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  ~懲りない傾向~

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ弐

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「着水する、衝撃に備え!」
源田が叫ぶ。天田は上空警戒を進めながら高速粒子ビームを撃たれた場合の対処を巡らせる。
「しかしなんだって船体の直接破壊を狙ってこない?」
「太陽光プラズマからの蓄電、40%消費。潜航すると太陽光集積はできません。もっともまだ夜明け前か」
服部が機関制御を続ける。
「3射目が来ます! 前方1キロ未満に着弾っ」
光芒が闇を切り裂いた。MJ号の着水進路が沸騰し相転移を始めた。
「源田、そのまま海中に突っ込め! おそらく『熱い氷』は海面付近だけでそう厚くはならない」
「隊長の勘を信じますよ! 艦首トリム45度で海面突入!」
「隊長、こんなときですけど本部から暗号受電してます」
マリが当に報告するが、海面突入の衝撃で座席から放り出されそうになり、当も必死にシートに背中を押し付ける。MJ号の水押し(みおし)が固体化していく海面を切り裂き巨大な艦体を沸騰する波にめり込ませた。この衝突衝撃は艦体のキールが受け止めるが艦内は上下左右に揺さぶられ続ける。両翼がもぎ取られるのではないかと、さすがの天田も一瞬の不安をよぎらせる。
冷却剤タンクの融解作業中だった村上と寺川も、作業中の機材事弾き飛ばされてしまう。幸いにも重量のある機材に押しつぶされることはなかったが、二人ともそれなりの打撲を負った。厚手の対放射線防護服を着ていなかったら、打撲程度では済まなかったかもしれない。
「なんて荒っぽい着水をするんだ!」
「怪我はないか寺川君、機材は今のでおしゃかになった」
「どうしますか。まだ融解が終わっていません」
村上は少し逡巡して意を決したように告げる。
「ブリッジに戻って奥の手を使う。しかし蓄電池の容量も使い切るかもしれん」
「でも融合炉が使えるようになりさえすれば」
「そういうことだ。だがもう一度プラズマ生成するまでには時間がかかる。急ぐぞ」

安定を欠いたまま、MJ号は海中に飛び込んだ。主翼は両舷とも大きな軋み音を立てた。当然ブリッジには危険度合いを超えたという警報が鳴り響く。艦体損傷ぎりぎりの勢いだったが自動姿勢制御システムがかろうじて源田の操舵するコースに乗せていく。両翼とも損壊はしなかった。
「メインタンク全速注水。深度200で索敵する」
「例のビームは」
天田の懸念を当が払拭するように言う。
「いかに『熱い氷』でも瞬時にこの深度まで凍らせられるとは思えん。それに海中には奴らの仲間がいる。もろとも凍らせては作戦の意味がない」
「しかし奴らが網を張っているということは・・・そうか、MJ号を生け捕りにしようって魂胆なのか」
天田は拳を握り締めた。
「ソナーに感。10キロ四方に潜水艦らしき反応を三つ確認。この音紋はディーゼル潜ですね」
「Qにしては意外な兵力だな。こっちの位置も探知されているよな」
「スクリューどころか動力音も打ち消していないなんて、馬鹿にされてるみたいです」
マリは操作盤とモニターを凝視しながら報告する。
「あ、忘れちゃいけなかったです。さっきの電文、本部のエマさんからです」
「なんと言ってきてる?」
「隊長親展の暗号伝聞です。そちらに転送します」
当の席のコンソールにひと際明るい明滅が生じた。当はキーボードを叩いて指定暗号を入力する。ややあって電文が当のモニターに投影された。
「・・・今送ってきてどうしろと言うんだ!」
「何事ですか?」
天田が振り返って聞くのを見ながら、当は「こっちに来い」と手で合図した。それを了承とみなした天田は当の席のモニターをのぞき込んだ。
「・・・へっ、呑気なもんだ。齢百を超えると肝のすわり方も超人ですね」
「とにかくこの場を脱出せねばならん。会長の言う『elfter Schwarzer』とやらを警戒するにも生き残らねば何も出来ん」
「しかしこの『elfter Schwarzer』とはいったい?」
「今は考えるな。まず目の前の敵を殲滅する。源田、使える武装はどれだけある?」
不意に問われながらも源田は操舵を止めずに即答した。
「ミサイル、砲弾はまだ一発も撃てていません。魚雷も然り。あとは『ビッグ・エム』があります。主砲はまだ使えません。レーザー・ビーム発射器は海中じゃ用無しですが炉の復旧待ちです」
「『ビッグ・エム』の使用は外しておこう。伊豆・小笠原海溝に誘い込む。この進路でどのくらいで行ける?」
「約15分。しかし電力が気になりますね。既に省電力モードで動かしてますが、あれから早くも7%使っちまいました」

「その気になる残電力なんだが、イチかバチかの打席に立たせてもらえないだろうか」
村上と寺本が戻ってきた。二人とも放射線防護服を着たままだが被ばく量はほとんどなく、ブリッジのモニタリング警報は沈黙している。これを脱ぎもせず汗だくの村上から当に提案が申告される。
「隊長も知ってのとおり、昨年の大型改修でMJ号の主機は原子力機関から核融合機関に換装された。これによって太陽光プラズマエンジン全体がシステムとして完成した形になる」
「だが炉がまだ復旧していない」
「ゲンさんが悪いわけではないが、この着水潜航の衝撃で超音波融解装置が破損してしまった。もう悠長なことをしていられないから奥の手を打ちたい。太陽光プラズマユニットに付け加えられた超高電圧レーザー発振器を使って落雷を起こす」
「・・・どうなる?」
「強力な電気マッサージで『熱い氷』を粉砕する。これには融合炉の発振器を冷却タンクに移設せねばならんが、それができれば中のヘリウムを刺激して冷却水の分子崩壊を誘発させられる。不幸中の幸いだが蓄電残量のすべてを使うわけにはいかんから、艦内誘爆するほどの電撃には至らない」
「発振器の付け替えにはどの程度かかる?」
「図面によれば発振器自体は三系統完備している。炉への回路二系統をいったんカットし、予備の外部ユニットにバイパスさせて冷却タンクのバルブに接続する。ここから遠隔操作で作業するから20分でどうにかできるだろう」
「バルブにということは、タンクを外部から電撃するということか」
「その通りだ。幸いバルブハッチの外径は発振器とほぼ同じ規格でハッチに被せられる」
艦内の主要区画は完全絶縁がなされているが、村上の言う放電撃の出力はオーバーロードを招くかもしれない。冷却剤タンクが融合炉とつながっている以上、炉の配管には幾ばくかの影響を受けるだろう。
だが・・・
当は本部から送られてきた暗号伝聞を思い返した。
Qによる衛星兵器の陽動疑念、解けていない固有名詞『elfter Schwarzer』。それらの連絡と共に送られてきた一文に、プラズマはもはや枯れつつあり使いこなせる技術とあった。その意味を考えるには時間がない。
当は「くそ親父め」とうめきながら決意した。
「細かいことは博士に任せる。15分で隔壁閉鎖と放電撃システムを立ち上げてくれ。海溝に敵を呼び寄せながら全弾を打ち尽くす。放電のタイミングはそれで計ってもらいたい。念のため全員絶縁作業着を着用!」
「エス・エム・ジェイ!」
村上の返答と同時に全員が持ち場につく。

「ゲンさん、いま先生を借りても大丈夫かな」
村上は源田に尋ねる。すかさず源田は「では寺川君と交代を」と応じる。
「先生、レーザー発振器の付け替えを始めるので手伝ってくれ。寺川君はそこから隔壁閉鎖と確認を頼む!」
村上は昨年の改装作業で一新されたブリッジの自席でコンソールパネルの一部を剥がし、しばらく覗き込んだ内部配線からこれだと見極めたコード数本のコネクターを外した。
英は村上が始めた作業をチラ見しただけで、手伝うべき内容を掌握した。彼はこの手の実作業も得意とする。
「これ、必要でしょ」
村上のところへやってきたとき、彼は既に自分のコンソールから「今は使わないだろう」と考えたレバーを二本、ボタン式スイッチ類をいくつか引き抜いて持ってきていた。
「さすが先生だ。回路図を書いている暇はないから、こことここに穴をあけてコネクターの受けとレバーを取り付けてくれないか。スイッチは適当な場所で構わない」
村上は剥がしたコンソールカバーをひっくり返し、マジックインキで印をつけると同時に、印の下に操作内容を示す書き込みをする。
英がそれを受け取り、工具箱のハンドドリルで作業を進める。村上は時計も見ずに黙々と回線を引き出し手渡していく。
「何をやってるんだ博士は」
彼らの様子を眺めていた当は多少怪訝な顔をするが、すぐに、発振器の移設操作系がブリッジには無いことに気づいた。
「深深度魚雷来ます! 9時方向から四本、距離8キロ!」
マリが叫んだ。威嚇だなと天田はつぶやき源田に指示する。源田の操艦でMJ号は潜航しつつ艦首を20度傾けた。
「左舷に加速用ハイパーポリマーを展開。直撃は防げる。ただ当たると炸薬の破裂圧力は海上より大きいぞ」
「深度550、現状でこれ以上の潜航は危険。トリム修正しま・・・」
源田の声が左舷からの衝撃にかき消される。魚雷がハイパーポリマーに絡めとられそのまま炸裂したようだ。
衝撃の度合いは予想よりもはるかに小さいが、バリアとなっていたポリマーの大部分は吹き飛ばされてしまう。
「妙だな。Qとて素人じゃあるまいに、この深度で当てるなら艦底を狙ってくるのが定石だ」
当は敵の性能をどう見るべきか多少戸惑った。
MJ号の深深度潜航能力は日本の海上自衛隊が保有してきた潜水艦を現在でも凌駕している。そもそも戦艦であり潜水艦であり航空機でもある万能艦は、少なくとも国連加盟国の何処にも存在しない。それでは無敵無双かと言えば否、なのだ。海中において艦底部の至近距離で魚雷が炸裂すれば、艦体下方では海水が炸裂圧力によって今しがたポリマーが排除されたように海水自体が吹き飛ばされ浮力を奪い取る。そうなれば自重約28000トンもの荷重が一気にMJ号のキールや外殻をへし折ろうとするだろう。
そんなことはサブマリナーの常識のはずだが、わざわざ水圧下で速度が落ち、回避されるような攻撃を仕掛けてくるのか。その迷いの無さが当の勘に触るのだ。
「まさか原潜そのものが自動操艦されているのか?」

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

いかん・・・長くなりすぎ。

 

後日譚と前日譚

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長谷川裕一さんの「機動戦士クロスボーン・ガンダム」が30周年。という話は既に書いていますが、そりゃそんな節目だったら本人も乗せられて描きますわね。このシリーズとしてU.C.0133に始まり、今作では0172年まで時代が進みました。からっとした長谷川節のコミカルセンスを纏いながら、海賊、仮面の男、ガンダムと言った記号を巧みに取り込んでいます。珍しく雑誌を買っちまいましたよ。しかも「ガンダムエース」だけでなく「少年エースA」まで。

何でかと言えば、後者の方には「クロスボーン・ガンダム」前日譚が読み切りで掲載されていたからです。商魂たくましいぜ出版社!

しかし新連載はこれからのお話なので結論を急げませんけど、キンケドゥことシーブックの物語は直球で来ており、モビルスーツのデザインも含めてやっぱりクロスボーンはこうだよねという安心感があります。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ壱

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東京・中野の駅前は21世紀半ばに大変貌を遂げた。
皇居と霞が関を中心とした都心三区から西に外れたエリアには、20世紀の高度経済成長期以降長らく都心への通勤居住ゾーンとしての位置づけがなされていたが、東京湾にほど近い都心には巨大災害に対する脆弱さもまた語り継がれるなかで、都心から副都心の関係とは別の補完機能が求められてきた。中野駅周辺は、その副都心の一つではあったが、どちらかといえば都民生活や文化面での持ち上げ方が強い。

中野の街はおよそ東京、さらには国際社会の日本というポジションとなる政治経済とは無縁の街だった。そこへきて都心再開発、臨海副都心開発も行きつくところまで進み、西側のタネ地が有望視されている。
一部屋四億円など途方もない付加価値が生み出されるタワーマンションの誕生は、およそ中野の街らしさとは乖離しすぎだと揶揄されたが、巨大災害時に都心に建つ個々の高層建築が倒壊を免れたとしても、ゾーンとして見た場合の危機回避には、そこへ近づけないのでは防災対策も意味がない。

矢吹コンツェルンはいち早く都心からの拠点移築を果たし、中野駅前の再開発ビルに本部となる矢吹産業を据え、さらに西の立川市に共立銀行本店を移転させた。
矢吹産業は一見、都心からの脱落を演じて見せたように思えるがそうではない。立川の共立、八王子の双葉重工という一直線の矢吹コンツェルン主幹企業の東京護衛ラインを成立させ、その最前線に企業グループ総帥たる矢吹郷之助が指揮所を構えた形となっていた。
1940年代の敗戦時、海軍将校であった矢吹は諜報活動の経歴を理由にGHQから戦犯扱いを受けたものの、彼自身の商才を見抜いた米国占領軍は逆に矢吹を登用し、矢吹自身も昭和以降の世の中において危惧するひとつの危機感に対抗する手段を得るため、あえてこの契約に乗る形でアメリカを逆手に取ることとした。
矢吹は横田や横須賀とのパイプを作りながらGHQの要求する経済復興に奔走し、巨大な闇屋の親父となって、かつての部下を様々な業種業態の経営者として産業界に腰を据えたのである。
当然、米国の尖兵、手のひら返しと多方面から罵られることは避けられなかったが、東京復興は敗戦からわずか20年で形が整い、一部には「あの渋沢が蘇ったようだ」という評価も聞かれた。
そのような激動の敗戦処理の日々、矢吹は、新井薬師近くの借家に身を寄せていたが、将校として過ごした東中野時代を懐かしむよりも、この借家の暮らしが愛おしかった。終戦まで東中野に家はあったが、そこに帰ることはほとんどなかったのだ。

名うての海軍情報将校という経歴は、高齢となった矢吹を支える緑川登にとって、羨望の的であった。しかし緑川は矢吹の心中に宿る中野の街の逸話までは知らなかった。ましてや矢吹の実年齢を知ったらとても信じられない彼の佇まいや仕草、明晰な頭脳と言動には驚嘆するしかなかった。心臓にペースメーカーを入れていると聞いたことがあるが、GHQに逮捕されたときが二十代半ばだったはずだ。足腰だけでも超人的な若さである。叩けば埃も出ることだろうが、戦後四半世紀をかけ世界的規模のコンツェルンを立ち上げ、その多岐にわたる事業の陰で世界危機に対峙する民間組織をも生み出す野心とも愛国心ともつかない「こころざし」を、緑川は矢吹の背中越しにいつも感じるのであった。

「それで、Ozean Schwerindustrieの核融合炉が双葉の技術とは無縁だという証明は出来たかね」
「はい。この半年間、影に日向に調べてきましたが、あれは20年前の双葉の技術にすら辿り着いていません。実用には耐えられそうですが」
緑川の答えに、同席していた弓田エマが首をかしげた。
「そんなに時代差のある核融合炉が商用になるものなの?」
「なると思うよ、欧州でなら」
「それはやはり電力需給のひっ迫からかね」
「表向きはその通りだと思いますが、『融発』という発電所パッケージを量産する裏で、大型船舶発動機用としていくつかのサンプルを作りたかったと。そんな裏事情が聞こえてきました」
「船舶のエンジンに核融合炉・・・あまり乗りたいとは思わないわね」
エマの言葉に、緑川は苦笑する。
「客船ではなく、タンカーや大型貨物船のシェア争いを狙ってのことだよ。あとは軍艦」
「EUの総意ということではなさそうだね。NATOにも目立った動きはないが」
矢吹はそう呟きながら、ヨーロッパで不意に湧いて出た核融合炉の技術成果と成果品の商用化なるニュースに、Qの影を感じ取っていた。
「会長の読み通り、欧州では『シャルル・ドゴール』に次ぐ空母の原子力化構想を持つところがあって、そこに核分裂ではなく核融合を売り込んでいる動きが、Ozean Schwerindustrieにあるようです」
「しかしそれも表向きだということだね?」
緑川は腕組みしていた両腕を両膝にあてがい身を乗り出して言った。
「商用化対象の核融合エンジンは、常識で考えれば契約と発注によって建造にゴーサインが出るものでしょう? ところが既に2基、ラインアウトして、何処かに持ち出されているんです」
「いつの話かね」
「遡れるのは2年ほど前までです。もっともエンジン自体を目にした第三者はいないでしょう。私もつてをたどりながら伝票操作の痕跡を掴んで、これを精査すると核分裂型ではないと」
「Qの仕業なのかしら」
エマが再び首を傾げ、緑川に問いかける。
「あの・・・問題の核融合炉と、双葉重工の炉とではどこに性能差があるんでしょうか」
「それはねえ」
緑川は矢吹への視線をエマに移して答える。
「僕は専門家じゃないから細かいことはわからないよ」
「えー? だって20年は差があるってさっき・・・」
矢吹が笑いながら緑川の話を引き継いだ。

「Qがこれまで繰り出してきた潜水艦や空中戦艦は約10隻。そのすべてが核分裂をもとにした沸騰型原子炉搭載艦だ。原子炉の小型化高性能化、障害時の封鎖安全対策に関しては、残念ながら彼らの方が進んでいる。MJ号が撃沈、撃墜したにもかかわらず、目立った放射能汚染が見られなかったことが皮肉にもそれを証明している。まあその話は置くとして、米国の圧力に押されて我が国も戦後の原子力開発に拍車はかかったが、双葉にやらせてきたのは一貫して水素核融合技術だ。戦後78年を費やしプラズマ生成にこぎつけた」
「茨城の量子科学技術研究開発機構ですね」
「左様。フランスと共同開発中のITER計画に対する実証実験炉だが、コイルのトラブルが相次ぎ6年も遅れた。国際規模での発電向け運転は2050年代を目指しているが、それを実現させるためには高温プラズマを封じ込める磁場の安定が必須で、要となる超伝導コイルの品質確保が欠かせなかった」
「高温プラズマって、どれほどの高温ですの?」
エマの問いかけに緑川が答える。
「理論値ではね、1億度のプラズマを100秒間閉じ込めるのが現在の計画」
「太陽の・・・どころじゃありませんのね」
「お笑い草な話だか、実験炉のための実証実験炉を確実なものとするために、先行試験炉が必要だったのだ。JT-60SAはJT-60という初期型試験設備の後継機で、これの建造時に超伝導コイルの開発を任された企業のひとつが双葉だ。そこを突破口にトカマク型の核融合炉の超小型化も研究項目として加えてもらった」
「そうか。JT-60SAのサイズを公式資料で見たら、地上据え付け以外では大型艦船にしか積めないと思っていたんですが、その超小型核融合炉というのは・・・」
緑川が腑に落ちたような顔をする。矢吹は声を潜めて言った。
「太陽光プラズマエンジンというのはよくよく考えると訳のわからん名称だろう?」
「えっ? あれが実証実験のそのまた先行試験機ですの?」
「双葉が建造に成功するまで9基の試験機を経たものだよ。MJ号には10番目の試験機が載せられている」

エマはとんでもない機密を軽々しく話してよいのかどうか戸惑った。矢吹の秘書を務める桂 めぐみの表情をちらりと伺う。めぐみは普段、銀座のクラブ「J」に常駐しているが、マイティジャックにおいては諜報部門のリーダーであり、エマや緑川の上司というポジションにいる。そのめぐみは意外にもにこやかな表情でその場の対話を聞いている。エマと視線が合うと、そのまなざしは「気にしなくていいわよ」と言っているようだ。

「国際法的には危ない代物ですね。核施設としての対非核三原則は・・・」
「だからこその核融合なのだ。被爆国を祖国とする我々には、原子力に対する拒絶感を打ち消すことは出来ぬ。MJ号の主エンジン換装が完了してほっとしている。あれこそがJT-60SAに確実なデータを提供できる」
「10番目の融合炉・・・そういえば会長、EUが中国筋の産業スパイ被害に遭ったと吹聴していて、当然彼の国はこれを真っ向から否定していますが、あちらさんの核融合炉の実用化がITER計画よりも早く商業炉に行きつくのではないかとか」
「エネルギービジネスのイニシアティブ合戦は国に任せておけばいい。むしろ大陸で安全な核融合発電が普及していけば二酸化炭素の削減にも良い傾向となろう。しかしその隙をつけ狙うのが科学時代の悪意だ」
「Qが各国を手玉に取って、今回の衛星兵器問題のような暗躍をするのは目に見えていますね。これをご存じですか?」
緑川がメモを取り出した。

手書きのボールペン文字で「elfter Schwarzerもしくはschwarzer elfter?」と綴られていた。
「なんですの? ドイツ語かしら」
「何を示すものかはわからない。この数カ月、時折、諜報筋の暗号伝聞に乗ってくるようになった」
メモを凝視していた矢吹は眼鏡を外して眉間を指で押さえた。
「何かご存じのようですね」
「これはQの挑戦状だよ。『黒の11番』。そうか、衛星兵器はおそらく陽動だ。MJ号の不在を狙ってくるぞ」
矢吹は眼鏡をかけ直し、当八郎に暗号通信を送るよう弓田に指示した。タブレットで通信機能を立ち上げたエマが大声で叫んだ。

「会長! マリさんから二分前の着信が。MJ号、衛星兵器から攻撃を受けていますっ」

矢吹と緑川は互いに顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

※本作は勝手に書き始めたオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

 

 

なんかこれを全部映像で見せられたら飽きそうです。MJ号の現場がこの悠長な対話を聞いたら怒っちゃいますよね。

それにつけても矢吹郷之助さんを存命させるととんでもないお歳になってしまう。和邇さんによると「矢吹さんの生年は円谷英二さんの生まれた年」という設定があったそうです。1901年・・・それこそ凄いことになるのでこちらではもう少し若くしました。マイティジャックのメンバーは全員、現代設定に年齢をスライドさせております。

11月の傑作選な気分

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「ウルトラマンアーク」が面白いかそうでないかのことは置いときますが、7月の放送開始以来なんとも感情移入しにくい番組で、10月に一つの山場をこなしてウルトラマンアークがなぜ地球に来たのかの存在理由は描かれました。そのあとが妙ちくりんな展開で、前作「ウルトラマンブレーザー」の世界を持ってきて、これが今月末まで引っ張られるようです。当初「それはなんだかずるくないか?」と思っていたのですが、見たらこれがなかなか面白い。

宇宙侍ザンギルというバイプレーヤーが、ブレーザーにおいても名キャラクターになりそうな存在感でしたが、都合よく使い回された以上の役どころで少し安心。月末は遂に、ブレーザー自身が「自分のいる世界」のことは考えんでいいのだぞと言わんばかりに登場してしまうようです。こののめり込みようはまさに後年「11月の傑作選」と呼ばれるようになった「帰ってきたウルトラマン」の71年11月を彷彿とさせます。当時の現役視聴者世代には、ですが。

「11月の傑作選」などと言い始めた人たちは、多分僕よりもずっと年上世代と思われますが、「ウルトラQからウルトラセブンまでの第一期シリーズ」に対して「第二期はさほど面白くないけど11月の放送分だけは各話良い出来」という論調で、この論調が薄れたまま傑作選が語り継がれています。僕は「11月以外もそんなことねーよ」という感想ですが、そこは今回語る余地が無いので「アーク」に話を戻すと、あえて他所のウルトラマンを出すのは作り手の確信犯的企画でしょう。

他所のウルトラマン広しという中、ブレーザーは珍しくシリーズすべての関係性を断ち切って作られた(と言いながら過去の怪獣も出てるし、ザンギル自身が「ウルトラマンメビウス世界」とのつながりを持っています)独特の番組だけに、少なからず賛否両論並びたち、新しい語り継ぎが始まりそうです。こんなカードを切るなら夏休み特別編でも年末年始特別編でも良かったわけですが、わざわざ11月にやるというのは、ウルトラならではの演出と感じます。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ序 ←なにそれ連載?

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「後編」において90分想定の三分の一だけのプロットを書き出し、MJ号の危機と宇宙用改装、反撃への話はひとまずうっちゃりました。

が、「マイティジャック」については僕なんかよりもはるかに詳しい和邇さんから設定や13話の打ち切りがなかった場合の後半プランを聞くことができ、これがまあよりによって「某悪の組織が人工衛星を打ち上げて云々」という、しまった聞く前にこっちの原稿見せとくべきだった!なことになっています。

MJ号を宇宙に持ち出すプランこそが14話以降に考えられていたプロットで、そこに「アストランダ―ロケット」の設定が組まれています。この名称、MJ号などのデザインを手がけた成田亨さんの作品展ではMJ号艦載機の宇宙版にも仮称として扱われていたそうで、ちょっと紛らわしいのですが、MJ号改装には両舷後方にでっかいロケットを括り付ける案が、その名前と共に成田さんのプランにあったようです。

和邇さんは若い頃、直に成田さんからその話を聞いているという、なんて羨ましいんだ、な逸話を持っていて、宇宙用MJ号のデザインにもいくらか関与していたらしい。そんな話はついぞ知らぬまま「なんで宇宙を舞台にするのか」と伺ったら人工衛星というやっぱりそれか!の話に及んでおります。まあ「やっぱり」にすぎないんですが、知らぬまま「後編」でのあの原稿を書いた僕も凄い・・・ですかね(笑)

しかしですよ。丁々発止を繰り広げて宇宙に行って、衛星兵器をぶっ壊してめでたしめでたしの結末に、イマイチ不満があったのです。エネルギー使い果たして地球帰還できなくなる(飛べないジャンボーグ9やキカイダー01がやってるし)、大気圏再突入時にトラブル(いくらでも事例がある)など、ちょっとつまんねーなと思っていたら、和邇さんが送ってきた改装MJ号のブリッジ落書きの横に、窓デザインが異なるいかにも偽物なMJ号のブリッジが描かれているではありませんか。

「えへへ、艦首がシュモクザメの意匠を持ったニセMJ号で、私今でも気に入ってるんです。その名もBlackJack!」

それだ!(いや偽物ってのもいくらでもあるけどさ)

衛星兵器はそもそもマイティジャックを宇宙に誘き出す陽動で、いなくなっちゃった彼等の隙を突いてこの偽物が各地を攻撃して回る。さっさと戻ってこないと世界が大変だぞという状況でどうやって衛星兵器を機能停止させて帰還し、万能戦艦同士の対艦戦に持ち込むか。

うーん、この辺までは円谷プロダクションでも草稿書いてるような気がします。第一、敵がなぜ偽物を建造できるのかという突っ込みどころもあります。ただ、そのからくりを解くため、マイティジャック11名のうち数名を本部に残した甲斐があります。この人たちは役柄も諜報班ですから、番組のスパイものにも尺を割くことができます。

さあそうすると残り60分分の原稿、書かないといけないかなあ。めんどくさいことこの上ないんですよ。「太陽光プラズマエンジン」て、そもそもわけが分かりませんし、それより高性能な「アストランダ―ロケット」に何を用いるか考えなくちゃいけない。空中戦だけでなく水中戦もある。

魚雷一本撃つ知識もありませんから。

Gさま一頭ご案内

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「ゴジラ」封切りから70年。こいつが口火を切ってということもないでしょうけれど、東京だけに限ってみても一体何十回の「怪獣災害」を被ったことか。54年の一頭めがかなり迷走しながら霞が関を壊しつくし、84年のやつはそこを素通りして新宿副都心を蹂躙。21世紀に入ってからのあれは東京駅前で擱座。最近のは戦後の焼け野原を踏み潰しています(対シリーズ、vsシリーズ、×シリーズ等の対戦物は除く)。まるで観光客なみの東京闊歩です。

これらの中で、ひと際訳の分からない移動をしているのが初代で、ほんとに観光コースに近い。研究者間では昔から「はとバスのコースによく似ている」と言われていました。当人(獣)の本能的メンタルでイメージしても、品川に出現して霞が関まで行くのにわざわざ銀座を経由する知恵とは何なのか、作り手の意図が透けて見えてしまうのが70年分の研究成果かもしれません。その点で見ると、「シン・ゴジラ」の蹂躙コースは面白くもなんともないルートながら、本人(獣)にしかわからないだろうなあと思わせる足跡ととれます。

それぞれのストーリーの詳細を失念した部分が多いのですが、大雑把に言うとあの巨体にもかかわらず、いずれの場合も東京湾内に入られてしまうという国としての失態を免れません。2014年までの上陸記録を綴った方がいらっしゃいますマッピングされた別記事もありました。議事堂なんて二度(-1.0でも消し飛んでた?←観てないのよ)もぶっ壊されるほどの国の脆弱ぶりですが、核施設があるわけでもないのに東京ばかり随分といたぶられたものです。

次の現代版ゴジラが来るとすれば、高輪あたりから東京スカイツリーを目指すような気がしますが、634mものタワーを薙ぎ倒しに現れるゴジラはどれだけでかくなることやら。関係なしと言われそうな話、議事堂は2023年にウルトラマンブレーザーと怪獣がぶっ壊してしまったので、再来年くらいまでは復旧途上となっているでしょう。

マイティジャックを取り戻せ! 後編

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その夜、太平洋上を飛行するMJ号を衛星軌道から捕捉するものがあった。
某国が打ち上げた気象衛星の軌道だったが、衛星は地上での組み立て時既に秘密組織Qに乗っ取られ、ある種の改造を施されていた。
打ち上げ後にその謀略を察知した某国は直ちに衛星の自爆コードを発信したが、衛星はコードを受け入れず破壊に失敗していた。国連安全保障理事会の緊急招集を機に大国によるキラー衛星攻撃ミッションも展開した。

それらはQ衛星の返り討ちに遭い多くが爆散させられ、発生したデブリ群がQ衛星を護る形となってしまった。各国とも「その場にある厄介者」を位置確認しながら打つ手を失っていた。
マイティジャックに対しては、東京の矢吹コンツェルンから秘密裏に指令が下され、MJ号による攻撃作戦をもってQ衛星の破壊を促すこととなった。
しかし、MJ号の飛行高度は15000mが限界だった。Q衛星は高度36000kmもの静止衛星軌道にある。
このため、小笠原諸島東端の絶海に秘匿されている第二ドックにて開発された大気圏突破用重装備「アストランダ―ロケット」を追加装備する作戦が、同メカニックを設計したT・ナリタ技術顧問により提唱され、MJ号は小笠原上空にさしかかっていたところだった。

不意に四方の闇が強烈な光に包まれ轟音と衝撃がブリッジを襲った。
「落雷ですか?」
「この星空の夜でか? これは攻撃・・・」
隊長・当(あたり)八郎の声を遮るように機関士の服部六助が叫んだ。
「核融合炉に異常発生! プラズマ消失です、固体水素ペレット入射装置が停滞した模様っ・・・冷却ユニットが異常高温化しています」
その声を聞くまでもなく、当はQの攻撃だと判断していた。
「以前艦内に潜入されて同じトラブルを抱え込んだことがあったな」
当に言われ、副長の天田一平はすぐさま服部に太陽光プラズマエンジンのうち太陽光発電部から蓄電された電力稼働への切り替えを命じる。
「被害状況を確認!」
「後部の太陽光パネルの一部を貫かれたようです。緊急隔壁閉鎖とパネル破損部への防護壁展開は完了」
「冷却タンク以下のフロアには被弾警報なし」
艦内モニターを続ける一条マリの報告に、当は唇をかむ。
「まるでレーザーメスのような貫通力だな。そのおかげで逆に破損個所は限定的に済んだが、冷却系統を狙い撃ちしてくるとは」
「冷却剤、やはり凍結しているようです」
マリの続報は乗組員を震撼させた。
冷却剤として使われている水素は、通常時も半凍結状態で微細な氷状粒子として融合炉内のプラズマ温度のオーバーヒートを防いでいる。その温度は-260℃だ。しかし攻撃されたことで500℃もの高温に沸き立ちながら、分子レベルとしては凍結状態となってしまったのだ。高速粒子線による超高圧力攻撃という兵器がQにはあった。
「例の『熱い氷』ですか。しかしあのときはわざわざ融合炉区画まで接近しないと効果が出せなかった代物で」
天田は信じられないという顔をする。科学陣の長、村上譲は冷静に状況を読んだ。
「技術のブレイクスルーだよ。おそらく今のは衛星軌道からの攻撃だ」
「高速粒子をそんな高高度から撃ち出すなんて」

「格納庫工場に超音波震動融解装置のパーツストックがあったはずだ。直ちに組み立て冷却水の融解作業を開始するよ」
天田との対話を一区切りして、村上が席を立つ。これにパイロットの寺川進が助手としてついていく。
当は一条に、三浦半島の本部に待機している緑川登と弓田エマ宛に状況連絡の暗号通信を送るよう指示し、服部に問いかける。
「六さん、蓄電量は?」
「第二ドックまでなら問題ありませんが、迂闊に近づくとドックの所在地を索敵されます」
「下には奴らの潜水艦の一隻や二隻はいるでしょうね」
「そいつらとやり合っていては融合炉の緊急停止状態が問題になる。といって着水後にのんびり見物してくれる相手でもなさそうだな」
「短期決戦、落とし前は付けてやりますよ」
天田は戦闘指揮を当に委ね、迎撃実務の担当を申告した。当は頷く一方で、
「着水と同時に急速潜航。俺なら着水時に艦の周辺にあの高速粒子ビームを乱射する。あれの出力が連射できるのかどうかはわからんが」
「なるほど周辺の海水を『熱い氷』で固めてこっちを動けなくするってわけか」
「よほどの自信があるのか、すぐさま二射目を撃てないのか。あれ一発で充分なわけだったが、敵に時間を与えるのは面白くない」
「ゲン、聞いてのとおりだ。いつ撃たれるかわからん、着水潜航急げ!」
「よーそろっ、全員着座しといてください、少々荒っぽく行きますよ!」
パイロットの源田明は余裕の表情で操舵桿を握り直す。
MJ号は降下速度を維持しながら艦首を徐々に引き上げ始める。

マリが叫んだ。
「上方に強力な電磁波! 第二射来ますっ」
「よけろゲン!」
ブリッジ前方右舷を高速粒子ビームがかすめた。目のくらむような光の槍とブリッジ内をも揺るがす轟音が響き渡る。源田は間一髪でこれをよけたが、MJ号周囲の雲と水蒸気が影響を受け艦体に付着して『熱い氷』と化した。
「ちくしょう、砲塔と艦載機射出口をやられた!」
「かまわん、今は潜航が先だ」
天田は源田の戸惑いを打ち消すように指示する。
「しかし射出口を閉じることができません。浸水します!」
「艦内工場側の隔壁閉鎖だけでいい。とにかく行くんだ。マリ、二射目までの時間差はわかるか?」
「4分28秒です」
「了解マリちゃん、潜航時間の記録打ち立てちゃる。先生っ、ケガ人が出るまで副操舵席を頼みますっ」

先生と呼ばれた英 健(はなぶさ たけし)が源田の左隣のシートに就く。心臓外科医が英の生業だが、マイティジャックにおいては源田、寺川と共に名パイロットの顔も併せ持つ。源田は振り向きもせず、誰にともなくサムズアップサインを繰り出した。

 

※本作は勝手に書き始めたオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

 

・・・というくらいで、あの有名な出航・離水シークエンスを冒頭に組み込んで30分はあるでしょうか。このあと海上、海中の脱出行があって、本部での緑川、弓田と矢吹のやり取りがあって、Qの絡みは謎として一切描かない。なんだかんだで第二ドックへたどり着いて突貫修理と宇宙用装備の増設をやって新しいシークエンスの急速発進を描いて、MJ号は宇宙の決戦へ・・・で、だいたい90分。

続きは・・・忙しいので書きません(おいおい)

 

 

宇宙世紀0133

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「機動戦士クロスボーン・ガンダム」は、「機動戦士ガンダムF91」の事実上の続編として1994年10月26日に連載開始されました。原作が富野由悠季さん、マンガを長谷川裕一さんが手掛けた27話のうち、富野さんが用意したプロットはアニメ化した場合の2クール分に及んでいます。「F91」がテレビシリーズ化できなかった反動かもしれませんが、ガンダムという記号が拡大し始めた頃、正当な宇宙世紀物として誕生しています。

「機動武闘伝」や「新機動戦記」がダメだというのではなく、すそ野の広がるガンダム世界の中、宇宙世紀を軸とする「Vガンダム」を挟みながら世界観を保つことも大事だったと思います。とはいえ富野さん自身が「眼玉2つ付いてて角があればみんなガンダム」と揶揄したように、GやWといった自らの手を離れたガンダムに異を唱えたかったんだろうなあと、海賊で義賊というクロスボーン・バンガードの設定や、クロスボーン・ガンダムのちょっと異形な姿に感ずるものもあります。

でも、外伝以降は別として、この27話にまとめられた物語はなかなか面白い。

特撮で来たのか!

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「ウイングマン」のテレビ放送が始まり、期待半分不安半分の駆け出しに、でもどっちかと言えばライダーに見えない仮面ライダーにも一年交代のスーパー戦隊にも食傷気味で、眼の下のクマが気になるくらい人相の悪い今期のウルトラマンにも感情移入できなかったところなので、過去にアニメ化されこけた(ような気がする)このヒーローを特撮で描こうというのは歓迎です。ウイングマン自体が数多の特撮のオマージュみたいな漫画でしたから、ずいぶん待ったなあと。

ひとつある懸念材料は、なにしろ1980年代に描かれたヒーローですから、ノートにイメージを描いて現実化させるという軸は良いとして、記載事項の書き換えだとか可能不可能の矛盾、ガジェットや決め技のネームセンスだとか、けっこう陳腐でもあります。歳くって尚吹き出さずに見られたかというと、もう苦笑ものではありました。だけどこれほどエッジを効かせながら王道をやろうって考え、テレビ東京ならではですね。

 

マイティジャックを取り戻せ! 中編

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「マイティジャック」の名シーンである出航場面は、オープニング映像としても有名ですが、第一話ではそのオープニング前のアバンで見せつけていました。これは1968年の映像で、円谷特撮としては前年の「ウルトラセブン」において、ウルトラホークの出撃シーンが先達として、遡れば「ウルトラマン」のジェットビートルといった映像の試みもありました。万能戦艦の出航は、それが全長235mという巨大さを表現する意図がうまくまとめられていたと思っています。

先に撮られているウルトラホークについては、まさしく「サンダーバード」を意識したカット割りに、管制室の実景を合成するといった凝りようですが、1号が全長40m級の大型機には見えにくい感も無かったわけではありません。それが235mにもなると、どこに置いてあってどんなプロセスで動き出して・・・などの場面設計と同時に、スケール感も考慮しなくてはならない。これを海底ドックから始めるとなると、そこまでMJメンバーはどうやって移動するか、ドックへの注水の水量をどのように見せるかまで積み上げる必要があり、それらがこの番組最高の見どころになっています。

ただし、東京の某所に集合をかけられ、メンバーがあちこちからそこへ駆けつけ、秘密裏に作られた移動レールカーで三浦半島まで移送され、ようやく乗り込んでからドック注水してフルゲージを待って出航し、離水するまで13分とちょっと。

ありえねー(笑)

ここからです。一度飛んでしまうと、敵組織が虎の子の空中戦艦を出してきてもスケール感が速度感の阻害要因になり、ミサイルの撃ち合いがまた凡庸になってしまいます。あまつさえメンバーが事件解決するためには艦外で戦わねばならないので、万能戦艦の出番は削られてしまいます。スパイアクションは面白かったけれど、僕らはたぶん、もっとたくさんのアングルから万能戦艦の活躍を見たかったのです。

これは次作の「戦え!マイティジャック」になっていくらか改善されたような気もしますが逆に、怪獣だの宇宙人だの巨大ロボだのをぞくぞく登場させやがって(笑)、子供をなめてんのかこのやろーっ という反感も持つのです。つまるところ「ウルトラ」以上にドラマと特撮を融合させるシリーズ構成者が必要で、脚本自体に関与していかないと、物語をもたせる尺は成立できないという大きな問題が見えているわけです。

「戦え!」において、そこをどうにか払拭できたと思えるのが、1クールと2クールのつなぎに放送された「マイティ号を取り返せ! 前後編」かなと、100%個人の趣味で引き合いに出してみます。Qの罠に誘い出された源田が艦を離れてしまい奪われてしまう。源田は漂流しながら近くに居合わせたヨットに辿り着き、どこかで見たことのありそうな謎の青年と出逢う。Qの手に落ちた万能戦艦は東京に襲来して霞が関ビルを突き破るなどの暴れ放題だが動力炉の異常で撤退。源田は仲間に叱責され単独で捜索に赴き、ちょっと都合良いけどQの基地を発見。ついでに謎の青年とも再会。しかしQにとらわれ動力炉の制御を迫られるがそこは秘密。

Qも馬鹿ではなく、源田の声を録音して声紋を使った制動起動の音声を流し再び出撃。その頃MJ本部では万能戦艦撃墜用のミサイル発射を決定。源田たちは艦内で銃撃戦をやらかし艦を奪還するもアンチミサイル発射回線を壊してしまい大ピンチ。そこで謎の青年は懐から・・・

多少の尺の都合にめをつむれば、この前後編はドラマと特撮が上手にまとめられています。回線修理のためにペンチを取り出す謎の青年が、ついこの前まで懐から赤いあれを出していた人だったというのも、遊び心全開です。ただこれは、「ウルトラセブン」という基礎情報を刷り込まれていたからこそ面白かったし、万能戦艦の出番が敵の手に落ちてからという、いろいろと禁じ手含みでもあります。強奪ではなく洋上で氷漬けにされるとか、別の客編にはまだ余地があるはずです。