暗号通信を送るよう弓田に指示した。タブレットで通信機能を立ち上げたエマが大声で叫んだ。

「会長! マリさんから二分前の着信が。MJ号、衛星兵器から攻撃を受けていますっ」

矢吹と緑川は互いに顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

※本作は勝手に書き始めたオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

 

 

なんかこれを全部映像で見せられたら飽きそうです。MJ号の現場がこの悠長な対話を聞いたら怒っちゃいますよね。

それにつけても矢吹郷之助さんを存命させるととんでもないお歳になってしまう。和邇さんによると「矢吹さんの生年は円谷英二さんの生まれた年」という設定があったそうです。1901年・・・それこそ凄いことになるのでこちらではもう少し若くしました。マイティジャックのメンバーは全員、現代設定に年齢をスライドさせております。

11月の傑作選な気分

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「ウルトラマンアーク」が面白いかそうでないかのことは置いときますが、7月の放送開始以来なんとも感情移入しにくい番組で、10月に一つの山場をこなしてウルトラマンアークがなぜ地球に来たのかの存在理由は描かれました。そのあとが妙ちくりんな展開で、前作「ウルトラマンブレーザー」の世界を持ってきて、これが今月末まで引っ張られるようです。当初「それはなんだかずるくないか?」と思っていたのですが、見たらこれがなかなか面白い。

宇宙侍ザンギルというバイプレーヤーが、ブレーザーにおいても名キャラクターになりそうな存在感でしたが、都合よく使い回された以上の役どころで少し安心。月末は遂に、ブレーザー自身が「自分のいる世界」のことは考えんでいいのだぞと言わんばかりに登場してしまうようです。こののめり込みようはまさに後年「11月の傑作選」と呼ばれるようになった「帰ってきたウルトラマン」の71年11月を彷彿とさせます。当時の現役視聴者世代には、ですが。

「11月の傑作選」などと言い始めた人たちは、多分僕よりもずっと年上世代と思われますが、「ウルトラQからウルトラセブンまでの第一期シリーズ」に対して「第二期はさほど面白くないけど11月の放送分だけは各話良い出来」という論調で、この論調が薄れたまま傑作選が語り継がれています。僕は「11月以外もそんなことねーよ」という感想ですが、そこは今回語る余地が無いので「アーク」に話を戻すと、あえて他所のウルトラマンを出すのは作り手の確信犯的企画でしょう。

他所のウルトラマン広しという中、ブレーザーは珍しくシリーズすべての関係性を断ち切って作られた(と言いながら過去の怪獣も出てるし、ザンギル自身が「ウルトラマンメビウス世界」とのつながりを持っています)独特の番組だけに、少なからず賛否両論並びたち、新しい語り継ぎが始まりそうです。こんなカードを切るなら夏休み特別編でも年末年始特別編でも良かったわけですが、わざわざ11月にやるというのは、ウルトラならではの演出と感じます。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ序 ←なにそれ連載?

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「後編」において90分想定の三分の一だけのプロットを書き出し、MJ号の危機と宇宙用改装、反撃への話はひとまずうっちゃりました。

が、「マイティジャック」については僕なんかよりもはるかに詳しい和邇さんから設定や13話の打ち切りがなかった場合の後半プランを聞くことができ、これがまあよりによって「某悪の組織が人工衛星を打ち上げて云々」という、しまった聞く前にこっちの原稿見せとくべきだった!なことになっています。

MJ号を宇宙に持ち出すプランこそが14話以降に考えられていたプロットで、そこに「アストランダ―ロケット」の設定が組まれています。この名称、MJ号などのデザインを手がけた成田亨さんの作品展ではMJ号艦載機の宇宙版にも仮称として扱われていたそうで、ちょっと紛らわしいのですが、MJ号改装には両舷後方にでっかいロケットを括り付ける案が、その名前と共に成田さんのプランにあったようです。

和邇さんは若い頃、直に成田さんからその話を聞いているという、なんて羨ましいんだ、な逸話を持っていて、宇宙用MJ号のデザインにもいくらか関与していたらしい。そんな話はついぞ知らぬまま「なんで宇宙を舞台にするのか」と伺ったら人工衛星というやっぱりそれか!の話に及んでおります。まあ「やっぱり」にすぎないんですが、知らぬまま「後編」でのあの原稿を書いた僕も凄い・・・ですかね(笑)

しかしですよ。丁々発止を繰り広げて宇宙に行って、衛星兵器をぶっ壊してめでたしめでたしの結末に、イマイチ不満があったのです。エネルギー使い果たして地球帰還できなくなる(飛べないジャンボーグ9やキカイダー01がやってるし)、大気圏再突入時にトラブル(いくらでも事例がある)など、ちょっとつまんねーなと思っていたら、和邇さんが送ってきた改装MJ号のブリッジ落書きの横に、窓デザインが異なるいかにも偽物なMJ号のブリッジが描かれているではありませんか。

「えへへ、艦首がシュモクザメの意匠を持ったニセMJ号で、私今でも気に入ってるんです。その名もBlackJack!」

それだ!(いや偽物ってのもいくらでもあるけどさ)

衛星兵器はそもそもマイティジャックを宇宙に誘き出す陽動で、いなくなっちゃった彼等の隙を突いてこの偽物が各地を攻撃して回る。さっさと戻ってこないと世界が大変だぞという状況でどうやって衛星兵器を機能停止させて帰還し、万能戦艦同士の対艦戦に持ち込むか。

うーん、この辺までは円谷プロダクションでも草稿書いてるような気がします。第一、敵がなぜ偽物を建造できるのかという突っ込みどころもあります。ただ、そのからくりを解くため、マイティジャック11名のうち数名を本部に残した甲斐があります。この人たちは役柄も諜報班ですから、番組のスパイものにも尺を割くことができます。

さあそうすると残り60分分の原稿、書かないといけないかなあ。めんどくさいことこの上ないんですよ。「太陽光プラズマエンジン」て、そもそもわけが分かりませんし、それより高性能な「アストランダ―ロケット」に何を用いるか考えなくちゃいけない。空中戦だけでなく水中戦もある。

魚雷一本撃つ知識もありませんから。

Gさま一頭ご案内

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「ゴジラ」封切りから70年。こいつが口火を切ってということもないでしょうけれど、東京だけに限ってみても一体何十回の「怪獣災害」を被ったことか。54年の一頭めがかなり迷走しながら霞が関を壊しつくし、84年のやつはそこを素通りして新宿副都心を蹂躙。21世紀に入ってからのあれは東京駅前で擱座。最近のは戦後の焼け野原を踏み潰しています(対シリーズ、vsシリーズ、×シリーズ等の対戦物は除く)。まるで観光客なみの東京闊歩です。

これらの中で、ひと際訳の分からない移動をしているのが初代で、ほんとに観光コースに近い。研究者間では昔から「はとバスのコースによく似ている」と言われていました。当人(獣)の本能的メンタルでイメージしても、品川に出現して霞が関まで行くのにわざわざ銀座を経由する知恵とは何なのか、作り手の意図が透けて見えてしまうのが70年分の研究成果かもしれません。その点で見ると、「シン・ゴジラ」の蹂躙コースは面白くもなんともないルートながら、本人(獣)にしかわからないだろうなあと思わせる足跡ととれます。

それぞれのストーリーの詳細を失念した部分が多いのですが、大雑把に言うとあの巨体にもかかわらず、いずれの場合も東京湾内に入られてしまうという国としての失態を免れません。2014年までの上陸記録を綴った方がいらっしゃいますマッピングされた別記事もありました。議事堂なんて二度(-1.0でも消し飛んでた?←観てないのよ)もぶっ壊されるほどの国の脆弱ぶりですが、核施設があるわけでもないのに東京ばかり随分といたぶられたものです。

次の現代版ゴジラが来るとすれば、高輪あたりから東京スカイツリーを目指すような気がしますが、634mものタワーを薙ぎ倒しに現れるゴジラはどれだけでかくなることやら。関係なしと言われそうな話、議事堂は2023年にウルトラマンブレーザーと怪獣がぶっ壊してしまったので、再来年くらいまでは復旧途上となっているでしょう。

マイティジャックを取り戻せ! 後編

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その夜、太平洋上を飛行するMJ号を衛星軌道から捕捉するものがあった。
某国が打ち上げた気象衛星の軌道だったが、衛星は地上での組み立て時既に秘密組織Qに乗っ取られ、ある種の改造を施されていた。
打ち上げ後にその謀略を察知した某国は直ちに衛星の自爆コードを発信したが、衛星はコードを受け入れず破壊に失敗していた。国連安全保障理事会の緊急招集を機に大国によるキラー衛星攻撃ミッションも展開した。

それらはQ衛星の返り討ちに遭い多くが爆散させられ、発生したデブリ群がQ衛星を護る形となってしまった。各国とも「その場にある厄介者」を位置確認しながら打つ手を失っていた。
マイティジャックに対しては、東京の矢吹コンツェルンから秘密裏に指令が下され、MJ号による攻撃作戦をもってQ衛星の破壊を促すこととなった。
しかし、MJ号の飛行高度は15000mが限界だった。Q衛星は高度36000kmもの静止衛星軌道にある。
このため、小笠原諸島東端の絶海に秘匿されている第二ドックにて開発された大気圏突破用重装備「アストランダ―ロケット」を追加装備する作戦が、同メカニックを設計したT・ナリタ技術顧問により提唱され、MJ号は小笠原上空にさしかかっていたところだった。

不意に四方の闇が強烈な光に包まれ轟音と衝撃がブリッジを襲った。
「落雷ですか?」
「この星空の夜でか? これは攻撃・・・」
隊長・当(あたり)八郎の声を遮るように機関士の服部六助が叫んだ。
「核融合炉に異常発生! プラズマ消失です、固体水素ペレット入射装置が停滞した模様っ・・・冷却ユニットが異常高温化しています」
その声を聞くまでもなく、当はQの攻撃だと判断していた。
「以前艦内に潜入されて同じトラブルを抱え込んだことがあったな」
当に言われ、副長の天田一平はすぐさま服部に太陽光プラズマエンジンのうち太陽光発電部から蓄電された電力稼働への切り替えを命じる。
「被害状況を確認!」
「後部の太陽光パネルの一部を貫かれたようです。緊急隔壁閉鎖とパネル破損部への防護壁展開は完了」
「冷却タンク以下のフロアには被弾警報なし」
艦内モニターを続ける一条マリの報告に、当は唇をかむ。
「まるでレーザーメスのような貫通力だな。そのおかげで逆に破損個所は限定的に済んだが、冷却系統を狙い撃ちしてくるとは」
「冷却剤、やはり凍結しているようです」
マリの続報は乗組員を震撼させた。
冷却剤として使われている水素は、通常時も半凍結状態で微細な氷状粒子として融合炉内のプラズマ温度のオーバーヒートを防いでいる。その温度は-260℃だ。しかし攻撃されたことで500℃もの高温に沸き立ちながら、分子レベルとしては凍結状態となってしまったのだ。高速粒子線による超高圧力攻撃という兵器がQにはあった。
「例の『熱い氷』ですか。しかしあのときはわざわざ融合炉区画まで接近しないと効果が出せなかった代物で」
天田は信じられないという顔をする。科学陣の長、村上譲は冷静に状況を読んだ。
「技術のブレイクスルーだよ。おそらく今のは衛星軌道からの攻撃だ」
「高速粒子をそんな高高度から撃ち出すなんて」

「格納庫工場に超音波震動融解装置のパーツストックがあったはずだ。直ちに組み立て冷却水の融解作業を開始するよ」
天田との対話を一区切りして、村上が席を立つ。これにパイロットの寺川進が助手としてついていく。
当は一条に、三浦半島の本部に待機している緑川登と弓田エマ宛に状況連絡の暗号通信を送るよう指示し、服部に問いかける。
「六さん、蓄電量は?」
「第二ドックまでなら問題ありませんが、迂闊に近づくとドックの所在地を索敵されます」
「下には奴らの潜水艦の一隻や二隻はいるでしょうね」
「そいつらとやり合っていては融合炉の緊急停止状態が問題になる。といって着水後にのんびり見物してくれる相手でもなさそうだな」
「短期決戦、落とし前は付けてやりますよ」
天田は戦闘指揮を当に委ね、迎撃実務の担当を申告した。当は頷く一方で、
「着水と同時に急速潜航。俺なら着水時に艦の周辺にあの高速粒子ビームを乱射する。あれの出力が連射できるのかどうかはわからんが」
「なるほど周辺の海水を『熱い氷』で固めてこっちを動けなくするってわけか」
「よほどの自信があるのか、すぐさま二射目を撃てないのか。あれ一発で充分なわけだったが、敵に時間を与えるのは面白くない」
「ゲン、聞いてのとおりだ。いつ撃たれるかわからん、着水潜航急げ!」
「よーそろっ、全員着座しといてください、少々荒っぽく行きますよ!」
パイロットの源田明は余裕の表情で操舵桿を握り直す。
MJ号は降下速度を維持しながら艦首を徐々に引き上げ始める。

マリが叫んだ。
「上方に強力な電磁波! 第二射来ますっ」
「よけろゲン!」
ブリッジ前方右舷を高速粒子ビームがかすめた。目のくらむような光の槍とブリッジ内をも揺るがす轟音が響き渡る。源田は間一髪でこれをよけたが、MJ号周囲の雲と水蒸気が影響を受け艦体に付着して『熱い氷』と化した。
「ちくしょう、砲塔と艦載機射出口をやられた!」
「かまわん、今は潜航が先だ」
天田は源田の戸惑いを打ち消すように指示する。
「しかし射出口を閉じることができません。浸水します!」
「艦内工場側の隔壁閉鎖だけでいい。とにかく行くんだ。マリ、二射目までの時間差はわかるか?」
「4分28秒です」
「了解マリちゃん、潜航時間の記録打ち立てちゃる。先生っ、ケガ人が出るまで副操舵席を頼みますっ」

先生と呼ばれた英 健(はなぶさ たけし)が源田の左隣のシートに就く。心臓外科医が英の生業だが、マイティジャックにおいては源田、寺川と共に名パイロットの顔も併せ持つ。源田は振り向きもせず、誰にともなくサムズアップサインを繰り出した。

 

※本作は勝手に書き始めたオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

 

・・・というくらいで、あの有名な出航・離水シークエンスを冒頭に組み込んで30分はあるでしょうか。このあと海上、海中の脱出行があって、本部での緑川、弓田と矢吹のやり取りがあって、Qの絡みは謎として一切描かない。なんだかんだで第二ドックへたどり着いて突貫修理と宇宙用装備の増設をやって新しいシークエンスの急速発進を描いて、MJ号は宇宙の決戦へ・・・で、だいたい90分。

続きは・・・忙しいので書きません(おいおい)