「私が10歳若くて、現役のドライバーだったとして、ガチでバトルをやっても敵わないと思わされましたよ」
島雄司監督が、いつになく神妙なことをつぶやきます。何事かと思えば、TDA最終戦を終えて、ドライバーたちとの反省会を兼ねた飲み会の席で、川添哲郎選手が今季の走りを自己評価したときのコメントの内容に起因したようです。
「ブレーキングなんですが、我々には理解できないところで、行ける行けないの感覚で当てているようです。もう背中と尻でコントロールしているとしか思えない」
そういうことはあるだろうと思うのですが、傍で見ていて想像するのと、実際に走ったことのある経験から比較したものとでは全く違う。たとえ感覚的な領域であっても、監督自身は、とても歯が立たないと思ったのだそうです。
「今回、川添くんもだいぶエスクードに乗り慣れての、後藤くんとの本格的なバトルになったはずだけれど、二人の走りは全く異なる。川添くんは最終戦のコースを見た途端、『これは後藤の得意なコースだ』と判断したそうです。それで、後藤くんの走りをトレースしながら、攻めどころを見出していたらしい」
両者の走りが異なるのは、実は二人が同じエスクードに乗る以前からわかっていました。それは2007年のXCダートレースで、二人がペアを組んだ耐久戦を見たときに、感じていました。大上段から振りかぶっていく後藤くんと、八相の構えの川添くん(どういう例えだ?)。
案の定、それぞれがエスクードに乗ってみると、力技で曲がっていく後藤選手に対して、絶対五感とも言うべき挙動のフィードバックで、絶妙にコントロールしていく川添選手と、その違いがはっきりと出ているのでした。
贔屓目なしで言うなら、天才肌は後藤くん、匠の職人が川添くんです。最終戦は後藤くんが制していますが、そこには車の仕上がりという要素が絡んでいます。
第一、第二戦では、後藤エスクードのミッションにトラブルがありました。その対策は最終戦までに施され、彼の振り回す挙動とシフト操作にも耐える補強が功を奏しています。逆に川添エスクードは、そのミッションが限界に近づいていました。この状況が、二人それぞれのドライビング最大の特徴を引き出していることも印象的なのですが、ハンデの大きくなっていくなかで、シリーズタイトルへのルートを組み立てていくところに、匠の仕事があったのです。これをほうっておくと、後藤くんは来季、かつてない強敵を相手にすることになります。
しかし後藤くんが不利になっていくかといえば、そうとも言い難い。なぜなら川添くんのここまでの走りは、後藤くんの走りあっての戦い方でもある。川添くんが詰め寄ってきたところを打ち消していくセンスが後藤くんにあれば、まだその差を引き離すことは可能です。そして、天才というか芸術家というか、芸人気質(なんかどんどん落ちているけど)の後藤くんには、エスクードの性能を100%とプラスアルファ引き出す才能があります。
なるほど、こりゃもう監督、適わないのも無理がない。
けれども重要なことがひとつ。この二人、我々の悪巧みでツインカム2リッターのエスクードをパイロットすることとなりましたが、できることなら、1.6リッターの軽量級エスクードで、追撃してくるハイパワー四駆勢と、ジムニー勢に挑んで欲しいということです。それれは、よりドライバーの腕が物を言う世界だから。
たしかに、この2人には卓越した走りのセンスがあるのも事実ですが
誰よりも速く走りたいという思いは多分、お互いに自分が一番だと・・・・。
そしてそれこそが相手を意識した走りとなるのでしょう~
誰よりも、それは絶対に誰にも負けない。その気持ちがなにしろ、二人それぞれの原動力ですよね。
その気持ちが、たぶん極めて平凡なはずのエスクードを、あそこまで非凡な車に押し上げてしまうところに、彼らの素晴らしい魅力があります。