というのは平井和正さんの「狼男だよ」に収録されている、同書の第一部。アダルトウルフガイシリーズの幕開けです。主人公であるフリーのルポライターにしてその名の通り人狼である犬神明が愛用しているのは、当前ですがエスクードではなく510型の日産ブルーバードSSSで、そもそも1969年の作品。うーむ、まだ半世紀には至っていないけれど、犬神明もずいぶん長いこと読まれ続けています。月が満ちると無敵の超人と化し、逆に新月の底にあってはハイヒールで小突かれただけで悶絶失神してしまうおじさんですが、たぶん彼はその世界ではまだ中年のままで、僕の方がずっと歳をくってしまったに違いありません。
今の若い人には、犬神明はジャン・ポール・ベルモンドをさらにやせぎすにした風貌・・・と言ってもジャン・ポール・ベルモンドが誰だかわかんないかもしれない。さらに犬神明も少年のバージョンと大学生のバージョンと少年犬神明の後見人である神明がそれぞれのリーグに狼男として存在するかと思えば、後の月光魔術團以降はいぬがみ・めいと呼ばせた女の子までが登場してしまう面白くもややこしい人狼たちの、ひとりです。
犬神明(中年)もまた、世に送り出されたヒーローの定めであるのか、狂信的な老人からやくざあたりを相手にしていたものがやがてCIAだの中国の情報部だの内閣調査室だのとどんどん敵対する相手がインフレしてしまうのですが、平井さんの小説にはしょーもない言霊があって、忘れた頃に読み返したい衝動に駆られるのです(まあそんなのは僕だけか)
実は、どこぞの誰かもわからない僕の知らないどうでもいい人が、僕について「エスクードにしか乗っていないという偏りっぷり」と揶揄してくれているのですが、それはバカにしてくれていても痛くもかゆくもない話で、それさえも狙いの一つで乗っていたりする部分があります。
いやはやこの展開は我ながら唐突ですけど、10代で出逢った音楽だとか文学だとかは一生もので、だけどクラシックやら純文学やらは取り込んでいてもあまり表に出さないのに、ちょっと砕けたところにあるジャンルは引き合いに出したくなるのです。ウルフガイシリーズとエスクードには、そういう似通った部分があるのです。あ、エスクードとは20代での出会いだけどね。
しかし、うちの車は残念ながら、娘によって違う動物を連想させる名前を付けられてしまったので、狼というネーミングは永遠に採用できないのです。世が世ならBLUEうぉるふとなっていたかもしれないけれど、そこはそれ分相応というやつです。
ここで「蒼き狼」と綴ってしまうと井上靖さんの小説になってしまいますが、BLUEWOLFなどという命名をしそうなエスクードファンも確実にいらっしゃり、そういう人もきっと、僕と同じで懲りない人種に違いありません。
誰だそれはって? それを問うたりしないのが粋ってもんです。