Trend-Blue

  ~懲りない傾向~

マスカーワールド(仮面の世界ではないよ)

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大雑把な部分は自分でやりますが、ヘッドライトやテールランプのような微細で複雑な形状のところは、もはや目がついて行かないし指がごつすぎて太刀打ちできないのです。

年末に作業して休みの間に完成させるつもりでしたが無理だなこりゃ。という窮地はやはり霙が救ってくれます。あとは期間にこだわらずのんびりやります。

それにしても1/43スケールで流用させてほしいパーツというのはまず無いですね。そんなサイズの模型自体が無いんだから。仕方なくタミヤの1/35で加工できそうなものを、これまた直感ヤマ感で選んできます。98%は使わないままジャンク行きです。最大の問題は、頭の中のイメージを再現できるだけの器用さが無いってことなんです。

20年目の斗折蛇行

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唐代の文学者であり高級官僚であった柳宗元(りゅう そうげん)が綴った「斗折蛇行」という言葉は、北斗七星のような折れ曲がる星座の配置と、蛇の進むが如くうねりを、道や川の続く様として表しています。この言葉と関わるわけではありませんが、彼もまた優秀な役人であったのに、上層部の政変で左遷の憂き目にあった男でした。

人は大なり小なり紆余曲折な暮らしを続けていますが、そのことはさておきうちのスズキエスクードTD61Wは、乗っている自分が言うのもなんですが、これほどこの言葉が似合うエスクードを他に見ない道のりを走り続けています。海外に持ち出された古い個体には、おそらくうちのエスクード並みの積算走行距離を刻んでいる物があるかもしれませんが、少なくとも日本という国内において、あと約50000キロでオドメータがリセットされるような(リセットされるかどうかスズキもわからないと言っているという)個体は無いと思います。

この個体は90000キロ直前で下取りに出された1台でしたが、二人目のユーザーとの出逢いは20年前のことです。これまた自分で言うのかの話ですが「厄介な奴に見つかっちゃったよね」の始まりが、2005年の夏のこと。そこから文字通り「とせつ・だこう」の日々が繰り広げられています。走ったし壊したし壊れたしで、見てくれ以上に満身創痍です。「斗折蛇行」と言いながらも、走らせる意志と走る力が微塵もぶれていないことだけ、この個体の見どころです。

まだまだ行先は各地に折れ曲がって所在し、そこへたどり着く道のりも未踏でうねうねと曲がっているのですが、今年も淡々と走り続けるのみです。

 

遅くなりましたが報告しますと、12月30日夜、急な鳩尾の痛みと嘔吐で倒れまして、県立総合病院に電話をしたら救急外来が混雑しているけれど、来るだけ来てみなさいと。雫さんに運転してもらって駆け込んでみると電話のときのピークは過ぎたのかもともと混雑していなかったのか、すんなり診察に回されました。

ここら辺の経過はほとんど覚えていませんが、あとから情報を加えると、触診とか心電図とかCTスキャンでわかったのが胆石。しかも胆道と胆嚢の接点に確認されステンドを入れて胆道確保の必要アリと。しかし場所が悪く胆嚢を傷つける恐れが出ていてそれやっちゃうと最悪重篤化と脅されたようですが、朦朧としていたのでそのまま内視鏡処置へ。

この頃すでに意識はありません。内視鏡は口から入れられたようで(マウスピース咥えていた)すがあれが体内を蛇行した感覚が無い。←干支的な表現できたよ

この一連のフェイズ進行の最中、胆石は発見場所から砕けて落ちてしまったらしく、ステンド処置も必要なく内視鏡自体も短時間で抜き取られ。朦朧としたまま病室までストレッチャー搬送され点滴の管につながれておりました。

年越しのさ中にお騒がせして申し訳ありません。膵臓も弱ってるってことで診察は続いております。

Gott nytt år 2025

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マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ捌にして了

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横須賀地方隊所属の掃海隊が操る掃海艇「えのしま」型掃海艇、「えのしま」と「ちちじま」による「熱い氷」の撤去作業が続く中、頭上で耳障りな噴射と排気音を響かせる黒い飛行物体は、突如轟音と共に前方に向けて砲雷撃を開始した。
「何事か!」
「えのしま」の艦橋では情報収集に追われた隊員たちが肝を冷やしていた。砲撃の電磁衝撃波で通信状態もブラックアウトする。

この電磁障害を受けた民間の報道ヘリコプターも現場から離脱せざるを得なくなった。
横須賀側、富津側の地上に散らばっていた報道中継車もまた、電波障害のあおりを受けてお手上げとなっていたが、そこかしこで携帯電話のカメラ機能を使った市民が勝手にインターネット上に動画を配信している。だがそれらもまた通信不能状態に陥る。
既に羽田空港での離着陸に対して、管制側では航空機との交信がブラックアウトしたことで支障を来していた。謎の空中戦艦が放つビームの余波は想像以上に大きく、湾岸各所でも自動車のエンジンがストールしナビケーションも不能となっている。
「上空の飛行物体は東方15キロ地点に飛行していた物体を砲撃した模様。この二つ目の飛行物体は落下地点で巨大な水柱も確認されており、爆発墜落したと思われます」
「『ちちじま』からも同様の発光信号あり。館山からは支援機が向かっているとのことでしたが安否不明」
「何が始まったんだいったい」
「ひょっとして・・・『МJ事案』では?」
東京湾の混乱は次第に、様々な形で全国に拡大していった。

「会長宛にお電話です。中野のオフィスから転送されています」
エマがレシーバーを持ってきた。矢吹はそれを受け取り自席のジャックにケーブルを差し込み、レシーバーを着装する。
『さすが、マイティジャックの専用回線は電磁波嵐の中でも問題ないようですね』
男の声に聞き覚えは無かった。
「どちら様かな」
『初めまして、矢吹省吾と申します。大五の倅です』
「・・・大五の。そうか、君は父親の跡を継いだというわけだね」
矢吹は表情を変えることなく、傍らのスイッチを入れた。
「選択の自由は君自身のものだが、私のところにも顔を出してから決めてもらいたかったな」
『何をおっしゃいます。あなたのところじゃもう、孫と言えども僕の居場所なんか無いじゃないですか。父もそうでした。ただ、父の場合はもともとあなたと相いれなかったんでしょうけど』
対話に出てきた矢吹大五とは、矢吹郷之助の四男だ。矢吹には正妻、後添え、妾との関係も合わせて8人の息子、娘たちがいた。筆頭の長女と長男、次男は戦時中の空襲で失い、三男は戦後の混乱期に病死している。現在は一女二男の3人が存命だが、五男と、末の六男に至っては矢吹が60代の末から70代に入っての隠し子だった。大五は矢吹にとって後継者の期待を寄せられていたが、高度経済成長期に学生運動から過激派に加担し行方不明となったままだった。後に矢吹の諜報筋から消息はつきとめられ、よりによって矢吹の忌むべき仇敵のもとに身を寄せていたことが判明した。
矢吹が旧海軍時代の諜報部員であったころ、同様の任務を遂行する旧ドイツ軍将校との交流があった。敗戦によって互いの連絡は途絶えたが、このドイツ将校はベルリンを脱出し地下に潜伏した。連合軍側が世界秩序を回復させていく中で、矢吹がGHQの配下で日本経済の立て直しを進めたこととは真逆に、再び第三帝国の覇権を取り戻そうと暗躍に走ったのがその将校だった。彼はやがて世界の覇権をも手中に収めるべく地下組織を巨大化させていく。
科学時代の悪、と呼ばれたQの橋頭堡だ。
矢吹は比較的早い段階でこれを察知し、対抗手段を立案し実行してきた。
マイティジャックである。
しかし矢吹の誤算、彼を襲った運命の翻弄は、四男が思想的に反発し、社会的地位を身につけ力を振るう父親の行動を私欲にとらわれた傲慢だと罵り家を飛び出していったことだった。
Qにとっては矢吹をあざ笑う出来事だったが、Qに身を投じた四男・大五の思想はともかく、実力は伴わず、組織内で粛清されたとの情報を得たのが最後の足取りだった。
その四男に息子が、自分自身にとっては孫が存在したことは、矢吹にも驚きの事実だった。
『矢吹会長。僕は反社会思想に踊らされただけの父とは違います。無論平和主義の思想に正義をこじつけたあなたとも違う。僕はビジネスモデルを提案するために来ました。あなたのご自慢の万能戦艦は、たかが模造品でも退けられる。同時に世界の均衡もこれだけで突き崩せる。そしてこのビジネスチャンスは何も空中戦艦に留まらない。これを飛ばす技術も動力核融合も大きな市場を切り拓くのです。あなたをこのフネに招待したいけれど、どうせあなたは僕など認めないでしょうけどね』
男の声は愉快そうに聞こえた。
矢吹はじっと瞼を閉じたまま聞き続けていたが、ゆっくりと口を開いた。
「矢吹省吾君、なんとも稚拙な商魂と口上だね。だがその若さだけは羨ましく思うよ。人はそのような過ちを糧にして成長するものだ。そこでひとつ言っておこう。君は父親の大五とともに矢吹の掟に背いている。その大罪を私は許さぬ」
『ほう、一度は祖国を滅ぼしかけた愚者の一員であった罪を逃れ、進駐軍の手先となってのし上がったような家系にどれほどの大義があるというんです? あなたは国を再生したかもしれないが、いつまでも玉座に居座り続けて私欲に酔いしれている。《矢吹郷之助と11人の勇者》と言うがそのお立場だって、Qとたいして変わらない。所詮はネズミの集団ですよ』
「言いたいことはそれだけかね?」
矢吹は瞼を開いた。怒りの形相が浮かんでいることに、エマは動揺した。
「その通りだ。私は私の贖罪のために生きながらえている。それが私欲にまみれた姿に見えるかもしれぬ。歯を食いしばらねば耐えては行けぬ地獄の業火を、人に知ってもらいたいとは思わぬ。そのような私の傲慢さを、しかし私のもとに集う勇者たちは、君には理解できぬ立ち位置で信頼してくれているのだ。その勇者を私は既に二人も失っている。彼らの弔いは君たちを根絶やしにするまで終わらぬ。私のことはともかく彼ら勇者たちの侮辱は容認しかねる」
矢吹は拳を握りしめて立ち上がった。
「聞いてのとおりだ。遺恨を残さぬために君たちにもこの対話を聞かせた。そこにいる愚かな邪悪の亡者を殲滅せよ!」

「ちちじま」の左舷後方から何かが近づいてきた。
混乱の渦中には似つかわしくない穏やかな東京湾の海面が、まるで怒りだし荒波を引き起こしているように、「ちちじま」の乗員は感じ取った。
「『えのしま』から発光信号。何かが追ってくる。危険回避のため双方間隔を開けて距離をとれ」
「何がとはなんだ?」
「なんだかわからん・・・というようなことを言ってます」
「なんだかわからん、か。そんなものだろうよ。取り舵いっぱい! 全速でこの海域から離れる!」
「ちちじま」「えのしま」がそれぞれ回頭行動を始めた。そこへ突如、海面が盛り上がり、巨大なしぶきをあげて人工の構造物が姿を現す。激しくかき分けられた波が掃海艇の舷側に押し寄せ、二隻とも勢いに翻弄される。
「潜水艦だ!」
「いや違うぞ、あんな艦橋の潜水艦など存在しない」
鋭利な艦首と、艦船にはあり得ない翼を浮上させ、それは波を蹴立てて姿を現し宙に浮かび上がる。船舶とは思えない艦尾のノズルから何かの発光噴射が解き放たれ、海上を飛翔する。掃海艇の乗組員は轟音に首をすくめ耳を塞いだ。
「爆撃機だ!」
「馬鹿言うな。潜水艦が空飛んで爆撃機になるもんか」
「そうか! あれが本当のМJ!」

空中を急速度で上昇するMJ2の目前に、ブラックジャックの艦尾が迫る。
これが当の奇襲だった。アストランダ―ロケットを囮にして空中爆発を装い、海面激突の直前に艦首格納大型ミサイル「ビッグM」を発射して海上で誘爆したように見せかける。
墜落・爆散したと思わせながら海中に姿を消し、あえて対消滅エンジンをアイドリングさせ補助スラスターの水流ジェットのみで航行しながら海底すれすれの深度で東京湾に侵入したMJ2は、掃海艇のソナーをも波の乱反射で掻い潜り、一度掃海艇をやり過ごして湾の奥で回頭しながら頃合いを見計らっていた。湾内での潜水艦運用は深度不足から困難と言われているが、МJ号専用にいくつかの航路が海底を掘り下げ整備されている。
「制御カナード両舷展開。隊長、ほんとにぶつけちゃっていいんですね!」
源田が念のために確認するが、当は矢吹と矢吹の孫とやらの対話を聞かされてからすこぶる機嫌を悪くしていた。
源田は答えを得られず苦虫を噛み潰したような表情になり、操舵桿を引き起こす。対消滅エンジンが再びMJ2に推力を与える。
「ぶつけますっ、全員ショックに対応っ」
「トール・ハンマー、shoot again!」
「こんな攻撃でこっちがこわれませんよねーっ」
源田はブリッジ後方の太陽光集積パネルブロックが水平になるまでMJ2に俯角を与え、ブラックジャックの艦底部にやんわりと接触させ、そして推力を上げてぶつけていく。艦首の放電障壁も物理圧力を仕掛け光を増す。衝撃と振動が混ざり合った厭な大音響がブリッジを襲い、けたたましく警報が鳴り響いた。
ブラックジャックもこの不意打ちには驚愕したとみられ、MJ2を引きはがそうと推力をかけるが押し付け押し出す力はMJ2が勝っていた。衝突したブロックの装甲版を破損させながらもMJ2は同等の質量を持つ敵艦を浦賀水道上空からぐいぐいと押し出していく。
「こりゃあ・・・副長でもやらん荒業だ」
「博士ぇ、誰もやりませんよこんな奇襲!」
「六さん、エンジン大丈夫かい」
「一応・・・正常に動いてます」
ここもタイミングの計り処と判断した当は、乗員たちの動揺をよそに号令する。
「ゲン、本艦の俯角70度で敵艦を『背負い投げ』だ。その後速やかに水平に戻し敵艦底部に一斉射撃!」
「マジでいいんですねっ 背負い投げ、いきますっ」
「ミサイル、主砲スタンバイしてますっ」
MJ2は艦底部の補助スラスターを順次全開にした直後、今度は艦上方のスラスターで逆噴射させ、ブラックジャックの巨体を弾き飛ばした。ブラックジャックは艦尾を上に向けたまま突き放される。
「今だ、全砲門斉射!」
MJ2はまだわずかな俯角に留まっていたが寺川はかまわずボタンを押しまくり、レバーの引き金を引く。MJ2の各発射管からミサイルが放たれ主砲が咆哮する。
数百mの至近距離で着弾と爆発が生じ、敵艦は更に吹き飛ばされ艦底部が破壊された。
『マイティジャックの諸兄! 矢吹の11匹のネズミども! 背後から来るとは卑劣な奴らだ』
先の矢吹との対話利相手から音声通信が入った。
「うるさい黙れ! 誰だか知らんがこっちは取り込み中だ!」
当の激怒した口調があまりにも普段と異なり、ブリッジの面々は振り返ることもできずに聞き入るしかなかった。
『こちらもただでは墜ちない。この距離ならもう一度間合いを詰めることは可能だ、地獄へ引きずり込んでやる』
「ゲンっ、急速上昇。距離を開けろ!」
『残念だな当さん! もう遅い』
勝ち誇ったような錯乱したような叫びが届いたとき、迫り来るブラックジャックの艦体を一筋の光が貫いた。
衛星軌道から発射された、あの超高速粒子ビームだ。しかもMJ号が小笠原沖で狙われたときよりも明らかに出力の上がった一撃だった。艦体周囲の水蒸気が沸騰しみるみるうちに「熱い氷」がブラックジャックの艦中央部を覆い拡大していく。
「見事だ副長。パッティングの腕は超一流だな」
当は意外にも興奮していた。だがすぐに後味の悪い思いに駆られていく。
ブラックジャックは見境なくミサイルを撃ち出すがMJ2にダメージをもたらすことはできず、急激な姿勢バランス消失によって海面に落下していった。皮肉にも「熱い氷」が艦の誘爆を抑え込んだ。

MJ2は何発かの着弾で艦体を破損させたが水平飛行状態を取り戻した。源田の機転で衝突直前にMT号内への格納角度まで倒されていた両舷尾翼は定位置に戻され、艦首付近で揚力維持と姿勢制御を行っていたカナード翼も格納されている。
警報はまだいくつかがアラート発令している。それでも飛行には問題が無いようだ。目視は出来なかったものの、海上ではブラックジャックが墜落したポイントで爆発が観測されていた。わずかに放射線測定器がガンマ線と中性子線反応を示す。
その値は計器上では程度問題と読み取れた。Qの悪意の中の良心と言うべきか、件の企業が開発した核融合炉の安全性の高さか。
矢吹会長からの特殊通信が届く。マイティジャック本部とブリッジではクリアに対話できるが、スクランブル暗号化されたデジタル信号によって第三者には傍受できない。
『諸君、危険な任務の遂行ご苦労だった。つまらぬ理屈の争いに巻き込んで済まない』
「会長、一条です。みんな疲れきってへとへとで、ちょっとお答えできないみたいです」
『無理もなかろう。こちらはこれから政府とのやり取りやら国連への報告やらでぼろぼろになるよ。勇猛果敢なマイティジャックに感謝すると同時に指示を伝える。第二ドックに帰還し破損個所の修理ののち、天田、桂両名を迎えにもう一度宇宙へ飛んでもらいたい』
「伝えます。会長はマスコミに気を付けてくださいね」
『ありがとう一条君。では後日、ガリレーで美味いコーヒーを』
ヘッドセットを外したマリは大きく深呼吸した。周囲を見るとまだ放心状態の者もいればシートをリクライニングさせていびきをかき始めた者もいる。源田はまだ操舵に夢中で航空管制域からの離脱に専念している。もたもたしていると空自の戦闘機が上がってくる。面倒なことはもうこりごりだと源田は感じていた。
「あの・・・隊長」
「・・・何も聞かんでくれ、マリちゃん。俺は任務のために大罪を背負い込んだ」
「・・・」
「隊長。心理戦に負けてはいかん。メンタルをやられるのはQの思うつぼだ」
「そうだな、先生。だが・・・まあやっちまったことは取り返せん。自分からは逃げられんね」
以前と違って煙草の吸えなくなったブリッジは今の当には苦痛だった。
「そういえば隊長。『ビッグM』の爆発が一番やばかったですよ」
いびきをかいていた寺川が目を覚まして呟いた。
「うん。あの至近距離で使ったからな。あれはまだ切り札にしてQには悟られない方がいいと思ってはいたんだが・・・」
めぐみからも特殊通信が来た。
『衛星は完全に制御下に置かれました。さっきの最大出力で粒子砲は焼き付いてしまいましたが、追加前の指示だった軌道上の諸衛星へのジャミングはうまく行ったと思います。でも、あの状況の中で衛星奪還後に粒子ビームで敵を狙うなんて作戦、とても思いつきませんでした』
「ご苦労だった桂君、副長も絶妙のタイミングだった」
『隊長、早いとこ迎えを頼んますよ。タバコ吸いてえ』
「今までとは違う。宇宙往還する艦になって、ここじゃ俺も喫煙できんのだ」
『そんな後生なっ。おいプロフェッサー、お前天才なんだろ? 喫煙室と空気清浄循環システムくらいつけろよ!』
「Please quit smoking for your health!」
それを言われて当も苦笑いしながら頭をかく。ブリッジには久々に快活な笑い声が上がっていた。
「ゲン、無茶な操艦をさせて悪かったな。現状で潜水できるか?」
「後ろの装甲版がいくらか破損してるようですが、ジェルパッキンで応急処置します。潜航深度は浅めにするしかありません。ドックの深さまで潜るとたぶん浸水」
「仕方が無いだろう。大利根船長に連絡してもう一度拾ってもらったらどうだろう」
村上が提案する。続いて服部からの報告がなされた。
「左舷主エンジンが止まっちまってます。安全装置の作動のようです。片肺での航行には支障ありません」
「Please wait a moment、復旧プログラムをロードします」
ブリッジは次第に騒がしくなってきた。いつもの調子が戻っている。
当は意を決して指示を出した。
「みんなご苦労。しばしの間、小笠原で休息できるだろう・・・ドックの中でだが。それでは第二ドックへ帰還する!」
「SМJっ!」
メンバーの明るい復唱が響いた。
MJ2は悠然と成層圏を飛ぶ。

 

『数時間にわたって放送が中断されたことについてお詫びいたします。それでは本日のトップニュース。今日午前、東京湾に忽然と現れた謎の飛行物体が湾外の別の飛行物体を攻撃。その余波で東京湾を中心に東京、神奈川、千葉での電波障害が引き起こされました』

『謎の飛行物体に撃たれた側の物体は墜落しましたがその後今度は湾内海中から正体不明の・・・これは潜水艦なのか航空機なのか不明の巨大飛行物体が浮上し、謎の飛行物体とか・・・か、格闘戦?を繰り広げました。この異常事態について政府は・・・』

『大規模な電波障害から回復した東京、千葉、神奈川の三知事はそれぞれ会見し、東京湾における事実上の戦闘行為に遺憾の意を述べながらも、《どこの誰かも不明とはいえ、未曽有の混乱に終止符を打つきっかけとなった謎の戦艦と乗組員に感謝する》との声明文を共同で表明し・・・』

Cet incident a fini par passer inaperçu dans le monde entier en raison des interférences de diffusion par satellite survenues dans divers pays.

『During the Tokyo War, most of the artificial satellites in orbit were malfunctioning. Live broadcasts were not possible across the US, even though prime time was approaching. The White House issued the following presidential statement on the matter:《It is a great pity that the only people who witnessed such a spectacle were Japanese people who were there. So I have nothing to say about this incident.Because it’s regretful.》』

 

 

※本作は勝手に書いてきたオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

終わりました。消化不良と下手くそな仏文英文でごめんなさい(全編下手くそですが)。
皆さまにあっては良いお年を。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ漆

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その巨大な空中戦艦は突如太平洋の彼方から飛来し、高度にして200m程度の進路で浦賀水道に侵入してきた。

リフティングボディとデルタ翼、艦中央部からせり上がった崖のような「馬の背」は後方に向けてなだらかに傾斜し、垂直に伸びた尾鰭へとつながる。
「まるでMJ号じゃないか・・・」

観音崎灯台から海上自衛隊の掃海活動を監視していた川上は通信端末で撮影したデータをマイティジャックの本部へ転送する。
川上の印象通り、漆黒に近い紫色の空中戦艦はMJ号に酷似していたが、唯一、艦首の形状が異なっており、艦首両舷にカナード状の補助翼と思しき突き出しが確認できた。
さながらシュモクザメの鼻先のような艦首はゆっくりと回頭し、艦尾を東京湾に向けて空中停止した。停止後、謎の空中戦艦は海上の掃海活動を見下ろす位置にありながら、これを攻撃するそぶりを見せずにその存在だけを主張するかのようだ。
「何者なんだ? というより、あれは間違いなくQ」
しかし川上には相手の真意がつかめなかった。
マイティジャックはもちろんのこと、これまでQも正面切って一般社会に空中戦艦の類をさらけ出しては来なかった。稀に陸の上空で戦闘状態に持ち込まれたことはあるが、高度をとった上空を飛行するMJ号のスケール感は、地上から視認されても200m級の巨大艦には見えないものだ。川上はそれらのスケールを知っているから危機感を覚える。浦賀水道上のそれは、対岸の風景も含めた実景の中ではたいした大きさには見えないが、それでも得体のしれない飛行物体が浮いているだけで、人々の耳目を引き付けるのには十分だった。

一連の報告を受けたMJ2でもブリッジは騒然となっていた。
「よもやの三番艦とか?」
マリが首をかしげるものの源田は否定した。
「プラモデルじゃねんだ。そんなにほいほい新しいのに出て来られてたまるかい」
「ということはやっぱりQの・・・」
マリが不安げな顔になる。当はつぶやき、唇をかんだ。
「そうか・・・elfter Schwarzer、つまり黒の十一番というのは、『BlackJack』の符丁だったんだ」
「ブラックジャック、ですか?」
「我々に対する挑戦だよ。Qめ、我々の不在に乗じて万能戦艦の存在を暴露する腹積もりだ」
「なぜそんなことを?」
「それはいくつかの想像を浮上させるね、隊長もそうだろう?」
英がマリの疑問に答える。
「ひとつは万能戦艦の諸国へのアピールだ。MJ号の秘匿されてきた作戦行動を逆用し、あれをさらけ出すことで水空両立した超兵器の需要を産み出そうというわけさ。同時にあいつがMJ号になり替わって、東京湾を防衛するような位置関係から我々を迎撃する狙いがあると見た」
英の推理に当も同意する。英は当の考えを尋ねた。
「地球に戻ったとしても迂闊に攻撃できない。隊長、どうします? あの場に居座られては東京湾内沿岸都市を盾にされるばかりか、本部の所在にも危険が」
「今はそっちに関しては何もできん。ウイングの作戦行動支援に集中する」
当が場の空気を引き締めた。
『こちらウイング。思ったより通信環境は良好。これより衛星頭頂部にとりつき、副長がデータを持ってウェブッドで出ます』
めぐみからの通信を確認し、MJ2はアストランダ―ウイング支援のためにQ衛星との併走を続ける。衛星側の迎撃レーザー兵器は、天田の射撃精度の敵ではなかった。天田は宇宙酔いに苛まれ三半規管も悲鳴をあげていたが、めぐみの真横で嘔吐するなど末代までの恥だと歯を食いしばった。
その足がふらつきそうになるのをこらえながら、天田は操縦室背後の隔壁のさらに後方にあるアストランダ―ウェブッドに張り付こうとしていた。
「副長、用意は如何?」
『用意ったってさ、こいつでいいのかホントに』
「ウェブッドっていうのはトーマス君の命名にすぎないわ。単に船外作業支援ユニットのことだから」
『宇宙遊泳させられるよりはいくらか安全か。そんじゃ行ってくるぜ』
めぐみはアストランダ―ウイングの機体を反転させ、衛星に向けて係留ロッドを撃ち出す。同時にウイングの背中のハッチを開放して天田が乗るアストランダ―ウェブッドを放出した。
アストランダ―ウェブッドとは、宇宙飛行士が船外作業従事の際に追加装備するマニピュレータやスラスター付きシートのことだ。天田はこれに腰掛けレバーとペダル操作で衛星に接近し、そのままとりつく。
「これのことか」
目視確認した衛星の点検ハッチはひどく単純なものだった。つまみをひねり出し90度回して再び押し込むと、ハッチは瞬時に開いた。点検用コードをつなぐソケットがあった。天田は左腕にバンドで固定してあるタブレット端末からケーブルを伸ばし、点検設備に接続して暗号コードを送信した。
その様子はMJ2でもモニターされている。
「暗号コードって、有線でないと認証できないんですね」
寺川が心配そうに天田の作業を見守りながら言った。
「なにしろ裏コマンドだからな。通信を傍受されてジャミングされては面白くないし、電磁波の状況によっては送信できない。桂君の通信は感度良好だったがね」
英が当の方にシートを回転させながら尋ねた。
「どんなコードなんです?」
「衛星の母国語による国歌斉唱音声だそうだ。それで衛星本来のAIが認証すれば、あとは対話型指示で制御可能らしい」
「へー・・・副長、あの国の言葉なんか使えるんですか」
「いや、認証後は英語での対話ができるという話だ。副長の日本語じゃあかえってケンカ腰になりかねんからちょうどいいだろう」
当の冗談を聞いてマリが噴き出した。
『おいマリちゃん、いま俺を笑っただろうっ』
「えっ、なんでわかったんですか副長!」
『そんな気がしただけ。で、笑いやがったんだなこのやろー』
「すっ、すみませーんっ」
『そんなことより隊長、コード認証されました。今から親善交流始めます。それで、今後の作業は隊長の発案通りに進めますがすぐには終わらんでしょう。ここは俺たちに任せて地球に戻ってください』
『そうですね。ウイングには滞在に十分な酸素も空気も備わってますし、何かあったら自力で再突入できる機体ですから』
天田に続いてめぐみからも具申が入った。
「今回に限っては大気圏への単独再突入は認めん。避難先に関しては国際宇宙ステーションに拾ってもらえるよう要請を出しておく。ここまでは上出来すぎなくらいうまく行っている。だが油断はするな。それから、ひとつ指示を追加するが面倒でもよろしく頼む」
当は追加指示を出し返信を終え源田と服部、トーマスに指示する。
「軌道再変更、MJ2は大気圏再突入に移る。出てきたときよりもハードルの高いシークエンスだ」
「SМJ! 80分待ってください。突入軌道へ乗せるのに最低限それだけかかります。そこから突入高度の120キロまではつるべ落としです」
「再突入時にはエンジンの負荷はゼロと見ていいでしょう。そうだよなプロフェッサー」
「yes。自由落下と滑空で済みますから。超耐熱コーティングの見せ場です」
MJ2は衛星軌道からの離脱を開始する。

大気圏再突入時のMJ2は第二宇宙速度に迫り、秒速12キロもの超音速で降下することになる。その際衝撃波の発生で大気が圧縮され突入対象物は一気に加熱される。
空力加熱によるMJ2の表面温度は1000℃を越える。この加熱に備え、艦体は特殊樹脂でコーティングされている。再突入時、コーティングが溶解して熱を奪うのである。同時にリフティングボディ効果を発揮するため、MJ2は仰角をとりデルタ翼が揚力を発生させ滑空態勢となる。
MJ2は衛星軌道から急速度で降下し、大気の層と反応する高度120キロで再突入角度を整えた。
「全エンジンアイドリング。降下角度良好、なんかもう操舵桿が重いっす!」
「姿勢制御はシステムに任せろ。空力ブレーキで速度をコントロールしながらスラストポイントを捕まえる」
空力ブレーキが引き起こす衝撃加熱がMJ2の降下運動エネルギーを前方で大気熱エネルギーに変換し、エアロキャプチャシークエンスとして一気に減速する。その加速度は打ち上げ時よりも乗員に荷重を押し付ける。
体を引っ張り上げられるような荷重に耐えながら、高度が下がれば狙い撃ちされる危険があることを当は考えていた。今は必要ないが、トーマスの説明では二系統ある反物質精製用のスーパーボルト加速器はそれぞれ、さらに二系統に組み上げられている。その片方が二門の荷電粒子砲用に使われており、主砲ではなく艦首に備えた放電システムにつなぐことで、一時的な放電障壁を展開できるという。
もちろんこのとき主砲を撃つことはできない。主砲は80mm砲弾二連装速射型と荷電粒子ビームの切り替え式だが、どちらも前面に放電バリアが張られているわずかな時間は撃ってもバリアに当たって自爆してしまう。
「MJ号の旋回性能と機動性が優先されて、主砲が前面仰角しかとれないところが欠点です」
トーマスも主砲基部にターレットを増設しようと試みたが艦載機の着艦格納誘導路をつぶしてしまうために断念していた。
作戦会議での対話を思い出しながら、当は浦賀水道に出現した敵艦の武装性能を想像する。
「どうせQの空中戦艦にMJ号もどきのガワを被せただけだろうが、もどきゆえに同じようなハードポイントと火力放射点と考えるべきか。トール・ハンマーをどこで使うかが防御の重点だな」
トール・ハンマーとは、トーマスが考案した放電障壁の呼称だ。概念を聞いた村上が、彼の趣味でまたしても「稲妻落とし」と言ったのだがトーマスに否定されている。

「お待たせでした! 再突入完了。大気の層の内側に戻ってきました。艦が重いけど揚力も十分に得られてます」
「降下態勢は?」
「もうしばらく俯角をとれません。下腹を見せつけるのは癪ですがまあ、地球をあと半周する間は敵も撃てないでしょう?」
「わかった。ゲンはそのまま艦体の安定を保て。寺川、全兵装は正面への誘導を図る。敵艦に奇襲をかけるぞ」
「しかしそれでは東京湾に被害が出ませんか?」
「まともに撃ったらそうなるな。だが俺はまともな戦法を考えていない」
「うわー・・・沈着冷静な隊長がそんなことを言うなんて」
寺川は困惑したように言うが、その顔はなんとなく笑っている。
「トーマス、敵の情報が皆目わからんが、射程距離はどれくらいだと思う?」
「I’m not an expert。でもハープーンなんて120キロは狙えるんでしょう?」
「実弾ではない。奴がMJ2のような荷電粒子砲を持っていた場合の話だ」
「That’s hard to say。MJ2にも同じことが言えるのですから。荷電粒子ビームを直進させられるだけのパワーがあるかどうかです。地球の自転速度や重力、大気層の状態とかいろいろな誤差修正の必要があります」
「それでもビームはまっすぐ飛ばないってことだよ隊長」
村上がフォローする。
「イメージするなら幾ばくかの弧を描いて、それほど高くない命中精度で来るだろうさ。せいぜい10キロが射程距離じゃなかろうか。精度を重視するならもっと引き付けないと」
「こっちも同じだということだな。それでいい。長距離戦でビームは使わん。トーマス、君のマスターには申し訳ないが、アストランダ―ロケットを囮にする」
「えーっ? あれは自力では飛べませんよ!」
トーマスが左後方の艦長席を振り返りながら何をするつもりなのかという顔をする。
「一瞬滞空していればそれでいい。空中で離艦させることはできるか?」
「A mechanism is installed to disconnect in case of emergency・・・でもいったい何を?」
「I told you it was a surprise attack!」
つい当もトーマスに併せて答えた。
「隊長、ニセMJ号の何が凄いかって、浦賀水道の空中に定位して浮いているってことでは?」
マリが素朴な疑問を投げかけた。
「さすがに反重力だなどとは言わせたくないね。おそらくとんでもない推力で降下せずにいられるのだろう。隊長、向こうのエンジンがこっちと同じとは思わないが、それなりの大出力で攻撃兵器にも力を回せるんじゃないかね」
村上は、それを攻撃して爆沈させたと仮定した場合の周辺被害を想像した。
「もっとも・・・こっちがそういう目に遭ったら核融合炉の爆発どころのレベルじゃないんだが」
「その通りだ。だからこの奇襲は文字通り一発勝負になる」
「目標まで30キロに接近。陸からの映像を拾ってます・・・ふざけた艦影だぜまったく」
源田が毒づくように、艦首こそ独特の意匠だが知らない者が目にすればMJ2の同型艦としか思えない。それが白日の下、テレビニュースに流されているのだ。
「すぐ会敵しますがこのまま行くんですか?」
「高度をゆっくりと下げろ。向こうが撃ってきたらアストランダ―ロケットをパージして本艦は墜落する」
あー。とトーマスは顔を覆った。源田は墜落ってまたそれかよと苦笑いする。
「敵艦から攻撃! 五秒で着弾しますっ」
マリの観測に応じてトーマスは仕方が無いとアストランダ―ロケットの固定ラッチに仕込んだ爆発ボルトのスイッチを入れた。
「トーマスっ、パージと同時にトール・ハンマー展開。直撃は避ける」
「SМJっ I wanted to say this!」
大気を電離させる大出力で、光の帯が衝突してきた。あのシュモクザメ型艦首からの三連もの射撃だ。ビーム兵器としての完成度はまだ低いが、約20キロもの長距離から飛来してくる荷電粒子砲だ。ゆらぎや蛇行で失われるエネルギーを計算に入れても一撃の威力は計り知れない。
トーマスは一瞬速くアストランダ―ロケットを切り離し、艦首に放電障壁を撃ち出す。障壁の展開と着弾が同時だった。
ブリッジの窓に使われている自動偏光機能が目のくらむような爆発光から乗員の目を護るが、荷電粒子と数億ボルトの放電障壁が激突する衝撃はすさまじい。その直後、弾かれた荷電粒子に巻き込まれたアストランダ―ロケットが爆発する。
「こりゃほんとに墜落だわっ」
源田が必死に態勢を立て直そうとするが、すでに艦首は大きな俯角をとって海面へと落下を始めていた。

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

次回でたぶん終わると思いますが、とりあえず掲載を一日前倒して30日に大団円へと・・・
迎えられなかったらもう年越します。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ陸

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「ヒートバンパー展開完了! 既に灼熱化順調っ」
「実際に何が起こるかわからん。衝撃に備えろ」
洋上のMT号は、「MJ2」の離艦直後に防御シークエンスを発動していた。偽装コンテナパネルは対水圧のためだけに二重構造になっているわけではない。フレキシブルに角度を変えながら上空からの攻撃に対処する。そこに超高速粒子線が命中し、大気中の水蒸気を瞬時に『熱い氷』へと変質させた。
が・・・
これを受け止めたヒートバンパーは既に表面温度を450℃まで上げており、さらに温度は上昇する。『熱い氷』は実体化できずに元の水蒸気へ還元されてしまった。
「この間に潜って逃げられないのがこいつの欠点だな」
大利根七瀬は苦笑いしながら上空へ伸びるMJ2のロケット煙を眺めていた。
「八郎・・・無事に還ってこい」

急角度で高度を上げていくMJ2は、ほぼ秒速8kmという速度を維持しながら静止トランスファー軌道を目指している。この軌道からさらに静止軌道へと飛ぶのだが、トランスファー軌道に乗ってから数時間の軌道コース調整が必要だった。
静止衛星の軌道投入プログラムが、現在の日本ではその方法しかないためだ。地表から数百キロの近地点高度に対して、静止軌道にあたる赤道上空約3万6000キロに遠地点を結ぶ楕円軌道を、MJ2もトレースする。力学的な負担の軽減が従来のロケット打ち上げにおける衛星の軌道投入時の必然だが、今回はそのことも含め、Q衛星からの攻撃を回避する理屈もあった。
MJ2は基本的に「MJ号」と同様の空中戦艦として建造され、艦首に航空機のようなノーズを持ちながらその下部には艦船のようなみおしを備えたリフティングボディと、飛行時の揚力を稼ぐためのデルタ翼が大きな特徴だ。
トーマス・ナリタの提案によって主エンジンが大幅にアップデートされ、ツインノズル方式としてエンジン自体が2連装となった。
対消滅機関を成立させるために、その機械スペースを大きくとる必要があったためだ。
反物質の素材として主に窒素を利用し、加速器内でスーパーボルトを発生させ窒素の原子核と衝突する光核反応を起こす。その過程で幾度も変質する窒素同位体が、瞬時に炭素13Cやニュートリノ、陽電子を放出する。これが電子とぶつかり対消滅が誘発される。新エンジンは強力な磁場と電場で対消滅量をコントロールしながらスラストチェンバーに送り込むシステムだ。
当然のことだがこのプロセスでは有害なガンマ放射線が発生する。エンジンの稼働時にはエンジン区画は完全閉鎖され、ブロックそのものも鉛を主とする特殊金属の筐体によって封じ込めが行われる。
そのメインブロックを艦体後方の中央部に置くため、スラストブロックが左右に分割された。
トーマス・ナリタの概論によれば、要約された対消滅機関の仕組みはそのようなものだと承知せざるを得ない。マイティジャックのメンバーとしては、「爆発しなけりゃそれでいい」以上の専門的な質問をできる者が村上しかいなかったが、その村上は思慮深く、メンバーの不安をあおるような言動を慎んだ。

「作戦確認をしておこう」
7G加速から解放され、全員に異常のないことを確認しほっとした顔をしながら、当は言った。
「先の会長からの電文だが、Q衛星の爆破破壊は、衛星内に原子力電池の存在が確認されたために実行できない。万一、これが吹き飛んで大気圏内に落ちることを避けなくてはならない」
「それじゃあどうやってあれを黙らせるんですか?」
寺川が困ったという表情で尋ねる。
「観測によれば、衛星は既に大国の宇宙攻撃部隊が発射したミサイルをレーザーか何かで迎撃・爆散させ、それで生じたデブリを磁場で制御し自らの物理バリアにしているようだ。これを突破して衛星に直接とりつくしかないだろう」
「アストランダ―ウイングですか」
「そうだ。この艦よりは小回りが利くからな。それでも相対速度は秒速3キロに達する。事前にあらかたのデブリを始末してやらなくては、桂君の操縦も負担が大きい」
そこで、だ。と、当は胸ポケットから通信端末、腕のラッチからボールペンを取り出して宙に浮かせた。
「oh!」
突然、トーマスが上ずった声をあげた。
「どうしたプロフェッサー?」
「すみません。それ、『2010』でロイ・シャイダーがやったやつです。実際に見られるなんてすごいなあ」
何を言い出すんだと一同が呆れるが当は気にも留めずに続ける。
「この端末が衛星。ペンが本艦だ。相対速度を合わせつつ併走し、右舷をデブリ側に向け、改良型電磁ネット弾頭を撃ち込む。改良型は第二ドックで博士が作ってくれたが4発しかない」
村上が後を引き継ぐ。
「要は宇宙の清掃作戦だ。弾頭はデブリの手前で炸裂して放射状にネットを展開する。これでデブリを可能な限り大量にからめとって、慣性で衛星から引きはがす」
「ごみの回収はどうするんです」
「質量的には大気圏に落として燃やしてしまえばいいさ。大国が核弾頭を使っていなかったのは幸いだ」
「核、といえば、原子力電池なんて何で積んでるんですかね。けっこうでかい太陽光発電パネルを持っていたはずですが」
英が気になるところを突いてきた。当が答える。
「あの超高速粒子線の発射器に必要で、一緒に、Qが打ち上げ前の衛星に細工したのだろう。衛星の持ち主である某国も原子力電池の存在は否定しているらしい」
「細工ってレベルじゃあないな。某国の否定というのは疑ってかかるべきだが、今はどうでもいい話か」
「彼らは身の潔白の証明だという理由をつけて、奥の手を提供してくれている」
「ほう、そりゃまた疑ってかかりたくなる話ですな。何を提供してきたんですか」
「衛星の制御を取り戻すコマンドだ。だが奥の手だけに地上からの遠隔操作に対応していないという」
「ふーむ・・・結局桂くんチームの出番か」
そこへブリッジ後方のドアが開き、めぐみがふわりと浮遊しながら戻ってきた。
「隊長、打ち上げGの間は出来ませんでしたが、例のプログラムのダウンロードを完了しました。問題はどうやって衛星に、それもどこに機体を着接させるかです」
めぐみの報告を受けて当は考えを巡らせる。その間にめぐみは艦長席のコンソールに手を伸ばして慣性を相殺しながら床に足をつけた。
「そもそも有人衛星じゃないからな。図面を見た限りではほとんどの点検作業を衛星本体の外側から行う構造だ。ウイングは係留させアストランダーウェブッドで接近する段取りかな・・・副長は何をしている?」
「ウイングのコクピットをシミュレーターモードにして特訓中です」
「盛り上がってきたところ恐縮ですが」
計器板とモニターを交互に監視している源田が操舵席から報告してきた。
「ぼちぼち第2加速ポイントに到達します。軌道計算はAIがやってくれてますが、お待ちかねのエンジン点火は加速噴射も含めてここでやります」
「六さん、プロフェッサー。いよいよ新エンジンの本格発動だ。準備はいいか」
「理論的には単純な仕組みですが、反物質生成と捕獲・一時蓄蔵して磁場制御内で放出というプロセスは、地上のどの物理学研究所もやったことがありませんからね。まあ電気だけは売るほど作れて蓄電させられるんで、いざとなったら補助エンジンで電気推進でもやりますよ」
「No need to worry! 地上の試運転で反物質の生成は完璧にできました。放射線の封じ込めも筐体強度も申し分ないレベルです。ロクサン、be confident」
「ははっ。俺が作ったわけじゃないぜ」
「仕組みのことはいい。どうせ計器の数値を見てるしかないし、スロットルの塩梅はオートマ車みたいだ。二人ともうまく釜焚きしてくれよ」
源田はむしろ、姿勢制御の方が難しいと感じていた。秒速度を徐々に落としているがこれはロケット推進によるものだ。対消滅エンジンの「ひとふかし」がどれほどの加速につながるのかイメージできない。理論よりもそこを教えてほしかった。
「静止軌道に本艦を乗せます。主エンジン点火用意!」
どうにかなるさと、源田は覚悟を決めた。
「5秒前からカウント。スラストレバーは20%で!」
「2、1、点火!」
源田の腕がスラストレバーを押し出すと同時に、床下から微振動が伝わってくるような気がした。艦体後方ではトーマス理論通りに対消滅推進力が発生しているはずだ。ぐんっという急加速のGが体を襲う。
「機関正常。スラストノズルの磁場にトラブル認めず」
「目標軌道まで約90分。その後秒速3.6キロまで減速します!」

衛星投入においては、トランスファー軌道からの加速で静止軌道まで4時間程度を費やしているが、MJ2は多少の無茶を強いられ、軌道への進入を試みた。第二宇宙速度に達すると衛星軌道を離脱して宇宙へ飛び出してしまう。
MJ号の大気圏内最高速度はマッハ2・8。艦体サイズから考えてもとんでもない速度で飛んでいたのだが、秒速3キロに減速したとしてもマッハ9近くの速度となる。静止衛星軌道域に存在する衛星たちは総じてその速度で地球の自転と釣り合いを保ち、あたかも赤道上空の定位置に固定しているかのように見える。
仮に、MJ2が地球の自転に逆らい衛星軌道に達するには莫大な推力が必要であり、対消滅エンジンがこれをクリアしていても現実的ではない。ましてや迎撃する相手はそれだけの相対速度で飛んでくるのだ。衝突が回避できてすれ違いざまの一撃を、などという戦法は不可能に等しい。よって自転方向に飛びながら高度と軌道を調整し追跡コースを取らなくてはならない。そのくせ所要時間がいらつくほどかかる。
「捕捉追撃までに飯食ってられるなんてあほみたいだぜ」
源田が独り言ちしていると、アストランダ―ウイングの操縦席からも、おいまだかよと天田がぼやいてくる。
やがて進行方向にレーダー反応のあったQ衛星が光学映像でも観測された。衛星本体は10m四方のユニットを複数打ち上げ遠隔操作で組み上げたものだが、このユニットの中に、レーザー発振器として転用可能な地表観測用機器を巧妙に偽装したQの兵器が内蔵されている。
相対速度を保ちながら右舷1000mの距離まで接近したMJ2は、衛星を取り巻くデブリ群を除去するため、電磁ネット弾頭を発射した。
弾頭はデブリ群の手前で炸裂し放射状のネットを展開する。これがデブリに接触すると、プログラムされた質量に達したところで、八方に備わったマグネットバラストが互いに引き合い、ネットを球状に閉じ、慣性を維持したまま多量のデブリを持ち去るのだ。球状ネットはそのまま地球の引力に捉えられ、落花し炎上滅却される。
さすがに全てのデブリを除去することはできないが、アストランダ―ウイングの飛行航路を確保することには成功した。
「これよりMJ2を衛星後部の軸線に載せる。副長、正対あるいは追尾する目標にはレーザー攻撃があるそうだ。火線を見極めてウイング出動せよ。レーザー砲のみ撃退」
『了解、アストランダ―ウイング発進します』
「ゲン、軌道修正頼むぞ。寺川と先生は主砲で威嚇射撃」
「了解。主砲は荷電粒子発射システムに切り替える。ただ・・・」
武器管制を担当する村上はつぶやいた。
「太陽フレアから降っている電磁波の影響を受ける。たぶんビームは直進しないぞ」
「村上さん、Surprisingly okay! 拡散された方が破壊力を半減出来て、残った微小デブリを焼き払うくらいで衛星を直撃しないから」
「まあそううまく行くかどうかは、撃ってみなけりゃわからんな」
「大変です隊長!」
マリが叫んだ。
「東京湾上空に200m級の空中戦艦が出現との川上さんからの通信!」
「なんだと? Qか」
「MJ号に酷似しているそうです!」

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

さてだいたいの風呂敷は拡げたんですが、これをどうやって畳んだらいいんだろう?

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ伍

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交差点を急角度で曲がっていくセダンの後部座席で、矢吹郷之助は肩に食い込んでくるシートベルトが不快だった。運転する川上登は不意に現れた不審車を撒こうとしたのだが、追手は執拗に喰いついてくる。そろそろ朝の通勤時間帯になる。矢吹は一つ先の交差点で路地に入るよう指示した。
「路地の左手にコインパーキングがある。そこへ駐車したまえ。まわりの通行に迷惑をかけてはいられん」
「しかしあいつらQの一味ですよ。停まれば危険です」
セダンは東銀座から路地に入り新橋方面へと駆け抜け、矢吹が告げた時間貸し駐車場へとドリフトしながら滑り込む。1.5車線程度の路地では運転している川上自身が背中に冷たいものを浴びる気分だったが、彼のテクニック以上に奇跡でも起きているのか、路傍のポリバケツを吹き飛ばした程度で済んでいた。
矢吹は既に「ガリレー」の店番をしている弓田エマに電話をかけていた。
「そうだ、裏にいるから『あれ』を持って出てきておくれ」
そこへ路地に急停車した追手がドアを蹴破るように開けて飛び出してきた。三人だ。そのうちの一人がやにわに拳銃を突き付け窓ガラス越しに川上を威嚇する。矢吹は「何事かね」とつぶやきながら自分の座席の窓を降ろした。
「会長、なにを!」
開いた窓に目がとまり、追手はすぐさま後部座席側へ駆け寄った。その瞬間、車内から細いワイヤーが二本放たれ追手の胸に先端の金属が突き刺さる。追手は不意に痙攣したかと思うとはじけ飛ぶように崩れ落ちた。
勢いで外れたワイヤーは自動的に矢吹の持つ携帯電話へ巻き戻された。
「は・・・一回の放電で電池切れだよ」
「窓を閉めてください、まだ二人います」
あとに続いてきた二人はさすがにセダンと距離を置きながら発砲する。消音機をつけたハンドガンだ。人通りのない路地では銃撃に気づく者もいない。
だが、路地に建ち並ぶビルとビルの間から飛び出してきたエマが何か叫びながら赤い筒のようなものを突き出すのが川上には見えた。エマは筒の先端の蓋を跳ね上げ、隠しスイッチを押し込む。彼女の腕が少し持ち上がるほどの圧力を開放しながら、消火器の粉末のような勢いで蒸気が噴き出す。
二人の追手は高熱の蒸気を浴びてひるむがそれだけでは済まなかった。筒からは蒸気に続いて電撃が走り、追手を悶絶させてしまう。
「ご無事ですか会長」
エマはセダンのドアを開けて矢吹を外に連れ出す。川上も車外に出る。
「スタンポット。意外と使えるね」
「手袋していてもピリピリしましたわ。絶縁が不十分です」
「こいつら、どうしましょうか」
「これに限っては私を襲う意図がわからんが捨ておきなさい。今はそれどころではない」
「会長、パンパスの準備はできています。お急ぎください」
エマは矢吹と川上を案内して喫茶店ガリレーの裏口に向かう。
ガリレーは喫茶店と古地図屋を掛け持ちする、当八郎が経営する店舗だ。普段は一条マリがカウンターに入っている。一般客が皆無というわけではないが、常連のほとんどがマイティジャックのメンバーだ。当は地図屋でもありアルピニストでもあるが、日常のなりわいはこの店にある。
「お客には悪いが、今日からしばし臨時休業だ」
矢吹は川上に後方を護衛されながら店内に入るが、彼自身もコーヒーを注文する時間を得られなかった。
「まったく、50年代や60年代のスパイ映画じゃあるまいし、銃撃など無粋な連中だよ」
「会長こそ仕込みスマホとは今風じゃないですか。窓を開けられたときは焦りましたよ」
「直撃でないと効き目が無いのでね。村上君の作品だが、なんでこうも電話以外の機能がもてはやされるのか」
ガリレーのバックヤードにはロッカーに偽装されたエレベータが存在する。大深度地下に降りると、リニアモーター式モノレール・パンパスが待機しており、銀座のはずれから一気に三浦半島のMJ号ドックまで隊員を搬送する。東京の地下鉄網が発達しながらも新規路線が大江戸線以降実現していないのは、この秘匿路線にそろそろ引っかかる懸念が出ているための、矢吹コンツェルンの時間稼ぎとも、MJの間では噂となっている。
「さて本部に着くまでにやれることは何かな。Q衛星兵器は久里浜から上総湊にかけての浦賀水道を凍らせたというが」
「30分で三発、東京湾内への艦船進入ができなくなっているそうです。今現在、伊良子岬付近にも着弾したとか」
「ちくしょう、港湾機能の麻痺を狙っているのか」
Qの『熱い氷』は、着弾の直後は液体を500℃にまで沸騰させ、その後急速に冷却して個体化する。文字通りの凍結なのだが融点は異常に高く、水の場合移相融点である100℃では解凍できなくなってしまう。
浦賀水道をこの手で封鎖されると、東京湾内の主要重要港湾、海上保安庁、海上自衛隊、アメリカ海軍のすべてが封じ込められてしまうのだ。
「おそらく次は原発周辺の海域も撃たれるだろう。MJ号はまんまと誘き出されたというわけだ」
「会長のご指示通り、横須賀地方総監部には連絡済みです。演習名目で掃海隊が出てくれるそうです」
「承知した。例の『稲妻落とし弾』は引き渡しできたかね」
「村上さんからの報告で急ごしらえした得体のしれない弾頭なので、上に渋られたようですわ。いずこも現場はつらいのですね」
「気化爆弾なんぞを使うよりずっとマシだよ。そろそろ到着かな」
車両が減速する体感を得た。東京・横須賀を往来するのに最高時速500キロというパンパスだが、高齢の矢吹が乗車するため速度は「0系ひかり」並みに落とされた。それでも約70キロのルートを時速200キロで突っ走ってきた。
川上がまず座席をあとにした。
「自分は観音崎に上がって状況監視します。会長は本部に常駐して外出なさらないでください」
「そうさせてもらうよ。エマ君のコーヒーを所望しようか」
「マリさんほど上手じゃありませんよ」

東京でのひと騒動と前後する小笠原沖の排他的経済水域では、夕暮れの波間をMT号が東へ航海していた。
MJ号を内蔵するため、船体は設計段階からタンカーではなくコンテナ船に偽装されている。うず高く積み上げられたように見えるコンテナ群は二重構造のフレキシブルパネルで、MJ号の「高さ分」を稼いでいた。
船は一つ舵取りを誤れば座礁する岩礁海域に到着した。巨大なMJ号を東へ打ち上げるためには、MT号のアンカーだけでは発射基地として固定が不足する。
そのことはトーマス・ナリタの脳内でも織り込み済みで、MT号両舷前後には伸縮式のアームアンカーが装備されている。これを岩礁にあてがい船体を固定するのだ。
マイティジャックのメンバーが第二ドックに辿り着いてから、12時間が経過していた。
『10分後に偽装コンテナパネルの展開、15分後に架台のジャッキアップを開始する。仰角は80度、準備を完了させ着座せよ。発射シークエンスはそちらに委ねる』
大利根七瀬船長が段取りを伝達する。
「了解、散々世話になりました。第二ドックとMT号の皆さんに感謝します」
『当君、武運を祈る。お互い妙な星の元に生きているが、逢うことができて嬉しく思うよ』
「・・・四十手前で言うのもなんですが、私はまだ若造らしい。その言葉を素直に受け止めることがまだできそうもありませんが、噛みしめておきますよ」
その会話を耳にしたマリは首をかしげた。
「隊長たち、何の話をしているの?」
「人生いろいろあるんだろうさ。若気の至りなら私だってまだあるぞ。なあ先生?」
「博士の日常に巻き込まんでくださいよ」
村上譲と英 健が軽口をたたいてその場をごまかす中、トーマスがシークエンスを読み上げる。
「ジャッキアップに続いて両翼展開・固定。射出は翼端の補助スラスターで持ち上げます!」
「30000トン近くの船を支えられるのかいこの架台?」
「出来るわけないじゃないですかゲンさん。架台の後ろ半分を逆に海中に沈めるんですよ。見かけ上艦首は仰角を得られる寸法です」
寺川進が源田明に説明する。
「なんだよそれじゃあ打ち上げの衝撃で架台はMT号から落っこちちゃうじゃないか」
源田は呆れた顔をする。
「通常離水をなぜしないんだ?」
「さあ・・・まさかの趣味性とか」
いつものブリッジだと当は緊張の中にも安堵感を覚えた。これもまたいつものように、手持無沙汰となると右へ左へうろうろする天田一平の背中も、ブリッジ風景として欠かせないと思うのだが・・・
「副長、我慢は体に良くないぞ」
そう言われた天田は当の方へ振り返る。当はにやにやしながら「行け」と合図した。
「そうですな。そんじゃいっちょうやってくるか。天田一平、アストランダ―ウイングに搭乗します!」
バリバリと軽い音を立てて天田のブーツが床のベルクロを離れる。まだ重力下だが、彼等のブーツの靴底には無重力環境に備えてベルクロと磁石による設置対応加工が施されている。
「コンテナ開放まで5分です」
マリが時計を確認したその2分後、天田のすっとんきょうな声がブリッジ通信に伝わってきた。
『あれっ! なんでいるんだ桂君っ』
ブリッジの面々も「えっ?」という顔をして大型モニターを見やった。
パイロットスーツに身を固めた桂めぐみがにこにこしながら宇宙戦闘機「アストランダ―ウイング」の操縦席に待機していた。
『なんでって、これの操縦訓練を受けているのよあたし』
『なんだってーっ』
当はつい、笑いを抑えられずに顔をそむけたが、すぐに天田に言った。
「桂君はこの半年、横田基地に通って米空軍の専門訓練をこなしている。実は一番多忙だったのが彼女だ」
「いつの間に・・・ってそれよりどうやってここまで?」
『あら寺川さん、あたしもピブリダーのパイロットだもの。大利根さんの船まで増槽つけて航続距離ぎりぎりだったわ』
『隊長! 俺やることないじゃないか!』
「何を言う。針の穴を貫くパッティングの腕前に期待しているぞ」
クラブ「J」のマダムとプロゴルファーというコンビネーションは、それらが仮の姿としても異色であった。しかしめぐみとマリはピブリダーの専任パイロットでもあり、操縦技術は天田よりも優れている。
『ここ一番は一平さんの出番になるわよ。それまではおねーさんに任せなさい』
『ちぇっ!』
ブリッジが一斉に笑い出したところで天井が動き出した。偽装パネルも相当の面積と重量があり展開に時間がかかる。トーマスが服部六助に機関の準備を要請する。
「ミスター・ハットリ、メインエンジンアイドリング。補助スラスターアイドリング。アストランダ―ロケットは点火待機」
「SМJ! ロクさんでいいぞ」
ごとん、という響きと共にシートが傾き始めた。いや、ブリッジ全体が傾いている。МT号の船底が開いて架台後部が海中に落ち込み出したようだ。設計通りであればMJ号のノズルと翼端はぎりぎり甲板上で80度の仰角をとることになる。
「仰角50。天候は薄曇り。風、微風」
「各員シートベルトを確認」
「仰角70。観測範囲に一般艦船、敵反応なし」
「艦尾甲板上で安定。両翼展開!」
「仰角、80になります!」
「ロクさん、補助スラスター点火!」
「待ってました! 両翼推力全開」
「各員衝撃に備えよ、行くぞ宇宙へ!」
補助推進はゆっくりとMJ号の巨体を架台にこすりつけながら浮き上がらせる。翼端から噴射される光が波を蹴立て、固定アームの関節点を稼働させて呼応するMT号の僅かな前進も手伝い、空中に浮遊した。
「ロクさん、スラスターをオーバーブーストへ!」
「はいよっ」
MJ号の高度が徐々に上がり、MT号の艦橋をかすめていく。
「高度、海面から400m」
「アストランダ―ロケット、点火!」
数秒と違わずブリッジがどんっと揺さぶられ、同時に体がシートバックに押し付けられさらにめり込んでいく。
「リフト・オフ成功! あー、舌を噛みそうっ」
フル加速の開始によって体感する荷重も三倍、五倍となる。MT号の巨体は地球の自転に依存しながら、重力を振り切り秒速8キロへと速度を上げていく。やがて加速は7Gに達した。
「衛星・・・兵器からの攻撃! MT号にっ」
マリが苦しそうに叫ぶ。当も思わず上体を起こそうとするが動きが取れない。
「こっちを狙ったが・・・速度差で外したか!」
「MT号に命中シマ・・・」
噴射炎と排気の帯をたなびき上昇するMJ号には成す術がなかった。

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

ようやく飛んだよ。

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ肆

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マンモスタンカー「マイティ・10(T)」のカタパルトに移設されたピブリダー、エキゾスカウト、コンクルーダー各機が飛び立つ頃、夜はすっかりと明けており、あの深海の闇の中での戦いなど嘘ではなかったのかと思わされる快晴となった。MJ号の艦載機には高度なAIナビゲーションが導入されて久しい。以前は射出と着艦の際にオートマチックシステムが働いていたが、これをもってしてもパイロットへの心理的負荷は大きかった。

235mのMJ号に「甲板上ではなく射出口ないし着艦口」に着艦するというテクニックは空母への着艦よりも難しいのだ。
実際にMJ号では何度か、艦載機の不時着による格納庫火災を経験し、狭く限られた空間内での着艦安全性を満たすには、従来のATシステムでは不備が大きいと判断された。
そのため、各艦載機ともVTOL能力の追加装備を施され、AI誘導によって安定的な着艦が可能になった。その反面、特に小型戦闘機のピブリダーには重量増加や航続距離の短縮化といった弊害も生まれている。
彼らを受け入れるカタパルト潜航艦の待機ポイントまでは、ピブリダーが飛べる距離圏に収まっていた。
「これは・・・機体に任せないとおっかなくて降りられないよ」
エキゾスカウトを操縦する源田も予備機の寺川も、潜航艦上部に設置されている着艦用甲板の小ささにうめいた。
「横風の抵抗を察して船首を風上に向けてくれているな。だいぶ楽に降りられるはずだ」
コンクルーダーから英が通信してくる。
「それでは隊長からどうぞ」
当とマリを乗せたピブリダーが旋回降下していく。
垂直着艦した各機に、潜航艦のクルーが次々ととりつき、着陸脚の固定と機体への結束ベルトをフックがけすると、それぞれの機体を囲むように甲板から格納板がせり出し、展開して機体を覆う。これで艦が潜行しても甲板上では海水とその水圧から機体は守られる。
全クルー、MJメンバーが艦内に入り終えると同時に潜航艦は波を切り裂くように海中へと姿を消していった。

水深200mにほど近い海底からテーブル上の巨大な岩棚が隆起している。緩く傾斜を持つ岩棚は海上に僅かに突き出た岩礁の裾野だった。
岩棚の壁は海面下100mまでいくつかの突起や壁を形成しており、その一角に巨大な洞窟が開口していた。
「MJ号でも楽々と進入できそうな広さだな」
艦内モニターに映し出される海底の様子を見ながら、天田がつぶやいた。
「新型潜水艦の開発研究をしていた旧海軍の基地跡だという話だ。我々の第二ドックとされているが、表だってはメタンハイドレートやマンガンなどの採掘調査基地として使われているんだ。まあ、その採掘調査基地も表向きは海上の岩礁地帯に設営されたプラットホームを示すんだが」
村上が天田の隣でモニターを凝視する。
「しかしこの規模は旧海軍時代のものではないね。どれほど時間をかけたかわからんが、矢吹コンツェルンの手で大規模な拡張工事が行われたのだろう。ひょっとすると三浦半島のドックよりも大きいかもしれん」
「あんな馬鹿でかいタンカーを運用するくらいですからね。岩礁があるにもかかわらずあれが使われてるって事は、あのタンカーにも潜水能力があるんじゃないですか?」
天田は冗談のつもりで言ったのだが、実はMT号にはその能力が備わっている。
潜航艦が接舷した。岩棚内部を掘削して作られた海底バースだ。
「こういう海底の地下空間って、気圧調整とか温度管理とかどうなってるんでしょうね? あまり耳は痛くならないし」
「さてね、海水質量と岩盤質量とでかなりの圧力がかかっているとは思うが」
ドックの職員に案内された部屋も広く快適だった。
唯一の不安材料は、ここへ持ち込むはずだったMJ号が事実上撃破され作戦行動が続行できないことだ。
さすがの当も苦虫をかみつぶした面持ちだ。
そこへ勢いよくドアを開けながらポロシャツに白衣を羽織った若者が現れた。
「Sorry to have kept you waiting! ここの技術系総括やってます、トーマス・ナリタですっ」
トーマス・ナリタ・・・はて?と、当は思った。
T・ナリタ博士による宇宙装備計画と聞いている今回の作戦について、当は、人違いをしていたことに今さらながら気がついたのだ。
「マイティジャックのメンバー・・・3人ほど不在ですが・・・と、隊長の当です。今回は作戦と計画を反故にしてしまい・・・」
「captainオートネからデータをもらっていますが、あれは最低でも3年は修復にかかりますね。Well, sometimes that happens」
妙に軽いノリでしゃべりまくる、日本語と英語が半々の違和感に天田は多少いらついた。
しかも日本語が堪能だ。
当はまず、MJ号のことではなくナリタ博士自身のことをたずねた。
「認識不足で大変失礼ですが、実を言うと私の知っていた成田博士とあなたは・・・」
「You bet、 Sure」
トーマス・ナリタはあっさりと言ってのけた。
「He is an excellent engineer.ミスター・トオル・ナリタは僕の心の師匠です。僕は日系二世なんですがたまたまナリタ姓の家庭に生まれて、なんの因果関係もなくこのファーストネームです。そのことそれ自体が因果と言うより運命だなあと衝撃を受けたのが7歳のときで、あの偉大な技術者はもう亡くなっていました」
「博士は・・・いままだ二十代くらいかね?」
そう尋ねた村上も「博士号」を持っているから博士のあだ名で呼ばれているが、目の前の青年からは村上のような科学者然とした雰囲気は伝わってこない。
「27です。『Caltech』を1年落第してドクターコースを出たばかりですが、ここには3年ほど前から出入りさせてもらっています」
「カリフォルニア工科大学か、そりゃ優秀だねえ」
「いいえー、ジェット推進研究所に希望を出したんですけど、いらねーと言われましてー」
なんとも憎めない若者だ。聞けばMT号の開発を専任で行ったというが、彼の専門は宇宙関係らしい。
「MJ号には母艦と言わないまでも遠隔地での補給とメンテベースが必要だと思いまして。そうしたら矢吹コンツェルンが大型タンカーのスクラップを買い付けていたのに手つかずだったんで、僕が改修アイデアを出しました。といってもあれって、30年くらい前に日本のマンガで東京湾から源潜を脱出させるって話があったんですよ、それの真似」
ただ・・・と、トーマス・ナリタは苦笑いした。
「タンカーに短距離・短時間の潜水艦能力を持たせたことは、ギミックとしても船体強度的にも自慢なんですが、致命的な欠陥を持ってます。それは、母艦であるにもかかわらず、MJ号の両翼を含めた全幅より船体の方が狭いってことで」
それを聞いた一同はつい、思わず吹き出し、笑い出した。
さっきまでのどんよりとした空気が一変する。
「まさか、あれにアストランダーロケットをくくりつけて飛ばそうとか考えてるんじゃないだろうね?」
「No problem。マイティ・10はあくまでも支援母艦です。でもあのサイズ、長さは伸ばせても幅員を変えられないので、MJ号の両翼を折りたためるように改良しました」
ん? と全員がトーマスに注目した。
「MJ号にそんな機能はついていないぞ。どういうことだ?」
あっ、予定より早くしゃべっちゃったよと、トーマスは頭をかきむしった。
sorry!、昼食が配膳されるまでの間を持たせようと思ってたんだけど、それよりもMJ号ですよね」
「当然だ!!」
全員が総立ちとなって叫んだ。

トーマスは部屋を出て彼らが上陸した桟橋フロアを横切り、隔壁の方へ歩く。マイティジャックの8人がこれに続く。
鋼鉄製の隔壁はスライド式の巨大なドアとなっていた。が、もう何年も動かした様子はない。
天井まで届く扉は、人間にとってはいちいち動かす必要は無い。下方に一カ所、高さ2m程度の小さな扉も付いている。トーマスは腕時計を操作してこのドアの電磁ロックを解除した。
「こちらです。どうぞお入り下さい。you guys will be surprised」
隔壁の向こう側には同じサイズの空間が広がっていた。
しかし桟橋と異なるのは工場区画のようにも見えるホイストクレーンや様々なアーム、床面に何台も配置された作業車両と、かなりの建て込みようだった。
「・・・これは・・・!」
「まさか。こんなものが」
誰も彼もが息を呑んだ。
「プロフェッサー・トーマス! これは何だね?」
「何だと言われても・・・見たままの代物ですよ」
「だってこれはMJ号じゃねーかっ」
「落ち着け源さん。でもこれ、MJ号だよなあ」
「なんかちょっとだけ違うみたいだけど、MJ号よねー」
作業車の奥に超大型のキャタピラ式台車が据え置かれ、その構台に見覚えのある艦影が載せられていた。
間違いなくMJ号だ。
トーマスが口を滑らせたとおり、主翼は付け根付近から70度ほど折りたたまれている。その主翼の内側、本体後部両舷には今までなかった大型の推進ポッドが取り付けられていた。
「あれか、アストランダーロケット」
当が口を開いた。天田が続けてうなる。
「すごいなこれは・・・俺たちこんなこと聞かされていませんでしたよ」
「私らもだ。まさか二番艦が存在するとは」
「はーい、Please pay attention!」
トーマスは両手をあげてざわつく一同を制した。
「この『MJ号二番艦』は、chairmanヤブキの指令で皆さんが乗り組んでいた艦と同時期に建造されたものだそうです。現在まで皆さんのbattle recordを解析し、艦内の各所で機器設備の最適化や新機軸のメカニズムに更新が続けられています。就航順序でいくと本来はMighty-Kingになる予定でしたが、それだと僕の手掛けたあれがMighty-Queenになるんで、『MQ号』って『Q』と被ってやだなあってあれをMighty-10としてもらいました」
当は巨大な、しかしよく見慣れた艦影を見下ろしながら聞いた。
「それでは、この艦は『MJ号二番艦』でいいのかね?」
トーマスはにこにこしながら「of course」と告げた。
「12は今のところ欠番扱いで、いずれ『Ace』とか『King』の防衛メカニックが誕生していくんでしょう」
「それってなんだか合体と変形しちゃいそうでそんなのいやだぞ」
寺川が冗談じゃないぞという冗談を言うのだが、トーマスは「Is that so?」と、不思議なことを言われたたという顔になる。
「いくらか外観も変わったようだが、どのくらい改修したんだ?」
天田が話題を修正した。
トーマスは話を続ける。
「本体については最大の変更改修として、メインノズルを小型高出力化してツインノズルとしました。その前提として、動力炉は核分裂でも核融合でもない、まったくのブランニューシステムを搭載してあります。尾翼の数も増えましたがあれはツインノズルに対応したものです」
流暢な日本語で展開するトーマスの解説は歩きながら繰り広げられた。
PBBを経由して艦内に移動したメンバーは、そのままブリッジに案内され、MJ号が内装変更を受けた理由を知ることとなった。「二番艦」のブリッジは、つい先日まで慣熟操艦を行ってきた新型ブリッジと同じ配置だったのだ。
「エンジンが新しくなったということだが」
機関員である服部が質問する。
「それでも宇宙用ブースターが必要なのか?」
「There are some issues」
ブリッジのメインモニターに弐番館の透視図を映し出しながら、トーマスは説明した。
「アストランダ―ロケットブースターは、第一宇宙速度を突破するための用途と考えてください。あれかなりheavy weight。宇宙に行ってしまえば質量と慣性の課題はありますがそれはまだいいんだけれど、大気圏内での通常飛行には左右併せて800トンも重くなってしまいました。今度のミッションが完了したら取り外す予定です」
MJ号の通常時の重量は28000トンだ。それが800トンもの増量となっている。なるほど機動性を維持するためには加算される重さは厄介だなと、当も感じた。
「それというのも、アストランダ―ロケットは我がマスターT・ナリタの設計のままで、従来の液体燃料方式です。Maybe it’s disposable、そんな装備ならコストも考えないと」
トーマスの言葉は一同にとっては意外だった。誰もがアストランダ―ロケットに新エンジンが積まれていると思い込んでいたからだ。
「マスターの発案と設計ですから、アストランダ―は何も心配ありませんよ。新エンジンはもちろん僕の自信作ですが、As you can imagine、一度も飛んでいません」
「プロフェッサー・トーマス、それで、新エンジンのシステムとはどんなものかね?」
村上が聞いた。
「I will answer。it is Annihilation」
トーマスは振り返りながら腰に手を当ててそう答えた。
「そんなばかな・・・反物質をどうやって手に入れるんだ?」
英は信じられないという反応を示した。
「antimatter it exists。話がもつれるといけないから、英語使うのやめます。反物質はですね、意外に身近に生成されるんですよ。それはスーパーボルト、つまりカミナリです」
あ、という表情をしたのは村上だった。源田がそれに気づいた。
「稲妻落としだ」
「だから・・・雷おこしでしょ?」
「『熱い氷』を粉砕したあれですか」
「少し違う。あれは対消滅には至っていない超振動だった。対消滅とは・・・」

電子と陽電子が引き合いに出されるように、通常の物質と反物質が接触すると「対消滅」が生じる。双方の質量は100%、エネルギーに変換される。これは核分裂や核融合の比ではない超高効率であり、1グラムの物質、反物質の対消滅は都市一つが消し飛ぶエネルギーとも言われている。
雷が放つエネルギー量は落雷一回にで15億J(ジュール)と考えられている。約400kWhの電力に相当し、家庭用ならば二か月分の使用量に匹敵する。
落雷の際、そのエネルギーの一部は大気と接触し熱エネルギーに変換される。この瞬間、大気は約30,000℃にも達する。このときの電気としてのエネルギーは約1億ボルトの電圧を発生させている。それが大気中の窒素などに作用し反物質を瞬間生成すると言われている。
「これを人工的に作り出し、安定させ持続させるのが僕の理論です。今回はアストランダ―ロケットにミッションを譲りますけど、僕のエンジンが成功すればブースター無しでも宇宙へ行けるようになります。いよいよこれを立証させることができる!」
「おいおいおい、ちょっと待て。作戦続行とはいえ俺たちモルモットになるのかよ」
「ああ、ご心配なく。僕も乗りますから」
「そそそ・・・そうじゃねーだろうっ。お前電気を甘く見過ぎてるぞ!」
「If so, will you stop!?」
源田とトーマスの口論が始まりそうになったので、英が2人を諭す。
「まあまあ、どんなものにも最初はある。科学技術はトライ&エラーの繰り返しさ」
「しかし先生、いきなりエラーは困るじゃないですか」
「考えてもみろよ。28000トンの鉄の塊をなにげに飛ばしてきたんだ。235mの巨艦が飛ぶってだけで、我々はもうSFを超えているんだぜ」
「・・・冷静になったら余計に恐ろしくなってきた。隊長、俺たち勢いで出動してましたけど、こんな不確定要素だらけの状態で戦えって、無茶にもほどがありますよ!」
源田は当に食ってかかった。つい先ほどまで軽口をたたいていたとは思えない権幕だ。いや、軽口それ自体が、彼の抱く共振を彼自身が抑えようとしていたリアクションなのだ。
「装備は万全かもしれない。しかし誰もそれを試してもいない。そのうえ俺たちの誰一人、宇宙で活動したことなんかないんですよ! 俺、あの深海戦で肝が冷えました。MT号の救援がなかったら助からなかった。宇宙にはその支援なんか期待できないじゃないですか」
「おい、言い過ぎだぞゲン。宇宙行きには大きなリスクを背負うことくらい隊長だって百も承知だ。だがな、我々意外に誰がMJ号を扱えると言うんだ!」
「しかし副長っ、俺は・・・おれはもうプレッシャーを抑え込めないんですよ」
源田の弱音に何かを言おうとした天田を当は止めた。
「副長、ゲンの言うことももっともな話だ。それこそ勢いで宇宙に上がってしまえれば良かったかどうか、俺にも判断しにくい」
当は源田に対して静かに言った。
「ゲンよ、深海戦では無理を強いた。君がこれ以上行動できないというならドックに残ることを許可する。我々は軍隊並みの装備を有するが軍隊であってはならないと日頃から考えてきた。戦えなくなった者にこれ以上無理強いはしたくない。仲間を失うことの方が耐えがたいからな」
当は振り返って全員に同じことを告げた。
「これはゲンだけの問題ではない。これ以上戦えないと感じる者は下艦してよろしい。プロフェッサー、最悪今のMJ号は独りで動かせるかね?」
トーマスが不安そうな顔のまま答えた。
「あの・・・比較の対象にもならないんですけど、極論を言えば『200m級のピブリダー』を操縦する感じというか・・・かなりの操艦支援をAIが補佐できます」
「隊長、それこそそんなのは無茶すぎます。俺は一緒にやりますよ」
天田が詰め寄る。天田に続いてマリが大きく頷いた。
源田はうなだれたままだ。その肩をそっと叩きながら英も当に同意の仕草を見せる。村上は既にトーマスとMJ号二番艦の操舵システムやエンジン制御についてディスカッションを始めていた。これに服部も加わる。
「あー・・・さっきやだぞって言ったけど、マイティ・キングなんて巨大ロボが宇宙で待機してたら良かったですよねえ」
寺川は笑えないジョークを呟き、操舵補佐席に座り直した。
当はここを潮時ととらえて全員に言を下す。
「正直なところ、背に腹は代えられん。『二番艦』に賭けようじゃないか。プロフェッサー、あとどれくらいでこいつは出撃できる?」
「四時間後、MT号が帰還次第、gantryごと積み込み出航します。このドックからは打ち上げできないし、Qにここを察知されてはならないから」
「洋上で打ち上げるのか」
「That’s right」
「聞いてのとおりだ。我々には一刻の猶予もないがとりあえず四時間を得た。これより二時間の強制就寝を命ずる。さらに二時間で食事なり風呂なりを済ませてベストコンディションを整える」
「待ってください!」
源田が叫んだ。
「みんな凄いよ。俺なんか足手纏いになりそうだけど・・・隊長すみません、前言撤回させてください。副長にぶん殴られないうちに腹をくくります!」
「おいゲンっ、なんだその言い草はー」
天田が源田の鳩尾を軽く軽く小突くと、その場の全員が笑い出した。
当の顔には再び不敵の笑み浮かんでいた。
「それでは各自持ち場へ戻る」
一同、S・M・Jの合言葉をもってその場を解散した。

 

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

ああっ、打ち上げできなかった・・・

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ参

マイティジャックを取り戻せ! 完結編ノ参 はコメントを受け付けていません

「あいつら全部囮だってことですか」
天田は半信半疑で聞き返した。当は推論を明かす。
「俺なら炸薬満載して突っ込ませる。全長80m級の魚雷だよ、至近距離で自爆されたらひとたまりもない。あれはおそらくそういう仕掛けで自動操艦されたポンコツ潜だ」
「もし満載しているのが核魚雷だったら・・・」
「それは無いな。こっちを拿捕しようというなら艦体をへし折るのは構わんだろうが、核汚染させてしまえば奴らだって手出しできなくなる。3隻のうち有人は1艦のみだ。左舷と正面のやつがオートマチック艦と見る。各艦にノイズデコイを撃て。こっちはさらに潜航する!」
源田の隣で火器管制を任された寺川が対潜ミサイル発射管から3発のデコイを撃ち出す。マリのレシーバーに耳障りな音響反応が伝わり、三方に離散していくのがわかった。
マリはレシーバーを少しずらしながらMJ号の位置情報を確認した。
「伊豆・小笠原トレンチ、10時の方向4000mです」
「まさか海溝に潜るんですか?」
さすがの源田も当に直接聞かざるを得ない心境だった。目前に迫る海溝は9000mの奈落の底たが、そこに至る海溝の「縁」は既に5000m級の超深海なのだ。MJ号の潜航深度限界は1500m程度と覚えさせられているものの、隊の創設以来そこまで潜航したことはない。
「負ければそうなるが、そのつもりはない。逆にあの厄介なやつらを地獄の底に突き落としてやりたいんだが」
そう言いながらも、当は現状、逃げるしかないなとも思っている。仮に彼の想像通りだとすれば、敵潜を接近させ過ぎた。迎撃が成功しようとも爆圧のあおりを防ぎきれない。
逃げるとすれば全方位の何処に進路を取るべきか・・・と逡巡しているところへ村上の声が響いた。
「発振器の移設完了! 隊長、これでうまく行くと思うが融合炉のプラズマ再生成まで時間を要する」
「・・・どれくらいだ?」
「那珂の実験炉では5時間もかかっていたがそうだな、同時に炉の再起動も進めて30分でなんとかする。ただし飛べるまでにはもっとかかる」
「すぐにやってくれ」
「S.M.J」
村上は即席で作った操作機器と既存のマニピュレータを連携させ、レーザー発振器を遠隔操作移設し、発振器の出力調整を済ませていた。太陽光集積パネルから発電し蓄電されている電力の30%を消費することになるが、この30%という出力も極めて大電力だ。
「服部君、融合炉の再起動用意。こっちは冷却系を復旧させる」
「エスエムジェイ!」
「源さん、悪いが電力を分けてもらうぞ、名付けて『稲妻落とし』だ」
「えっ? 『雷おこし』じゃないの?」
源田がとぼけたことをつぶやく間に艦全体を大音響と振動が揺さぶりをかけた。レーザー発振器からの高出力電撃が冷却系に衝撃を与えたのだ。
一瞬、ブリッジ内の照明がブラックアウトし、非常電源に入れ替わる。計器類も一部の設備が沈黙した。服部が状況を知らせる。
「全電力、残り12%!」
「大丈夫だ、うまく行っている。先生!さっきと逆の要領で発振器を炉に戻してくれ」
「敵潜1艦近いです!」
「直撃だけは避けろ、対潜魚雷全問撃ちつつ回頭っ」
マリが叫ぶ。天田は咄嗟に回避運動を命じた。
左舷から接近してきた潜水艦がMJ号の回頭に併せて並走するように近接し、対潜魚雷と接触し炸裂した。
当の予想通り、通常炸薬の爆発だったがその威力は魚雷の破壊力をはるかに上回り、左舷の射出口付近で装甲版の歪みが起こる。更に最悪なことに、左翼先端の補助推進ユニットが誘爆して吹き飛んだ。
MJ号の艦体は左舷を大きく持ち上げられローリングしながら剥離した破片をまき散らした。
「みんな大丈夫か!」
「こんなのをもう一発くらったら艦が持たないぞ」
爆装潜水艦はMJ号の艦底部側に潜行している。MJ号はローリング状態にあり右舷を晒し始めた。艦内の乗員は着座しシートベルト固定していたことで振り落とされずに済んでいたが操艦などできない。源田は必死に操舵桿を固定しようとしがみつく。
機関制御をしている服部が叫んだ。
「源さん頑張れ、核融合炉アイドリングまであと3分!」
そのとき右舷で強大な爆裂が起こった。
主翼がねじ曲がり基部からもぎ取られる。だが浮力までは奪われていない。水中姿勢制御のために、源田は舵をあきらめ水流ジェットスラスターの操作盤を使って艦の回転を止めにかかる。
「隊長! これ以上はフネを安定できませんっ」
「そうだろうなっ、だがこの深度ではハイドロジェットもコンクルーダーも出せない。対潜ミサイルで可能な限り応戦する」
それを受けて天田が残った敵潜に斉射できる発射管を指示した。寺川が素早くミサイル発射ボタンを押す。
「敵艦上方から多数の個体反応あり、これ爆雷と思われます!」
マリの索敵報告は天田にもすぐには理解できなかった。
「こっちもやられるぞ。しかし避けようがない」
「待ってください、この爆雷は誘導されているみたい。敵潜1点に集中していきます」
そのさなか、今度はMJ号のブリッジ右舷上方に何かが衝突する振動と衝撃音が響いた。
『・・・つな。こち・・・味方だ。・・・から救助さ・・・いる』
突然、ブリッジ内に音声が伝わり始めた。
「どういうことだ?」
「ひょっとすると・・・有線電信機器か何かが撃ち込まれたんじゃないか?」
当のつぶやきに英が答えた。
「今の衝突音か。しかし何者だ?」
『マ・・・ジャックの諸君、・・通話はケーブル長・・・ぎりぎりだ。そのまま浮上され・・』
「浮上できるか、ゲン?」
「そりゃやりますよ。バラストタンクのバルブがいかれてないことを祈ってください」
「敵潜はどうなっている?」
「爆雷らしきものが誘爆中。こちらのミサイルも運よく命中したようです。沈降続けてます」
マリに続いて服部が報告する。
「融合炉アイドリング完了。あまり安定していないが全電源戻せます」
「よおし、鬼が出るか蛇が出るか。声の主に頼ってみる。微速浮上、艦体の破損が心配だ」

見るも無残な姿となったMJ号は右翼を失い左翼も半壊している。ただ通常の潜水、浮上の際にはなかなかの抵抗を起こす部分でもあり、安定性を欠いたとはいえ操艦には別の意味で不幸中の幸いとなっていた。
MJ号は海流の影響を受けてふらつきながらも、ゆっくりと浅深度へと浮上を続ける。
当は口には出さなかったが、ここまで艦体を破壊されては第二ドックに辿り着けても宇宙に行くことができないと悟っている。洋上にいる「味方」にしても、どこまで信用できるものかは不明のままだ。
依然として不利な戦況であることには変わりがない。
「隊長、あれを・・・見えますか?」
寺川が窓越しに上を見上げる。ソナーにもそれは反応が出ていた。
「ずいぶんでかい船底だな」
「MJ号より巨大です。あ・・・船底が開いています」
「先生あれは何だろう」
当は平時、貨物船の船医をしている英に訪ねた。
「おそらくタンカーだと思いますが・・・それにしても大きい。MJ号どころか空母並みだなあ」
『マイティジャック、応答可能ならMJE周波数で送れ。このケーブルは受信は出来ない。本船を目視出来たら船底ゲートに入られたし。翼が無くなっている今のMJ号なら幅員に問題はない』
「マリちゃん、エマージェンシーコードで了解したと伝えてくれ。どうやらQの二段構えの罠ではなさそうだ」
「大丈夫でしょうか」
「こっちにはまだ弾薬がある。罠だったら敵の腹の中で盛大に打ちまくる。博士、『稲妻落とし』で手間をかけた直後で済まないが、全艦載機の組み立て待機を頼む」
「脱出用かい? それならピブリダーの一機は福座にした方がいいかな」
「それで頼む。予備のエキゾスカウトも使えば全員分乗できる」
「隊長、謎の船に最接近。向こうから誘導ビーコン来ています」
源田が伝えてきた。行け、と当は指示する。
全長235mのMJ号用にあつらえたとしか思えない巨大船影の底に開かれたゲートに向かって、源田はあぶら汗を流しながら操艦を続け、船内に艦体を浮上させていった。
船内は予想通りの広大な空間を有しており、与圧によってMJ号の喫水線に近い水量の海水と、甲板上を行き来できるだけの大気に満たされていた。
定位置に達したMJ号を両舷から支えるようにアームが伸びてくる。鈍い金属音とともにアームが接舷し、艦体を固定した。
『船内の与圧量はそのまま甲板に出るには危険だ。すぐにPBBをかける』
今度はMJ号の通信機器に対して語りかけてきた。
「やれやれ。大負けに負けたもんだよ。フネの損傷は見たくもないほどでしょうな」
天田が毒づいた。
「どうしますこれから?」
「支援が来たということは、作戦を続行しろというのが本部の意向だろう。どうやって続行するかは・・・この段階では何も思いつかん」
当はこの段に及んでも冷静さを失わない。それでもMJ号無しの作戦遂行はハードルが高すぎる。
「隊長、パッセンジャーボーディングブリッジが接続されました」
マリが安堵の表情で報告する。当はようやくシートベルトを外し席を立った。
「全員下艦。命の恩人に礼を言いに行こう」

低い機械音が響いてくる、静かな船内だった。
どれほどの大きさなのかは見当もつかないが、艦外に出ると桟橋からずっと、3連結のカートに乗せられ船尾方向へ彼らは運ばれていく。
「そうか。もしかするとこの船は“Seawise Giant”かもしれない」
英が何かを思い出した。
「確か全長だけでも450mに及ぶ、世界最大のタンカーだった船だ」
「だった・・・とは?」
「ええ。1970年代に作られ、80年代に進水するまでに一度輪切りにされて船体の真ん中を増設して巨大化した船ですよ。最初はギリシャからの発注でしたがいろいろ問題点が指摘されて最終的には中国の海運が買い上げ、船体の延長をやったはずです。こういうマンモスタンカーが群雄割拠した時代があったんですが、シーワイズ・ジャイアントは別格にでかい」
「てことは、この手の巨大船は廃れたんですか」
「その通りだ寺川君。そもそもこんな船、スエズ運河を通れない。マラッカ海峡も浅くて運行できない。そうこうしているうちに原油価格の高騰など海運不況も手伝って、大型タンカーと言ってもせいぜい32万トンくらいが上限になっていった」
「寄せられる港も限られそうですね」
「そうだよマリちゃん。80年代にはイランが用船して原油の積み替え浮体基地として使われていたところをイラクのエグゾセで撃沈された。そのあと修理されてノルウェーの管理になったりいろいろ引き回されて、その都度船名も変わって、最後には『ノック・ネヴィス』と呼ばれてカタールに行った」
「激動の船旅ですね」
「そうなんだ。しかし15年くらい前に廃船・解体されたはずだ」
英の講義が終わったところで、カートはエレベーターホールのようなスペースに滑り込み、停車した。2つあるエレベーターの片方がドアを開けていた。
「どうやらブリッジに案内されているようですな」
「もう怖いものなしだよ。上がろう」
機材運搬にも利用するのか、エレベーター内は8人が余裕をもって乗り込める広さだった。
ゆっくりと上昇が始まる。
ややあって「箱」の動きが停まり、ドアが静かに開く。
ブリッジだとひと目で分かった。操舵主らしき男と3人のクルーがそれぞれの持ち場についていた。

彼らとはまた別の人物が振り返り、笑った。
「ようこそMT号へ。全員生還できて何よりだ。私は本船を預かる大利根七瀬だ」
男の歓迎に、当が代表して答えた。
「大利根船長、まずは救助支援に感謝します。我々の御同輩とお見受けして名乗らせていただきますが、各員の自己紹介は控えます。私がマイティジャックの隊長、当八郎です」
「当隊長、MJ号は残念なことになった。だが生き残ることが先決だ。君たちには悪いが、準備ができ次第、第二ドックに飛んでいただく。いやなに、この船だとせいぜい20ノットしか出ないんでね」
「あのぉ」
源田が当の背中越しに手を挙げた。
「操船担当の源田明です。二つお聞きしたいのですが」
「なんだね、言ってみたまえ」
大利根が質問を許可した。
「ここへ来るまでにMJ号を目視できませんでした。外から見た損傷を気にしています。もう一つは・・・どうやって第二ドックへ行けと・・・」
それは全員の代弁でもあった。目まぐるしく変化している状況を呑み込み、整理する必要があるのだ。
大利根は答えた。
「話しやすい方から行こう。第二ドックへのナビゲーションプログラムを君たちの艦載機に提供する。指定ポイントに本船よりは小型のカタパルト潜が待機する。着艦、係留後に潜行しドックに向かう」
「潜水空母・・・」
「空母というほどのものじゃない。甲板上に四機も乗せたらそれで満席だ。さて源田君からの答えにくい最初の質問だが、本船ドックの映像を見たまえ」
大利根の部下の一人が計器盤を操作し、ブリッジ前面天井に敷設された液晶モニターが投影を開始した。
マリが声に出さずに悲鳴のようなうめき声をあげた。一同、息をのんで映像に見入る。
「うひゃあ・・・こんなのどれだけ修理にかかるんだ? というか、これ修理できるんですかねえ」
「素人目に見積もっても二年や三年は必要じゃないかな。だが今、それを憂いている暇はない」
「ということは」
天田が口をはさんだ。
「副長の天田一平です。行けというからには、第二ドックに何か逆転を撃つ手立てがあると」
「向こうにその責任者がいる。そこで指示を受けなさい。本船が追い付くまでに準備と休息の時間を得られる」
「隊長?」
天田の表情を読み取った当はゴーサインを出した。
「手分けして艦載機の発進準備にかかれ。博士が途中まで作業してくれていたのはラッキーだったな」
「まあな、隊長の即断の賜だよ。それじゃあ行こうか」
村上の合図でメンバーたちは踵を返す。
「当君、少し時間をもらえるかね」
大利根が当を呼び止めた。
「・・・なんでしょう?」
「私の事務室へ行こう。手短に済ませる」
大利根は目じりにできた皴が動くような笑顔で言った。
何か懐かしいものを眺めるような表情だった。

 

 

※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません

 

いよいよ長くなってしまいました。もはや90分の尺は諦めて、なるようになれですが、これ年内に書き終わるのか?

実は運転者の方が速い?

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意外に伝わっていない児童誌掲載の設定ですが、「ジョーカー」には70年代既に衝突回避性能が備わっていて、車体側からレーダー波を照射し周囲の車両との安全距離を維持できるのです。それ以上に空飛んじゃうパトカーなので、当時は衝突しない車という部分は地味だったのかもしれません。でも21世紀の自動車には各メーカー鎬を削る安全性能の最先端に置かれていますから、「ジョーカー」の設定が原作者にせよ東映にせよ先見の明があったのです。

ただ・・・このパトカー、最高速度が時速500キロ。いやいや充分凄いんだけど、「ロボット刑事」のエンディング曲によれば♪アップだスピードマッハ1という歌詞があり、これは前後のフレーズを含めて歌ってみると、なんとなく「ジョーカー」ではなく「K」自身のことを言っている(走れ、走れK、Kという歌詞からしてクルマについての言及じゃない)。「K」自身の性能がとんでもないわけですが、彼の内臓捜査機器以上のツールや救助装備を抱えて走る非現実性から、「ジョーカー」にはちゃんとした存在意義や必要性があるんだなあと考えます。