「変な音がするんで開けてみたら、良い具合の焼け方でしたよ」
後藤選手のエスクードはメカトラブルではなく、燃調とのマッチングの問題のようで、ロムチューンの結果きわめてピーキーなセッティングになったことから、パワーバンドの下側から外れると吹けなくなる。という現象が音になって表れているようです。テスト走行で上まで回している音を聞くと、惚れ惚れするサウンドです。
天井知らずというわけには行きませんが、ノーマルのままのJ20Aながら、10000回転は楽に回っているでしょう。島監督曰く
「これ、今なら日本一速いエスクードになりましたよ。その分、下はスカスカです」
試走から戻ってきた川添君に聞くと、
「ロアは3000までですね。それ以下だと話になりません」
面白いのは、やはり後藤君と川添君とではこのエンジンの乗りこなし方が両極です。後藤君はとにか上まで回してパワーバンドを維持する。川添君は下限ぎりぎりまで落としながらもパワーバンドを外さない。
「もうさー、島さん。ドライバーをニコイチしちゃいたいよね」
と言ったら大爆笑でした。
さて本日はTDAなんですが天候が心配。対戦相手もどんどんエンジン載せ替えや過給器搭載のハイパワー攻勢。雨降りだとそれらの戦闘力が絞られるので、ドラテクがモノを言レースになる。
「僕はドライで戦って勝ちたいですよ」
とは川添君のプライド。しかし今回は彼のエスクードは軽量化対策に留まっています。どんな展開になるか楽しみです。
さて当日、天候は台風の通過にもかかわらず保ち続けての本戦。ギャラリーの誰もが二つの感想を口にしておりました。
「これほどガチンコの対決になるレースは今までなかった」
「ところで後藤君は今回から走り方を変えたのか?」
頂上決戦はハイパワー車が群雄割拠し、中でもFINALビースト社長のジムニー改はコース設定タイムの58秒を2秒縮めてくるうえ、最終コーナーから一つ手前の最もテクニカルなコーナーを瞬時に攻略してしまいます。
後藤選手はその様子を見て、本線直前にタイヤをジムニーとおなじマッドに変更。しかしこれが裏目に出ます。もともと後藤選手のゼロカウンターアタックに特化させたエンジンのハイパワー化は、オールテレーンタイヤとのマッチングも考えてのこと。マッドタイヤではわずかにトラクションがかかるようになり、クルマを振り回す際にタイムが落ちるのです。
一方の川添選手は、意外にもメンタリティーにプレッシャーをかけられたようで、背後から迫ってくるジムニー改のカムに乗った爆音に押され、例のコーナーの攻めどころで2速に落とす際シフトミス。最終ラウンドの結果は2位にとどまりました。
「ビーストの社長は私と同い年という経験値を持っているし、四六時中コースを走り込める環境にいますが、それは言い訳でしかない。30代半ばの彼らもまだ手玉に取られてしまうんですねえ」
島監督は苦笑いするばかりですが、後藤、川添両名の動態視力やドライブセンスが錆びているわけではなく、ハイパワー車ゆえに前走していてスピンする場面もあり、彼らはこれを咄嗟に回避する。この咄嗟の回避というのはただ事ではなく「前走車の前に出たら失格」というルールの中で、鼻先三寸のコントロールを繰り出すのです。
これでだいたいのところは読めるのですが、タイヤの選択、2速に入らなかった瞬間という場面こそが今回の敗因でしょう。実際に川添選手は内装をはがした程度の軽量化しかしておらず、その車両で2位に食い込んでいる。それを上回るのはジムニー改のパワーではなく、相手の駆け引きの卓越さです。後藤選手に至っては前日仕上がった車両を無理に、しかも単にタイヤを変えたがためのコントロール性能を落とす結末。もっと自身のバックヤードを信頼すべきでした。
と、加筆をしたらば島監督から連絡が・・・
「いまさっき点検した後藤君のエスクード、パワーステアリングが途中で故障してたらしく、油圧出なくなってました」
あー・・・ そりゃ振り回せないかー。