「だが正月の三が日だけは例外とし、朝餉にあっては女どもに代わって雑煮のひとつも作ってやらねばならぬ」
というのは、曽祖父ののたまった家訓だったそうで、これは祖父から教え込まれました。しかし祖父が忠実に引き継いでいた家訓を遺した曽祖父は「遊び人」だったらしく、我が家の身上をつぶした人物でもあり、親父の代になるまではじり貧だったのが本当のところ。だからこんな家訓を親父が継ぐわけもなく、台所に立つはずもありません。
んーと・・・ ということは。
まあ僕もそのまま一子相伝てことで、伝えるべき男子もいないので、因縁めいた家訓は立ち消えですね。
「おとうさーん、お雑煮の汁の味付けはこんなんでいいのー?」
「明日あたりシチューを作りたいんだけど、味加減みてくださいよー」
という娘らの呼び出しは、家訓の話なんかしてやる余地もないのです。