桐生仁が誰だかわからない人にはまったく面白みのない話でしかありませんが、彼が「紅い牙」のヒロインである小松崎蘭がアルバイトしているドーナツ店に出かけたものの、店内の甘みたっぷりの香りにはかなわないという、まあ物語の展開には全く関連性のないシーンがあります。
伝奇作家でハードボイルドを自称する彼のことですから、自らのイメージを崩さぬ警戒心も手伝ってのことだと思われますが、それでも蘭を訪ねて行ってしまうあたりは(必要に駆られてのことです)、実は隠れてこっそり食っているかもしれないという、どうでもいい想像もさせてくれたものです。
いやほんとに桐生仁の気持なんかどうでもいい話で、朝っぱらからドーナツを食える娘らの味覚や胃袋はどうなっているのだ?と思うばかりか、目当ての銘柄が焼きあがるまで待たされると、確かになんとなく胸焼けしてきたような気分になります。
ついでに言えば家内の分、お袋の分と、それぞれのお好み銘柄を一通り選んで行ったら、とんでもない数になっていたのに驚かされ、これが週末の間に完食されてしまった事実にさらにびっくり。一度の買い物で、ドーナツというのは30個近く買い求めるものなのだという学習をさせられた僕は、桐生仁の年齢などとうの昔に追い越してしまっており、「どれがいい?」と聞かれて危うく漉し餡のアンドーナツと言いそうになるのを押しとどめ「コーヒー」と答えるのみであります。
が、なぜアンドーナツを扱わないのだ、ミスタードーナツ?