忘れられていたらかわいそうだなあと、取り上げておきます。2000年12月12日、スズキはH20Aのボアアップ版であるH25Aをさらに拡張し、V6で最大排気量(当時)2700ccのH27Aを搭載したグランドエスクードを誕生させました。小型車版の二代目エスクードに与えられた「クロスカントリーセダン」という意味合いがずっと腑に落ちなかったのですが、グランドに用意された「クロスカントリーワゴン」が登場し、なるほどそうだったのかと膝を打ったものです。
派生モデルとしての型式はTX92W。AでもDでもなく、あえて「X」を刻ませ、後の三代目2700が受け継ぐ「9」を既に与えられています。市場の流れでは派生ですが、98年には北米でXL‐7として先行登場しており、ニーズ対応と同時に次期モデルのための開発要素も込められていたように思えます。しかしグランドエスクード最大の特徴は、5ドアタイプながら3列シートを持ち、この3列目の足元が大人でもきちんと乗れるスペースを確保していたことでしょう。
3列目シートだけを倒しても荷室の余裕は大きく、2列目まで倒してしまったらキャンプ道具満載か、ゆとりの車中泊空間が出現する。足回りや駆動系は二代目を踏襲し、大幅に上がった車重に対応した補強も施されました。基本的には車体後方への延長が行われたわけですが、これは二代目エスクードもラダーフレーム方式を継承したからこその簡易な、それでいて非常にまじめに作り込んだ成果だと言えます。グランドには1型が無く、4型まで二度のマイナーチェンジが行われました。
途中、モーターショー参考出品で3列目シートを持たない5人乗り仕様や、キャビンを大胆にカットしたピックアップトラック仕様も登場しました。故山本寛斎氏によるコーディネートや、ヘリーハンセン、FISリミテッドなどの特別仕様や限定車もリリースされました。さすがにピックアップタイプの市場投入は実現しませんでしたが、販売期間わずか5年程度の間に、なかなか盛りだくさんの企画を立案しています。それでも大人数乗車ではミニバンに市場を譲ることになります。
2人の子育てをやっていた頃は「親子三代全員乗れるのはいいなあ」と思いはしたものの、手に入れそびれているうちに20年が経ってしまいました。フジ・オートの渡辺代表によれば「中古車ニーズは高く、乗り続けているユーザーの愛着も深い」ということで、一時期これに乗っていた人々も思い思いにカスタム化に余念がなかった。グランドエスクード自体のアフターマーケットは決して幅広くなかったので、皆さん実に熱のこもった専用車いじりに励んでいました。