五月病にかかる余裕もない日々が続くというのはありがたいことなのか、真っ黒な世界なのかようわかりませんが、エアポケットのように何も予定のない週末を送ることとなり、ぶらりと十代の頃の楽園に出かけました。
ま、のーんびりに聞こえましょうが、金曜日は秋田県の横手市から山形・福島経由で走り抜け帰宅というやれやれな週の終わりだったんですけどね。
高校生の頃から通っている蕎麦屋に行こうか、もう一軒の天ぷら屋に行こうか思案の末、道路を渡る際に偶数で行けたら蕎麦屋、奇数だったら天ぷら屋と決めて歩いた結果、「吾妻庵」ではなく「ほたて」の暖簾をくぐることに。脳内では天ざるだったんですが、天ぷら定食を注文するわけです。
どちらの店も創業百年を越える老舗ですが、双方、僕を連れて行ったのは祖父でした。
それを思い返すと、既に五十年前になる。街の歴史の本に出てくる店だと認識していたのに、自分自身が歴史の中に埋没していますよ。こればかりは逃れられない現実。だけど「とても素晴らしいが何処にもない場所」という理想郷だとかアルカディアだとか、どう考えても非人間的な支配社会のようなユートピアとは違って、楽園と呼べる街はうらぶれようともちゃんとあるのです。湖畔はいわば楽園の向こう側なのですが、そこからの夕景にも、街は横たわっています。