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  ~懲りない傾向~

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ参

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「あいつら全部囮だってことですか」
天田は半信半疑で聞き返した。当は推論を明かす。
「俺なら炸薬満載して突っ込ませる。全長80m級の魚雷だよ、至近距離で自爆されたらひとたまりもない。あれはおそらくそういう仕掛けで自動操艦されたポンコツ潜だ」
「もし満載しているのが核魚雷だったら・・・」
「それは無いな。こっちを拿捕しようというなら艦体をへし折るのは構わんだろうが、核汚染させてしまえば奴らだって手出しできなくなる。3隻のうち有人は1艦のみだ。左舷と正面のやつがオートマチック艦と見る。各艦にノイズデコイを撃て。こっちはさらに潜航する!」
源田の隣で火器管制を任された寺川が対潜ミサイル発射管から3発のデコイを撃ち出す。マリのレシーバーに耳障りな音響反応が伝わり、三方に離散していくのがわかった。
マリはレシーバーを少しずらしながらMJ号の位置情報を確認した。
「伊豆・小笠原トレンチ、10時の方向4000mです」
「まさか海溝に潜るんですか?」
さすがの源田も当に直接聞かざるを得ない心境だった。目前に迫る海溝は9000mの奈落の底たが、そこに至る海溝の「縁」は既に5000m級の超深海なのだ。MJ号の潜航深度限界は1500m程度と覚えさせられているものの、隊の創設以来そこまで潜航したことはない。
「負ければそうなるが、そのつもりはない。逆にあの厄介なやつらを地獄の底に突き落としてやりたいんだが」
そう言いながらも、当は現状、逃げるしかないなとも思っている。仮に彼の想像通りだとすれば、敵潜を接近させ過ぎた。迎撃が成功しようとも爆圧のあおりを防ぎきれない。
逃げるとすれば全方位の何処に進路を取るべきか・・・と逡巡しているところへ村上の声が響いた。
「発振器の移設完了! 隊長、これでうまく行くと思うが融合炉のプラズマ再生成まで時間を要する」
「・・・どれくらいだ?」
「那珂の実験炉では5時間もかかっていたがそうだな、同時に炉の再起動も進めて30分でなんとかする。ただし飛べるまでにはもっとかかる」
「すぐにやってくれ」
「S.M.J」
村上は即席で作った操作機器と既存のマニピュレータを連携させ、レーザー発振器を遠隔操作移設し、発振器の出力調整を済ませていた。太陽光集積パネルから発電し蓄電されている電力の30%を消費することになるが、この30%という出力も極めて大電力だ。
「服部君、融合炉の再起動用意。こっちは冷却系を復旧させる」
「エスエムジェイ!」
「源さん、悪いが電力を分けてもらうぞ、名付けて『稲妻落とし』だ」
「えっ? 『雷おこし』じゃないの?」
源田がとぼけたことをつぶやく間に艦全体を大音響と振動が揺さぶりをかけた。レーザー発振器からの高出力電撃が冷却系に衝撃を与えたのだ。
一瞬、ブリッジ内の照明がブラックアウトし、非常電源に入れ替わる。計器類も一部の設備が沈黙した。服部が状況を知らせる。
「全電力、残り12%!」
「大丈夫だ、うまく行っている。先生!さっきと逆の要領で発振器を炉に戻してくれ」
「敵潜1艦近いです!」
「直撃だけは避けろ、対潜魚雷全問撃ちつつ回頭っ」
マリが叫ぶ。天田は咄嗟に回避運動を命じた。
左舷から接近してきた潜水艦がMJ号の回頭に併せて並走するように近接し、対潜魚雷と接触し炸裂した。
当の予想通り、通常炸薬の爆発だったがその威力は魚雷の破壊力をはるかに上回り、左舷の射出口付近で装甲版の歪みが起こる。更に最悪なことに、左翼先端の補助推進ユニットが誘爆して吹き飛んだ。
MJ号の艦体は左舷を大きく持ち上げられローリングしながら剥離した破片をまき散らした。
「みんな大丈夫か!」
「こんなのをもう一発くらったら艦が持たないぞ」
爆装潜水艦はMJ号の艦底部側に潜行している。MJ号はローリング状態にあり右舷を晒し始めた。艦内の乗員は着座しシートベルト固定していたことで振り落とされずに済んでいたが操艦などできない。源田は必死に操舵桿を固定しようとしがみつく。
機関制御をしている服部が叫んだ。
「源さん頑張れ、核融合炉アイドリングまであと3分!」
そのとき右舷で強大な爆裂が起こった。
主翼がねじ曲がり基部からもぎ取られる。だが浮力までは奪われていない。水中姿勢制御のために、源田は舵をあきらめ水流ジェットスラスターの操作盤を使って艦の回転を止めにかかる。
「隊長! これ以上はフネを安定できませんっ」
「そうだろうなっ、だがこの深度ではハイドロジェットもコンクルーダーも出せない。対潜ミサイルで可能な限り応戦する」
それを受けて天田が残った敵潜に斉射できる発射管を指示した。寺川が素早くミサイル発射ボタンを押す。
「敵艦上方から多数の個体反応あり、これ爆雷と思われます!」
マリの索敵報告は天田にもすぐには理解できなかった。
「こっちもやられるぞ。しかし避けようがない」
「待ってください、この爆雷は誘導されているみたい。敵潜1点に集中していきます」
そのさなか、今度はMJ号のブリッジ右舷上方に何かが衝突する振動と衝撃音が響いた。
『・・・つな。こち・・・味方だ。・・・から救助さ・・・いる』
突然、ブリッジ内に音声が伝わり始めた。
「どういうことだ?」
「ひょっとすると・・・有線電信機器か何かが撃ち込まれたんじゃないか?」
当のつぶやきに英が答えた。
「今の衝突音か。しかし何者だ?」
『マ・・・ジャックの諸君、・・通話はケーブル長・・・ぎりぎりだ。そのまま浮上され・・』
「浮上できるか、ゲン?」
「そりゃやりますよ。バラストタンクのバルブがいかれてないことを祈ってください」
「敵潜はどうなっている?」
「爆雷らしきものが誘爆中。こちらのミサイルも運よく命中したようです。沈降続けてます」
マリに続いて服部が報告する。
「融合炉アイドリング完了。あまり安定していないが全電源戻せます」
「よおし、鬼が出るか蛇が出るか。声の主に頼ってみる。微速浮上、艦体の破損が心配だ」

見るも無残な姿となったMJ号は右翼を失い左翼も半壊している。ただ通常の潜水、浮上の際にはなかなかの抵抗を起こす部分でもあり、安定性を欠いたとはいえ操艦には別の意味で不幸中の幸いとなっていた。
MJ号は海流の影響を受けてふらつきながらも、ゆっくりと浅深度へと浮上を続ける。
当は口には出さなかったが、ここまで艦体を破壊されては第二ドックに辿り着けても宇宙に行くことができないと悟っている。洋上にいる「味方」にしても、どこまで信用できるものかは不明のままだ。
依然として不利な戦況であることには変わりがない。
「隊長、あれを・・・見えますか?」
寺川が窓越しに上を見上げる。ソナーにもそれは反応が出ていた。
「ずいぶんでかい船底だな」
「MJ号より巨大です。あ・・・船底が開いています」
「先生あれは何だろう」
当は平時、貨物船の船医をしている英に訪ねた。
「おそらくタンカーだと思いますが・・・それにしても大きい。MJ号どころか空母並みだなあ」
『マイティジャック、応答可能ならMJE周波数で送れ。このケーブルは受信は出来ない。本船を目視出来たら船底ゲートに入られたし。翼が無くなっている今のMJ号なら幅員に問題はない』
「マリちゃん、エマージェンシーコードで了解したと伝えてくれ。どうやらQの二段構えの罠ではなさそうだ」
「大丈夫でしょうか」
「こっちにはまだ弾薬がある。罠だったら敵の腹の中で盛大に打ちまくる。博士、『稲妻落とし』で手間をかけた直後で済まないが、全艦載機の組み立て待機を頼む」
「脱出用かい? それならピブリダーの一機は福座にした方がいいかな」
「それで頼む。予備のエキゾスカウトも使えば全員分乗できる」
「隊長、謎の船に最接近。向こうから誘導ビーコン来ています」
源田が伝えてきた。行け、と当は指示する。
全長235mのMJ号用にあつらえたとしか思えない巨大船影の底に開かれたゲートに向かって、源田はあぶら汗を流しながら操艦を続け、船内に艦体を浮上させていった。
船内は予想通りの広大な空間を有しており、与圧によってMJ号の喫水線に近い水量の海水と、甲板上を行き来できるだけの大気に満たされていた。
定位置に達したMJ号を両舷から支えるようにアームが伸びてくる。鈍い金属音とともにアームが接舷し、艦体を固定した。
『船内の与圧量はそのまま甲板に出るには危険だ。すぐにPBBをかける』
今度はMJ号の通信機器に対して語りかけてきた。
「やれやれ。大負けに負けたもんだよ。フネの損傷は見たくもないほどでしょうな」
天田が毒づいた。
「どうしますこれから?」
「支援が来たということは、作戦を続行しろというのが本部の意向だろう。どうやって続行するかは・・・この段階では何も思いつかん」
当はこの段に及んでも冷静さを失わない。それでもMJ号無しの作戦遂行はハードルが高すぎる。
「隊長、パッセンジャーボーディングブリッジが接続されました」
マリが安堵の表情で報告する。当はようやくシートベルトを外し席を立った。
「全員下艦。命の恩人に礼を言いに行こう」

低い機械音が響いてくる、静かな船内だった。
どれほどの大きさなのかは見当もつかないが、艦外に出ると桟橋からずっと、3連結のカートに乗せられ船尾方向へ彼らは運ばれていく。
「そうか。もしかするとこの船は“Seawise Giant”かもしれない」
英が何かを思い出した。
「確か全長だけでも450mに及ぶ、世界最大のタンカーだった船だ」
「だった・・・とは?」
「ええ。1970年代に作られ、80年代に進水するまでに一度輪切りにされて船体の真ん中を増設して巨大化した船ですよ。最初はギリシャからの発注でしたがいろいろ問題点が指摘されて最終的には中国の海運が買い上げ、船体の延長をやったはずです。こういうマンモスタンカーが群雄割拠した時代があったんですが、シーワイズ・ジャイアントは別格にでかい」
「てことは、この手の巨大船は廃れたんですか」
「その通りだ寺川君。そもそもこんな船、スエズ運河を通れない。マラッカ海峡も浅くて運行できない。そうこうしているうちに原油価格の高騰など海運不況も手伝って、大型タンカーと言ってもせいぜい32万トンくらいが上限になっていった」
「寄せられる港も限られそうですね」
「そうだよマリちゃん。80年代にはイランが用船して原油の積み替え浮体基地として使われていたところをイラクのエグゾセで撃沈された。そのあと修理されてノルウェーの管理になったりいろいろ引き回されて、その都度船名も変わって、最後には『ノック・ネヴィス』と呼ばれてカタールに行った」
「激動の船旅ですね」
「そうなんだ。しかし15年くらい前に廃船・解体されたはずだ」
英の講義が終わったところで、カートはエレベーターホールのようなスペースに滑り込み、停車した。2つあるエレベーターの片方がドアを開けていた。
「どうやらブリッジに案内されているようですな」
「もう怖いものなしだよ。上がろう」
機材運搬にも利用するのか、エレベーター内は8人が余裕をもって乗り込める広さだった。
ゆっくりと上昇が始まる。
ややあって「箱」の動きが停まり、ドアが静かに開く。
ブリッジだとひと目で分かった。操舵主らしき男と3人のクルーがそれぞれの持ち場についていた。

彼らとはまた別の人物が振り返り、笑った。
「ようこそMT号へ。全員生還できて何よりだ。私は本船を預かる大利根七瀬だ」
男の歓迎に、当が代表して答えた。
「大利根船長、まずは救助支援に感謝します。我々の御同輩とお見受けして名乗らせていただきますが、各員の自己紹介は控えます。私がマイティジャックの隊長、当八郎です」
「当隊長、MJ号は残念なことになった。だが生き残ることが先決だ。君たちには悪いが、準備ができ次第、第二ドックに飛んでいただく。いやなに、この船だとせいぜい20ノットしか出ないんでね」
「あのぉ」
源田が当の背中越しに手を挙げた。
「操船担当の源田明です。二つお聞きしたいのですが」
「なんだね、言ってみたまえ」
大利根が質問を許可した。
「ここへ来るまでにMJ号を目視できませんでした。外から見た損傷を気にしています。もう一つは・・・どうやって第二ドックへ行けと・・・」
それは全員の代弁でもあった。目まぐるしく変化している状況を呑み込み、整理する必要があるのだ。
大利根は答えた。
「話しやすい方から行こう。第二ドックへのナビゲーションプログラムを君たちの艦載機に提供する。指定ポイントに本船よりは小型のカタパルト潜が待機する。着艦、係留後に潜行しドックに向かう」
「潜水空母・・・」
「空母というほどのものじゃない。甲板上に四機も乗せたらそれで満席だ。さて源田君からの答えにくい最初の質問だが、本船ドックの映像を見たまえ」
大利根の部下の一人が計器盤を操作し、ブリッジ前面天井に敷設された液晶モニターが投影を開始した。
マリが声に出さずに悲鳴のようなうめき声をあげた。一同、息をのんで映像に見入る。
「うひゃあ・・・こんなのどれだけ修理にかかるんだ? というか、これ修理できるんですかねえ」
「素人目に見積もっても二年や三年は必要じゃないかな。だが今、それを憂いている暇はない」
「ということは」
天田が口をはさんだ。
「副長の天田一平です。行けというからには、第二ドックに何か逆転を撃つ手立てがあると」
「向こうにその責任者がいる。そこで指示を受けなさい。本船が追い付くまでに準備と休息の時間を得られる」
「隊長?」
天田の表情を読み取った当はゴーサインを出した。
「手分けして艦載機の発進準備にかかれ。博士が途中まで作業してくれていたのはラッキーだったな」
「まあな、隊長の即断の賜だよ。それじゃあ行こうか」
村上の合図でメンバーたちは踵を返す。
「当君、少し時間をもらえるかね」
大利根が当を呼び止めた。
「・・・なんでしょう?」
「私の事務室へ行こう。手短に済ませる」
大利根は目じりにできた皴が動くような笑顔で言った。
何か懐かしいものを眺めるような表情だった。

 

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

いよいよ長くなってしまいました。もはや90分の尺は諦めて、なるようになれですが、これ年内に書き終わるのか?

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