忙しさにかまけて、この本を買い求めるのを忘れていました。喫茶店で朝飯をとりながら、ゆうきまさみさんや島本和彦さんの掲載はブログの素材に扱いましたが、その他のマンガも一通り雑誌掲載時に目を通しました。
中には自身の作品がどのように完結しているかを無視しており、そのカムバックとしての書き方について何も考えていないなあというものもあれば、しれっと自身の複数作品をサービスしてしまうという変化球もあります。
この企画の発起人は細野不二彦さんだそうで、彼は震災と被災地を「ギャラリーフェイク」の世界観で正面から扱っています。7月からはテレビアニメーションにもなるという、荒川弘さんの「銀の匙」だけが、カムバックものではなく、現役の連載のスピンオフとなっていますが、北海道を舞台とする物語の主人公の曽祖父・・・のもう一代前が、相馬と会津の出身という間柄の夫婦として描かれているところに、企画に沿った東北応援の意図が表現されています。
実は荒川さんのマンガが一番おもしろかった。
ただ、企画とは別に描かれていたという。かわぐちかいじさんの自衛官を扱ったマンガに関して、細野さんが直談判して掲載に組み込んだ経緯について、
「自衛隊員の活躍こそヒーローにふさわしい!」
という細野さんの見識は、否定こそしませんが正しくもない。自衛隊の救助・捜索・支援活動には、間違いなくめざましい初動復旧の威力と効果があったことは事実です。しかし、彼らを被災地に到着させるに至った「道路啓開」や、3月11日夜からの救助や現地初動のまさしく最前線は、被災地にて操業していた地元建設業者の作業員たちです。機材や社屋を津波に流されながらも、残った道具をかき集めて決壊した堤防をせき止めたり、寸断された道路を修復して車両を通行できるようにしたのは、土建屋(たぶんこれは不快用語だけれど、使っておこう)と揶揄される業界の人々です。
広報能力を持たない彼らは、その血みどろの活動をリアルタイムでメディアに提供することもできなかったし、それ以前にそのようなことをする必要すら感じていなかった。だから、「写真撮るからそこどいてください」と、野戦服とヘルメットの人たちに道を開けることにも即座に応じていたのです。半壊した家屋から、建設作業員がパワーショベルのバケットに被災者を載せて救出する姿は、言ってみればパトレイバーが両腕で要救助者を確保するような光景そのものですが、その行為は平常時であれば違法であり、表に出すことのできない救助の仕方。でも、それをやらなかったら、その被災者は取り残されて命を落としていたのです。
かわぐちさんの読みきり作品には、ただの1人も建設作業員らしき登場人物もモブも描かれていないのが残念です。
しかしこの本の収益は震災孤児の育英基金や、大震災出版復興基金に寄付されるという。それだけでも、収録されたそれぞれの漫画の内容のことは棚上げしても良いのだろうと思い、あらためて読み返しています。