Trend-Blue

  ~懲りない傾向~

パン屋にて

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作戦室からほど近いところに、老舗のベーカリーがあって、ここの品物は基地へ帰るときに土産にしてもいいほどのうまいパンを出してくれます。被災直後から定休日以外はフル稼働してくれて、材料をやりくりしながら、何とか焼きたてのパンを売ってくれています。

当初の一週間は開店時間を限定しながら、パンの種類は選べなくとも5個を袋詰めしてワンコインにて軒先での販売でした。これを日に3回、一回の販売で300セットくらい焼くのだから、店のキャパシティはとうに越えているはずでした。2週目の後半からは開店時間は区切りつつ、店内で買い物ができるようになり、購入できるパンの数もひとり8個に増えました。遠くから買いに来て並ぶお客や、家族構成によってはありがたいシフトだと思ったのですが、やはりそれは品薄を呼び、次々と焼かれるパンもすぐに売れてしまう。

すると、この売り方に対して不満の声が上がりました。

すぐ前に並んでいたおばちゃんが、以前のような5個入りで売った方がたくさんの人に行き渡ると、店主に食って掛かりながら、数分ごとに後ろに並ぶ客にリピートするうえ、

「ねっ、そう思うでしょ」

と、僕も巻き添えに。いやその、販売の仕方はその方が合理的だけど、店の方針に対して唱える異について合意を求めないでほしい・・・

「あっ、それじゃあさ、僕も5個までしか買わないから、あなたも5個だけ買って、あとは後ろのお客さんに回してあげますか。少なくともそれで6個は役に立つじゃない」

僕は意地悪くもそう提案したのですが、目を丸くしたおばちゃんは、

「そ、そうね。そういう考え方もあるわね」

と言い捨てて、もうこちらを振り返ることはしませんでした。彼女がその提案に乗って、3個分の権利を放棄したかどうかは定かではありません。言ってしまった手前、僕は5個だけ買って店を出ましたが、その際に店主が小さくサムズアップしてくれたのは、ちょっと楽しくなる瞬間でした。