日曜日、縁があって南三陸町の新しい役場で行われたこけら落としにお邪魔し、6年半前から変わり続けている風景を眺めながら、役場の建物を見学しました。
震度7の地震にも耐えるよう作られた鉄筋コンクリートの柱が支え、鉄骨フレームが保持する梁や間仕切りのルーバーなど、いたるところに地元で生産された「南三陸杉」の部材が使われていて、よくよく聞いたら壁の木製ボードや内装の壁紙までもが南三陸杉から作られたものだそうです。
ドイツのボンに「森林管理協議会」という国際団体があって、社会的利益を守り、継続可能な森林管理を経済など多面的に推奨する活動を展開しています。それと役場がどうかかわっているかというと、建物に使われているありとあらゆる木製品が、この団体から任意の認証機関を経由して「南三陸町で育ち、出荷された部材」という出自と品質を認められているのだそうです。
ではどのくらいの木製品が使われているのかというと・・・・聞くのを忘れました(ばかものっ)が、延べ床面積では4000平方mに満たない建物の中で、ボードや壁紙だけでも50000平方mにものぼるとか。それらすべてが、これから歩んでいく南三陸町の地域資源という財産であることを、内外にアピールしています。
たいていの場合は、柱だけであるとか梁を加えてとかの、主要部材を部分認証するケースがスタンダードですが、この役場は公共の建築として初めて、100%の木製品で認証を取得しました。どういうことかというと、南三陸町で森林業や製材業を営む企業はすべからく、あの未曽有の災害を受けた中で、この認定企業というお墨付きを以前から獲得してきたわけです。
こけら落としよりもずっと前に、町長の佐藤仁さんにお話を伺う機会がありました。
「水産認証という養殖水産物を対象にした地域資源の認証を、町内の関連企業に取得してもらったのです。これが海の幸。そして森林認証は山の幸です。我々は多くの大切なものを無くしましたが、復興を続けながら創造をしていかねばならないのです」
地場産業を育てなければ若年者の就労機会も回復できない。ならば地産の資源に付加価値をもたらそうという考えは、大きな志を抱いた一歩目、二歩目なのでしょう。復興のバロメーターは目で見えるところにしか関心が行かないものですが、災害には負けないという気概の感じられる取り組みでした。
記念に配られた手帳とボールペンも、表紙や筐体が森林認証を受けたもの。これで記録していくメモや覚書の一つ一つが、それを書く人々の復興から創造への軌跡となるのです。