「あたしは学会に復讐してやるんだーっ」
な、何事だ?
「あっ、間違い。学会用に復習してるんだーっ」
霰は民俗学の専攻で卒論を書くにあたり、地元の奇祭と山麓の風習などを取材し続け論文をまとめたのですが、いろいろと詰めが甘くて、提出し受理されたのが論文提出締め切り日の、タイムアップ10分前だったという綱渡りでした。
「そんな論文、受理されはしても教授会ではねられるんじゃないの?」
「やめろよそんな予測。そしたら留年じゃん」
「えー? 留年したら就職とか、退去日時の決まっているアパートとかどうするんですか?」
だからやめろっ、という外野の評をよそに、どうも日本民俗学会が定期的に開いている論文発表会に持って行ってしゃべってこい。との厳命が下ったらしいのです。
さあたいへん。書くのは書いたけれど所定時間で簡潔に論旨をしゃべくれるのかとなるとまったく別問題です。
「おねーちゃんてそういうの得意じゃないですよね。活舌悪いし」
「だけど論文が認められたんだから卒業は安泰だろう?」
「まともに発表できなくて大学の恥をさらしたら全部おしゃかだわねー」
「な、なんて家族なんだっ そんなら絶対に見に来ないでよ!」
と霰はあと1か月ちょっとで卒業というのに必死です。
見に来るな? そんな面白い貴重なもの、見過ごすわけにはいかないよな。