初売りの福袋、事前予約の抽選だっていうので まあどうせ当たらないだろうと思いながら申し込んでみたら ・・・当たった・・・ 年始めから運使い果たしたってヤツ???
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「ヒートバンパー展開完了! 既に灼熱化順調っ」
「実際に何が起こるかわからん。衝撃に備えろ」
洋上のMT号は、「MJ2」の離艦直後に防御シークエンスを発動していた。偽装コンテナパネルは対水圧のためだけに二重構造になっているわけではない。フレキシブルに角度を変えながら上空からの攻撃に対処する。そこに超高速粒子線が命中し、大気中の水蒸気を瞬時に『熱い氷』へと変質させた。
が・・・
これを受け止めたヒートバンパーは既に表面温度を450℃まで上げており、さらに温度は上昇する。『熱い氷』は実体化できずに元の水蒸気へ還元されてしまった。
「この間に潜って逃げられないのがこいつの欠点だな」
大利根七瀬は苦笑いしながら上空へ伸びるMJ2のロケット煙を眺めていた。
「八郎・・・無事に還ってこい」
急角度で高度を上げていくMJ2は、ほぼ秒速8kmという速度を維持しながら静止トランスファー軌道を目指している。この軌道からさらに静止軌道へと飛ぶのだが、トランスファー軌道に乗ってから数時間の軌道コース調整が必要だった。
静止衛星の軌道投入プログラムが、現在の日本ではその方法しかないためだ。地表から数百キロの近地点高度に対して、静止軌道にあたる赤道上空約3万6000キロに遠地点を結ぶ楕円軌道を、MJ2もトレースする。力学的な負担の軽減が従来のロケット打ち上げにおける衛星の軌道投入時の必然だが、今回はそのことも含め、Q衛星からの攻撃を回避する理屈もあった。
MJ2は基本的に「MJ号」と同様の空中戦艦として建造され、艦首に航空機のようなノーズを持ちながらその下部には艦船のようなみおしを備えたリフティングボディと、飛行時の揚力を稼ぐためのデルタ翼が大きな特徴だ。
トーマス・ナリタの提案によって主エンジンが大幅にアップデートされ、ツインノズル方式としてエンジン自体が2連装となった。
対消滅機関を成立させるために、その機械スペースを大きくとる必要があったためだ。
反物質の素材として主に窒素を利用し、加速器内でスーパーボルトを発生させ窒素の原子核と衝突する光核反応を起こす。その過程で幾度も変質する窒素同位体が、瞬時に炭素13Cやニュートリノ、陽電子を放出する。これが電子とぶつかり対消滅が誘発される。新エンジンは強力な磁場と電場で対消滅量をコントロールしながらスラストチェンバーに送り込むシステムだ。
当然のことだがこのプロセスでは有害なガンマ放射線が発生する。エンジンの稼働時にはエンジン区画は完全閉鎖され、ブロックそのものも鉛を主とする特殊金属の筐体によって封じ込めが行われる。
そのメインブロックを艦体後方の中央部に置くため、スラストブロックが左右に分割された。
トーマス・ナリタの概論によれば、要約された対消滅機関の仕組みはそのようなものだと承知せざるを得ない。マイティジャックのメンバーとしては、「爆発しなけりゃそれでいい」以上の専門的な質問をできる者が村上しかいなかったが、その村上は思慮深く、メンバーの不安をあおるような言動を慎んだ。
「作戦確認をしておこう」
7G加速から解放され、全員に異常のないことを確認しほっとした顔をしながら、当は言った。
「先の会長からの電文だが、Q衛星の爆破破壊は、衛星内に原子力電池の存在が確認されたために実行できない。万一、これが吹き飛んで大気圏内に落ちることを避けなくてはならない」
「それじゃあどうやってあれを黙らせるんですか?」
寺川が困ったという表情で尋ねる。
「観測によれば、衛星は既に大国の宇宙攻撃部隊が発射したミサイルをレーザーか何かで迎撃・爆散させ、それで生じたデブリを磁場で制御し自らの物理バリアにしているようだ。これを突破して衛星に直接とりつくしかないだろう」
「アストランダ―ウイングですか」
「そうだ。この艦よりは小回りが利くからな。それでも相対速度は秒速3キロに達する。事前にあらかたのデブリを始末してやらなくては、桂君の操縦も負担が大きい」
そこで、だ。と、当は胸ポケットから通信端末、腕のラッチからボールペンを取り出して宙に浮かせた。
「oh!」
突然、トーマスが上ずった声をあげた。
「どうしたプロフェッサー?」
「すみません。それ、『2010』でロイ・シャイダーがやったやつです。実際に見られるなんてすごいなあ」
何を言い出すんだと一同が呆れるが当は気にも留めずに続ける。
「この端末が衛星。ペンが本艦だ。相対速度を合わせつつ併走し、右舷をデブリ側に向け、改良型電磁ネット弾頭を撃ち込む。改良型は第二ドックで博士が作ってくれたが4発しかない」
村上が後を引き継ぐ。
「要は宇宙の清掃作戦だ。弾頭はデブリの手前で炸裂して放射状にネットを展開する。これでデブリを可能な限り大量にからめとって、慣性で衛星から引きはがす」
「ごみの回収はどうするんです」
「質量的には大気圏に落として燃やしてしまえばいいさ。大国が核弾頭を使っていなかったのは幸いだ」
「核、といえば、原子力電池なんて何で積んでるんですかね。けっこうでかい太陽光発電パネルを持っていたはずですが」
英が気になるところを突いてきた。当が答える。
「あの超高速粒子線の発射器に必要で、一緒に、Qが打ち上げ前の衛星に細工したのだろう。衛星の持ち主である某国も原子力電池の存在は否定しているらしい」
「細工ってレベルじゃあないな。某国の否定というのは疑ってかかるべきだが、今はどうでもいい話か」
「彼らは身の潔白の証明だという理由をつけて、奥の手を提供してくれている」
「ほう、そりゃまた疑ってかかりたくなる話ですな。何を提供してきたんですか」
「衛星の制御を取り戻すコマンドだ。だが奥の手だけに地上からの遠隔操作に対応していないという」
「ふーむ・・・結局桂くんチームの出番か」
そこへブリッジ後方のドアが開き、めぐみがふわりと浮遊しながら戻ってきた。
「隊長、打ち上げGの間は出来ませんでしたが、例のプログラムのダウンロードを完了しました。問題はどうやって衛星に、それもどこに機体を着接させるかです」
めぐみの報告を受けて当は考えを巡らせる。その間にめぐみは艦長席のコンソールに手を伸ばして慣性を相殺しながら床に足をつけた。
「そもそも有人衛星じゃないからな。図面を見た限りではほとんどの点検作業を衛星本体の外側から行う構造だ。ウイングは係留させアストランダーウェブッドで接近する段取りかな・・・副長は何をしている?」
「ウイングのコクピットをシミュレーターモードにして特訓中です」
「盛り上がってきたところ恐縮ですが」
計器板とモニターを交互に監視している源田が操舵席から報告してきた。
「ぼちぼち第2加速ポイントに到達します。軌道計算はAIがやってくれてますが、お待ちかねのエンジン点火は加速噴射も含めてここでやります」
「六さん、プロフェッサー。いよいよ新エンジンの本格発動だ。準備はいいか」
「理論的には単純な仕組みですが、反物質生成と捕獲・一時蓄蔵して磁場制御内で放出というプロセスは、地上のどの物理学研究所もやったことがありませんからね。まあ電気だけは売るほど作れて蓄電させられるんで、いざとなったら補助エンジンで電気推進でもやりますよ」
「No need to worry! 地上の試運転で反物質の生成は完璧にできました。放射線の封じ込めも筐体強度も申し分ないレベルです。ロクサン、be confident」
「ははっ。俺が作ったわけじゃないぜ」
「仕組みのことはいい。どうせ計器の数値を見てるしかないし、スロットルの塩梅はオートマ車みたいだ。二人ともうまく釜焚きしてくれよ」
源田はむしろ、姿勢制御の方が難しいと感じていた。秒速度を徐々に落としているがこれはロケット推進によるものだ。対消滅エンジンの「ひとふかし」がどれほどの加速につながるのかイメージできない。理論よりもそこを教えてほしかった。
「静止軌道に本艦を乗せます。主エンジン点火用意!」
どうにかなるさと、源田は覚悟を決めた。
「5秒前からカウント。スラストレバーは20%で!」
「2、1、点火!」
源田の腕がスラストレバーを押し出すと同時に、床下から微振動が伝わってくるような気がした。艦体後方ではトーマス理論通りに対消滅推進力が発生しているはずだ。ぐんっという急加速のGが体を襲う。
「機関正常。スラストノズルの磁場にトラブル認めず」
「目標軌道まで約90分。その後秒速3.6キロまで減速します!」
衛星投入においては、トランスファー軌道からの加速で静止軌道まで4時間程度を費やしているが、MJ2は多少の無茶を強いられ、軌道への進入を試みた。第二宇宙速度に達すると衛星軌道を離脱して宇宙へ飛び出してしまう。
MJ号の大気圏内最高速度はマッハ2・8。艦体サイズから考えてもとんでもない速度で飛んでいたのだが、秒速3キロに減速したとしてもマッハ9近くの速度となる。静止衛星軌道域に存在する衛星たちは総じてその速度で地球の自転と釣り合いを保ち、あたかも赤道上空の定位置に固定しているかのように見える。
仮に、MJ2が地球の自転に逆らい衛星軌道に達するには莫大な推力が必要であり、対消滅エンジンがこれをクリアしていても現実的ではない。ましてや迎撃する相手はそれだけの相対速度で飛んでくるのだ。衝突が回避できてすれ違いざまの一撃を、などという戦法は不可能に等しい。よって自転方向に飛びながら高度と軌道を調整し追跡コースを取らなくてはならない。そのくせ所要時間がいらつくほどかかる。
「捕捉追撃までに飯食ってられるなんてあほみたいだぜ」
源田が独り言ちしていると、アストランダ―ウイングの操縦席からも、おいまだかよと天田がぼやいてくる。
やがて進行方向にレーダー反応のあったQ衛星が光学映像でも観測された。衛星本体は10m四方のユニットを複数打ち上げ遠隔操作で組み上げたものだが、このユニットの中に、レーザー発振器として転用可能な地表観測用機器を巧妙に偽装したQの兵器が内蔵されている。
相対速度を保ちながら右舷1000mの距離まで接近したMJ2は、衛星を取り巻くデブリ群を除去するため、電磁ネット弾頭を発射した。
弾頭はデブリ群の手前で炸裂し放射状のネットを展開する。これがデブリに接触すると、プログラムされた質量に達したところで、八方に備わったマグネットバラストが互いに引き合い、ネットを球状に閉じ、慣性を維持したまま多量のデブリを持ち去るのだ。球状ネットはそのまま地球の引力に捉えられ、落花し炎上滅却される。
さすがに全てのデブリを除去することはできないが、アストランダ―ウイングの飛行航路を確保することには成功した。
「これよりMJ2を衛星後部の軸線に載せる。副長、正対あるいは追尾する目標にはレーザー攻撃があるそうだ。火線を見極めてウイング出動せよ。レーザー砲のみ撃退」
『了解、アストランダ―ウイング発進します』
「ゲン、軌道修正頼むぞ。寺川と先生は主砲で威嚇射撃」
「了解。主砲は荷電粒子発射システムに切り替える。ただ・・・」
武器管制を担当する村上はつぶやいた。
「太陽フレアから降っている電磁波の影響を受ける。たぶんビームは直進しないぞ」
「村上さん、Surprisingly okay! 拡散された方が破壊力を半減出来て、残った微小デブリを焼き払うくらいで衛星を直撃しないから」
「まあそううまく行くかどうかは、撃ってみなけりゃわからんな」
「大変です隊長!」
マリが叫んだ。
「東京湾上空に200m級の空中戦艦が出現との川上さんからの通信!」
「なんだと? Qか」
「MJ号に酷似しているそうです!」
※本作は勝手に書いているオリジナルです。同作関係者などとの関係はありません
さてだいたいの風呂敷は拡げたんですが、これをどうやって畳んだらいいんだろう?