1997年6月30日から7月1日を跨ぎ、イギリスと中華人民共和国による香港の主権移譲式典が開かれていた頃、警視庁から研修名目で香港警察に出向していた若手警察官・熊耳武緒は、謎多き東洋人リチャード・王との逢瀬を重ねていましたが、この主権移譲によって中国側からの追跡と捕獲の危機を被ったと思われる、裏社会の住人リチャードの保身逃亡によって、武緒の恋は無残にも終止符を打たれるのでした。香港警察も彼を内偵しており、追手は直前に迫っていたようです。
リチャードが逃げおおせる結果を生んでしまったのは、それこそ彼と武緒のピロートークから情報を引き抜かれてしまった武緒の落ち度でしたが、2人の因縁は今度は世紀を跨いで引きずられ、本当に悲恋の幕引きを遂げるのでした。
ともかくも四半世紀前、リチャードが最後に武緒を利用したとしても、2人の蜜月は確かにその頃育まれていて、極東の租借地で武緒の人生は溌溂としていたのです。租借地としての終焉と、彼女のパラダイス・ロストが同時期に降りかかってくるとは、因果なお話です。この出来事が後の「おタケさん」のパーソナリティを形成していったことは想像に難くありませんが、素の彼女はなかなかかわいらしいところがあるので、この四半世紀を健やかに過ごしてくれていればいいなあと。