沢山のエスクードユーザーが朝霧高原を撤収している頃、九州ではTDA2012シーズンの最終戦(写真はTA01Wさん提供)が開幕していました。
ここまでの2戦を連勝してシーズンチャンピオンに王手をかけている川添哲郎選手と、その2戦を落としてきた後藤誠司選手。どこをどう切っても、あとが無い後藤選手がどのように最終戦に挑むのか、川添選手は持ち前のカードシャッフルをどう仕掛けていくのかが見どころでした。ポイント上、後藤選手が最終戦を優勝しても、川添選手がベスト4に入ってくれば、川添選手のシリーズタイトルは決定なのです。
「端的に言って、川添君が緒戦で負けて、四位決定戦へとスタミナ温存しながら勝ちに行ってしまうシナリオだってあり得たのです。しかし彼は今回、それをやらなかった。緒戦から全開で対戦相手を下して、後藤君に攻め込んでいきましたよ。後藤君は後藤君で、必ず来ると思っていたそうです。そうなれば一矢報いずにはいられない」
島雄司監督はいつになくクールさを装うのですが、内に秘めた熱さをこらえるのに必死だったというのが本当のところでしょう。彼らのライバルであったパジェロ勢の代表格、廣瀬選手が番狂わせのように敗退した一幕をはさみながら、決勝ラウンドは後藤対川添のエスクード対決。最初からかけ引きなど持ち出さず、お互いの力の激突の末、後藤選手は川添追撃を跳ね除け、最終戦の優勝を果たします。が、ポイントランキングとしては川添選手に軍配が上がり、シリーズタイトルが確定しました。
「なんとか連覇は防ぎました。この決着は来季につけます」
「やっぱり最後の最後はごっちゃん(後藤君)でした。悔しいけどあいつは強いです」
後藤選手は、今シーズンの走りにわずかな迷いを抱いていたそうです。軽量級ながらパワーも兼ね備えるエスクードを自在に操る、牛若丸のような川添選手に対して、軽さとパワーで派手なパフォーマンスにも見える振り回し方をしてきた後藤選手だけに、それで二敗を喫したことは痛恨事だったのです。
今まで培ってきた戦法が通用しないということは、自らの戦いの構築が間違っているのかもしれない。なにしろ、相手は同じ性能、同じ戦力のエスクードです。勝敗の行方は、ドライバーにかかっているのだから、勝てない原因は自分自身にあるのかと、惑わされるのも無理はありません。
「後藤君は、最終的には自身のスタイルを貫きました。川添君がかけ引きに出なかったことと、後藤君が真っ向勝負でぶつかったことは、広い意味では我々TDAに取り組む者のスピリッツそのものを表現してくれたに等しいのです」
実は川添選手は、「僕はまだ、ごっちゃんほどにエスクードの力を引き出せていないんですよ。彼の走りを追いかけていくと、それがわかります」と話したことがあります。川添選手にとっては、後藤選手の大胆なドライビングは、一種の芸術。これをひとつずつ崩していこうとする川添選手の戦いは、まさに匠の技なのかもしれません。だから、この最終戦の結果は、現在の2人の実力の表れでもあるのです。
さてしかし、その実力はおそらく紙一枚の薄さを隔てた裏と表。次回は何が起こるかわかりません。そういった期待を持たせてくれるようなシーズンの幕引きでした。来年のTDAは、きっと、もっと面白くなります。マイナー車と言われているエスクードが、これほど座を盛り上げるレースは他にはありません。来季の行方が楽しみです。